閑話➃ これから、ふと君のことを思い出すことがあるだろう
「クリス!見てくれ、カニだ!」
アレックスが叫び、クリスの裾を引っ張ってカニの近くまで連れてくる。
クリスはされるがままに付いて行き、波打ち際へと二人で座った。
夕暮れ時の砂浜、アダム達との合流を待つクリスは、せっかくだからとアレックスに宿を連れ出されて砂浜へと来ていた。
「僕カニなんて初めて見たよ」
アレックスがカニを持ち上げながら言い、クリスはアレックスを見て笑った。
「何がおかしいんだ」
「いや、何か最初思ってたより、自由で面白い人だなって思っただけさ」
クリスがそう言うと、アレックスは砂浜から立ち上がり、カニを海へと逃がしてから振り向いた。
その姿は少年のように幼くも、凛とした女性の逞しさが感じられる佇まいだった。
なびく金髪―それもクリスより薄い、優しい色の金髪が美しく風になびいている。
夕日に照らされ、波打ち際がキラキラと銀色に輝く側で、彼女は切なそうに言った。
「クリスは…いい奴だよな」
クリスは「テヘヘ」と無邪気に笑うと、そうだろ?とでも言いたそうにアレックスの方を見た。
クリスの声が波打ち際に溶け込み、海の音にかき消されていく。
もしかしたら、クリスはアレックスからの気持ちに気づいていたかもしれない。
アレックスから見て、彼女の明るい声に隠された不安の色を、クリスは見抜けていたように見える。しかし、見抜けたとしても、彼自身の中に潜む別の想いがその視線を遮っていたのかもしれない。
彼女の心の中では、クリスへの想いが溢れていた。けれども、それを伝えることはできなかった。彼女の愛は、彼の幸せを願う形でしか存在できなかったのだ。
でも、喧嘩しながら一緒に料理したり、夜遅くまで話し込んだり、朝起きた時、隣で笑い合ったり。
ほんとはクリスと共に人生を…。
「アレックス!」
アレックスが考え事をしていると、クリスが急に水をかけてきた。
「おい!何するんだ、この!」
アレックスも負けじと水をかけ返し、二人はずぶ濡れになってしまった。
互いに潮風にさらされ、全身が潮水で濡れそぼった様子を見て、顔を見合わせながら笑い声を上げる二人。
「「ハハハハハハ」」
「最高の友達だな」
彼女は小声でそう言い、クリスの横顔を愛おしそうに眺めた。
クリスは夕日を指差し、アレックスに言った。
「綺麗だな!夕日から銀の海へと、橋が掛かってるように見えるぜ」
「そうだな。またクリスとこの景色を見たいよ。でも、
――別れの時間だ、クリス
クリスはその声で目覚めた。
枕は濡れ、頬には水が伝った跡が残っている。
クリスは深い息を吸い込み、静まり返った部屋の中で目を閉じた。
胸の中で疼くような感覚が、夢と現実の境界をぼんやりと揺らしている。
「また...」
クリスは手の甲で目元を拭いながら、低く呟いた。




