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(β版)  作者: 自彊 やまず
第七章 警察編
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第六十七話 潮風に騙され➀

 クリスとアレックスはホテルに着き、受付で部屋の予約を始めた。


 シックなカラーに統一された家具、生け花で彩られた上品なホテルのフロントに、キッチリと制服に身を包んだ受付。


 ようやくたどり着いたこのホテルは、一泊でもそれなりの費用がかかるが、週末ということもあり街中の手頃な宿はどこも満室だった。

 そのため、何度も追い返されてきた二人にとって、ここはまさに救いの場所だった。


「一部屋で」


 クリスがそう言うと、アレックスが慌てる。


「マジで言ってます?」


 クリスは悲しそうな顔をして聞き返す。


「え、俺臭い?服に少し血はついてるけど…」


 アレックスは呆れたように言う。


「いやいや、女性と二人で一部屋に入ろうとするのおかしいでしょ」


 クリスはウンウンと頷いたが、途中で少し考えてから言った。


「え、アレックス女!?確かに中性的だけど、ま、まじ!?」


 アレックスは拳を突き出してクリスの顎にぐりぐりとめり込ませる。


「僕は女だ!」






 その頃フィシニアの中央部で、一人の男が慌てて酒場に入って行った。


「おい、あの指名手配犯のクリスってやつ、今見てきたぞ!吸血族優生組織の何とかってやつ倒してた!やばいってあいつ」


 男は興奮して喋りながらいつもの場所に座ると、飲み仲間たちに事の次第を報告する。


「実はな…」


 飲み仲間たちは豆を口に入れ、ビールを飲みながら聞いていた。


 全て聞き終わると、その中の一人が男に言う。


「へぇ、鉄塔の点検中、裏からこっそり見てたのか。でも、鉄塔を壊したならその吸血族の野郎の方が悪くないか?自分のことを優生吸血族って言っちまってるし」


 一人がそう話すと、もう一人の髭男もウンウンと頷いた。


 さらに他の男が喋り出す。


「しかもな、俺聞いた事あんだ。革命軍ってやつがビサを転覆させようとしてて、それが成功したら貴族廃止、王政に変更だとよ。んでその王が指名手配犯クリスってわけだ。ステティアに言った時、革命軍のビラもらったやつが言ってたぞ」


 それを聞いた髭面の男が驚く。


「それ、俺も聞いたことあるぞ!ぶっ飛んでると思ってたが、意外とこのクリスってやつは血筋があるらしいしな」


 さらに、クリスを陰で見ていた男は皆に顔を近づけ、ヒソヒソ声で言った。


「正直言うと、クリスってやつ、クソ強いし、もしあれが俺ら平民の味方なら、俺も革命軍に入るぜ」


 しかしもう一人の男は首を傾げる。


「本当か?どうせ王様になったら奴も俺らを虐げるだろうよ。ま、今の大臣を全員どうにかしてくれるなら少し考えるけどな」


 それを聞いていた隣のテーブルの男が、ビールをドンと乱暴に置いて言った。


「革命?俺達と一緒に戦うか?」






 翌朝、クリスとアレックスがバイクに乗る。


 心なしかクリスはそわそわしていた。


「あんまくっつくなよ」


 クリスがアレックスに言うと、アレックスはニヤニヤしてクリスに言う。


「あれ?ウブなクリス君はぁ、女性に抱き付かれると照れるのかなぁ~?」


 しかしクリスも負けじと言う。


「暑いから離れてろってことだよ。第一くっつかれても、あるはずのもんが何もなかったから女だと気づかなかったんだよ」


 それを聞いたアレックスはヘルメットの上からクリスを殴った。

 クリスが思わず頭をさする。


「ま、僕は一人称的にも男と間違われるから、これくらいで許してやるよ」


 その後すぐにクリスとアレックスはバイクでフィシニアを後にし、カドラテルへと向かった。


 砂漠地帯から一気に沿岸へと抜け、街が発達している沿岸部に出る。

 街はヨーロッパ風の街並みで、蒸気機関よりも、畑や大きな歯車のある海水淡水処理場が目立っていた。


 その真ん中をバイクで通り抜けるクリスとアレックス。


 人々はその音と速さに驚き、馬や牛は荷車を引いたまま暴れた。


「気持ちいい風だな。アレックス。海風が砂漠で焼けた頬に沁みるけど」


 クリスはそう言い、砂浜まで降りて波打ち際を走り始める。

 砂漠用で横幅の太いタイヤが、湿った地面を力強く蹴っていた。


「僕はこの風が怖いんだ。運転に集中しろ!」


 アレックスはクリスを叱りつつも、日焼けのせいか頬を火照らせてその背中にしがみついている。

 クリスはうっすらと日本の記憶を思い出し、少し笑った。


「そう言えば、小瀧夏は海に行きたいって言ってたな」


 アレックスは首を傾げ、前世の話?とクリスに聞く。


「そ。前世はね、一応記憶だけど、その時々に感じたこととか、痛みも目の前の光景も、全部鮮明に頭の中に入ってる」


 不意に打ち寄せた波がクリスとアレックスの足を濡らすが、海水はひんやりとして気持ちよかった。

 アレックスは静かにクリスの話を聞く。


「やっぱり自分は佐藤雄志の人格を少しは受け継いでいると思う。ちゃんとクリスはクリスだけどね。だからか...、いや、…わかんない」


 クリスは何か言葉が出ないようだった。

 少し口ごもったクリスに、アレックスがすかさず言う。


「エマが気になる?」


 クリスは図星を当てられたようで少し黙ったが、ゆっくりと口を開いて答えた。


「分かんないんだ。エマが好きなのかとか。さっきみたいに、前世では小瀧夏は海に行きたいって言ってたから、”この景色を見せてあげたいな”なんて思ったりもしたけど、それは佐藤雄志が小瀧夏に思っているのか、俺がエマにきれいな景色を見せてあげたいのか、わかんない」


 アレックスはそれにくすくすと笑い、クリスに言った。


「いやぁ、悩め少年よ。若いってのはいいもんだな!」


 クリスはそれを聞いて目を細めた。


「あんた何歳だよ。そんな変わんねーだろ」


「君の一歳上」


「ガキじゃねーか」


 そんな他愛もないことを話していると、だんだんと正面にカドラテルの最奥にして目的地、警察庁のある崖が見えてきた。


「あれだ。アレックス。こっから先は任せるぞ。諜報部の腕の見せどころだ」


 クリスが少し後ろを向いてアレックスに言う。


「おっけい。僕に任せて」


 アレックスがそれに返す。




 少ししてから、アレックスがクリスの後ろでぼそりと言った。


「綺麗な景色を見せてあげたい…か。優しいね。クリスは」


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