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(β版)  作者: 自彊 やまず
第七章 警察編
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第六十四話 恋のパワーは強力で残酷➀


「アレックス、暑い。もっと離れてくれ」


「文句言うな。僕だって好きで君に掴まってるわけじゃない。この機械が怖いんだよ。それに、僕は正面切って戦ったりできないから、そこんとこよろしくね」


 そう言われたクリスはバイクを走らせながら頭を掻いた。


 ただでさえコートを着て、誰にも顔を見られないようフードを被っているのに、灼熱の下二人がバイクの上に跨って、熱くないわけがない。


「クソ暑い。溶けそうだな」


 見渡す限り灼熱の荒野が広がる中、クリスとアレックスは最北東にある警察庁へと進んでいた。

 荒野にあるのは毒々しい色のサボテンか岩だけ。

 昼を過ぎ、日差しが強くなってきたためか、アレックスはゴーグルを掛け直し、感じたことのない風圧に身を震わせていた。






 クロノスから正式に革命軍へと配属されたクリス、アレックスに課された仕事は二つ。


 警察庁の事前偵察と、アダム、シトラス部隊への情報報告。


 これは、クロノス教において警察への諜報活動を続けて来たアレックス、シトラスを中心に警察庁を潰し、ゼリクの情報を得るとともに、ビサの中心的な守衛機関を機能不全にしてしまおうという作戦だ。


第一段階はクリス、アレックスの偵察。


第二にアダム率いる各地の革命義勇軍、シトラス率いるクロノス軍の突入。


そして最後は警察長官エクス、副長官アオイの捕縛、または抹殺。


 ここまで大々的に行われるクーデターは、半分失敗に終わったラオの一件を除けば、第四紀始まって以降初となるだろう。

 そのためライとリリィは、これが成功すれば各地で反旗を翻す革命軍がさらに現れると予想。

 特に共和制国家ビサにおけるエクスの信頼度は絶大であり、諸国家を征服した時のビサ軍総大将として、彼の正体を知らない民衆からは人間界の英雄とも言われている。






「アレックス、警察庁まであとどのくらいだ?」


 クリスが聞くと、アレックスは少し考えてから答える。


「わからん。でもまずフィシニア市を通って、その先に沿岸都市カドラテルがあるから、まだまだ先だと思う」


 そんなことを話していると、すぐに二人は砂漠の中にポツンと現れたフィシニア市街を見つけた。


 遠くからでも見えるその街は、昔は栄えていたのだろう、錆びた高層建築がいくつもある。

 どの建物にも巨大なクレーンと歯車が付けられており、その真下は水源となっているらしい。


 数十年前、水源の発見により潤ったフィシニアは国として独立していたが、ビサの海岸沿いに作られた浄水技術、高度な蒸気機関技術により衰退、さらにビサからの征服により“フィシニア市“と呼ばれるまでに規模が小さくなった。


 その街はクリスに目に美しく映った。

 市街の淡く、寂しげな雰囲気と、未だなお砂嵐に耐え続ける巨大な鉄の塔。


「今日は時間的にもここで一泊だな。いいか?」


 そうクリスが聞き、アレックスは了解と言った。

 街に入るまであと数百メートル。


 二人が街へ近づき、鉄塔を見上げてその大きさに圧倒されていた丁度その時、おそらく後方から、何か光るものが飛んで来た。

 クリスがサイドミラーで光ったそれを見て叫ぶ。


「伏せろアレックス!」


 その声にアレックスが伏せ、クリスは急ブレーキをかける。


 その何かはクリスのすぐ近くに落ち、砂埃をあげて地面に突き刺さった。


 舞った砂が口に入り、アレックスが嫌そうな顔をした。

 東へ向かっていたバイクは丁度北を向いてスライドし、クリス達はは砂漠のど真ん中で止まった。


 クリスは“何か”が刺さった西日の方へ眼を凝らす。


「クソッ。逆光で見えねぇ。何が飛んで来たんだ」


 バイクが止まっても、変わらずアレックスはクリスの背にへばりつき、頭を隠してバイクに跨っている。


「アレックス。一旦降りよう。このまま進んでも避けらんねぇ。敵なら敵で徹底的にぶちのめさねぇと」


 そう言うと二人はバイクを降り、バイクの後ろにアレックスが隠れた。


「刺客の可能性は十分にある。クリスは全国で指名手配されてるからな」


 アレックスがそう言い、バイクの隙間からクリスを覗いた。

 クリスが辺りを見回すと、近くの地面に何か棒のようなものが刺さっているのを見つけた。


 クリスがそれに近づき、手で触れてみる。


「何だ、これ」


 それは、クリスの身長の半分に相当するほど巨大なネジだった。この圧倒的な存在感に、彼は一瞬言葉を失った。


 果たして、この大きさになればネジと言うのか定かではないが、先の鋭く尖った鉄の棒が地面に突き刺さっている。

 人体に刺されば即死だろう。


 さらにクリスが少し触れた時、まだネジは少し震えていた。


 恐らく先ほど飛んで来たと思ったものは、上空からこのネジが降って来たのだろう。


「サイドミラーが光ったから後方から来たと思ったが、空から降って来たのか…。にしても何故」


 クリスが考えているとアレックスが急に叫んだ。


「危ない!クリス、避けろ!」


 クリスが身の危険を感じてその場を離れると、丁度そこに二本目のネジが降って来た。

 槍にも似たネジが砂の上に突き刺さる。


 アレックスがクリスに忠告していなければ今頃クリスは串刺しだっただろう。


「こ、これは刺客からの攻撃なのか?それとも上空で何かが起こっているのか?どういうことだ!!」


 クリスが危険を察知し、バイクの側面に取り付けられたピストルを取ろうとすると、今度は上空から複数の鉄パイプが降って来た。


 銀色の凶器が地上へと命を奪いに降りてくる。


「まずい!一度岩陰に隠れないと」


 クリスがバイクを置いたまま砂漠を走り出し、アレックスの首根っこを掴んで近くの岩陰に身を潜めた。


「た、退避するのかクリス!」


 慌てるアレックス。


 クリス達が岩陰に隠れてすぐ、鉄パイプはザクっと音を立てて、砂漠のあちらこちらに刺さる。

 それはクリスを狙ったというより、砂漠にランダムに降って来たという方が正しく、クリスもまだこの現象を“攻撃”とは見定め切れていなかった。


「何なんだこれは、まだエクスには俺たちの位置は割れていないはず。とすれば自然現象か、俺の首を取りに来た賞金稼ぎかってところ…」


 クリスは岩陰からひょっこりと首を出して空を見渡す。

 しかし、ヘリや飛行機等、それらしきものは見当たらなかった。


 というか、そんなものが存在するはずもない。


 アレックスが腕の時計を見てクリスに言った。


「日が暮れるまで約一時間。早くしないと、砂漠の夜じゃ凍え死ぬぞ」


 それを聞いたクリスは、岩にもたれかかってアレックスに言った。


「上等。確実に30分でこれを解明して、30分でフィシニアの宿まで入る。計1時間。あまり…この王子様を舐めるんじゃないぜ」






 部屋の中央に置かれたテーブルには約十人の役人が座っている。


 その一番奥には筋骨隆々の元軍人、現警察長官白髪の吸血老人エクス。さらにその後ろには副官である、容姿端麗な女性吸血族アオイが控えていた。

 人間族の英雄として名高いエクスも、結局は吸血族の力と永遠の命を欲した。つまり、戦争での功績を称える褒賞として、ゼリクの血を吸収したのだった。


「で、結局その件は検挙できたのか?」


 エクスの問いに高官らしき男が答える。


「いいえ、エクス様。ですが…」


「大丈夫、大丈夫だ。そう慌てるな」


 エクスは焦る男をなだめる。

 彼は席を立って男の元へ行くと、その資料をふんだくって読んだ。


「ほうほう。君は新人で、一般吸血族の期待のホープと」


 その男は肩を震わせてエクスの話を聞いている。


「待て待て、俺がお前を殺すように見えるか?そんな冷酷じゃないだろ、俺は」


 エクスがそう言うと男はほっとした表情になる。


 エクスが資料をアオイに渡し、仕事をそのまま引き継ぐように言い、それからまた喋り始めた。


「なぁお前、蒸気機関の第一人者サイラス技師は、死刑になったことを知っているか?」


 男は首を振って“いいえ”を示す。


「そうか。サイラス技師は別に人を殺したわけじゃないし、人を騙したわけでもない。なんでこんな最期を迎えたか分かるか?」


 男は目を泳がせるが、それからすぐに答えた。


「秘密を知りすぎた…から?」


 エクスはそれを聞いて感心したが、すぐに人差し指を横に振る。


「残念。だが良い線いってるじゃないか。正解は、俺の部屋でおならしたからだ。いやぁ、あの時は色んな人に怒られたよ。流石にあいつは殺すなってな」


 男は訳が分からないという風にエクスを見た。


「え、面白くない?面白いだろ。おならだぞおなら。ほら、笑えよ」


 エクスがそう言うと男はハハ…と乾いた笑みを浮かべる。

 しかし会議室の中は彼以外、誰一人笑っていなかった。


 すると暫く立ってニヤニヤしていたエクスが机に腰掛け、真顔になって言う。


「まだ分かんねぇのかゴミ屑。おならで殺された奴がいるのに、俺の手を煩わせて生きている奴がいると思うのか?気づいたらすぐ謝るだろ、普通」


 それを聞いた男の顔は一気に青ざめる。


「は、え、あ、も、申し訳ございませんでした!この度は私のふて、不、際であ、ああ」


 男がエクスの顔を見ると、その目は既に人を見る目ではなかった。


「連れてけ、豚の餌だ」


 エクスがそう言うと、会議室の入り口を警備していた男達が両脇を抱え、しくじった若い役人を椅子から引きずり下ろす。


「いやだ、いやだ!助けてくれ!あぁ、嫌だぁあああああ」


 男は警備の二人に入り口まで引きずられ、バタンという扉が閉まる音と共にその姿が見えなくなった。


 男が部屋から連れていかれると、会議室の中は一気に静まり返る。

 その中でエクスが歩いて自分の席に戻り、皆に言った。


「さ、続けよう。じゃぁ、二課から行こうか」


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