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(β版)  作者: 自彊 やまず
第六章 過去編
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第六十話 これからどうすると?➁

 途中エクス軍に追われながらも南端へと辿り着くと、三人の前には、錆びついてボロボロの船が現れた。

 帆も波風にさらされて劣化しており、もっと良い船があったのではないかと三人で話すが、そんな贅沢を言っている暇も無い。


 よく見ると、甲板には怪しげな若い女性が立っていた。


 恐らく彼女がリリィなのだろう。

 彼女が三人を見つけると、上品に深くお辞儀をした。


 三人は彼女に近づき、船に乗り込む。


 するとリリィがすやすやと眠るクリスを見て言った。


「この方がクリス王ですね。私、カムチャツカ・リリィは前国王からお話を聞いております故、何なりとお申し付けください」


 そう言った後、リリィは三人に目を向ける。


「皆様、私はクロノス教教祖、リリィと申します。先代ジョージ王から、教団の資金を使い、クリス様が再び国王になられるまで補佐するよう命ぜられました。これからよろしくお願いいたします」


 そうして彼らは、リリィによって船の奥へと誘われていった。


 ハンスは船室でジョージからの指示書を最後まで読み、あとはリリィに任されていることを知る。

 そしてリリィに行き先や計画を聞くと、リリィからある程度の説明があった。


 リリィによると身を潜める場所は“旧日本”という場所であり、大陸東端の島らしい。






 ライは本当にそんな場所まで行けるのかと不安になりつつも、すぐに皆と別れて自分の船室に入り、巾着にあったジョージからの手紙を出す。

 中にある四枚の内から、自分に向けられた一枚をテーブルに広げた。


 揺れる船の中、弱い光を放つカンテラの下で、前屈みになって一文一文読み進めていった。

 力の籠り、武骨でありながら綺麗な字。

 職務中は気が付かなかったが、まさにジョージの性格そのものというような字の書き方が、ライの口角を少し上げる。


 静かに、ゆっくりと時が流れた。






 ライは最後の一文を読み終え、椅子に座って、背もたれにどっしりと体重を預けた。

 僅かな期間ではあったが、共に修羅場を乗り越え、かつ最も尊敬する存在からの別れの言葉は、ライの胸に深く、重く沈んでいった。






 ライは暫く余韻に浸ると再び甲板へと戻り、鼻水を拭いながらハンス、ランファンとリリィに話しかけた。

 どうやら何か揉めているらしく、なぜかランファンが困った顔をして誰かに話しかけている。


「どうして付いて来た!駄目だ。君はここにはいられない。今すぐ帰るんだ」


 ランファンの向く先には、まだ五歳くらいの少年がいた。


 ライにはその顔に見覚えが無く、リリィも困っていたが、ハンスが二人に説明してくれた。


「彼はアダム。ジョージ公の弟、スリーリーブス・ブレイブハートの息子。一応王族ではあるが継承権はなく、生まれてすぐに病で父親を亡くし、安全面の理由からランファン邸で育てられていた。で、彼がこっそり私達に付いて来てしまったようなんだ」


 リリィが首を傾げて大臣三人衆に聞く。


「お母様は?」


 ハンスが答えた。


「すぐ祖国のイストパレス皇国にお帰りに。政略結婚でしたからね」


 アダムはランファンが直接育てることは無かったものの、彼にとって乳母が母であれば、ランファンが姉のような存在で、冷たい実の家族と違いよく慕っていた。


「ランファンさん!おねがい。ぼくころされちゃうよ。ぼく王族なんでしょ?」


「分かってる。でも、この旅だって途中で死ぬかもしれない危険な旅。お前を連れて行くわけにはいかない」


 ランファンがそう言うと、アダムの顔がくしゃっと崩れる。


「えーん。ひどいよランファンさん!かぞくだとおもってたのに!」


 しかしランファンはアダムを抱き上げて船から降ろそうとする。


「このままその道をまっすぐ行けば帰れる。この地は私達と行くよりも安全なはずだ。信じてくれ」


 しかし、その途中で岸にある茂みから一人の男が出てくる。


「おい、いたぞ!あれがハンス一行だ!間違いない。このリモン様が言うのだから間違いなァい!!」


 男は大声でエクス軍を呼び、その声に呼応して奥からたくさんの松明が近づいてきた。


「クソッ。アダム、いい子にすると約束しろよ」


 ランファンはそう言うとアダム、クリスを船室に入れ、ハンスが全員に出航の合図を出した。


 クロノス教から助っ人としてきた三人の船乗りがアンカーを巻き上げ、帆を広げる。

 ライは迫りくるエクス軍に弓矢を放ち、僅かながらも牽制した。


「早く出してくれ!」


 ライがそう叫ぶと同時に船は離岸し、深夜、真っ黒な大海原へと進み始めた。






 道中様々なトラブルがありつつも旅は進み、一行はユーラシア大陸に到着、そして上陸した。


 そしてさらに、しんしんと雪の降るユーラシア大陸の山中まで来たときのこと。

 始め三人はリリィを信頼していなかったが、長く旅を続けていく中で、段々互いを信頼するようになっていた。


 先頭で、リリィがシベリアケブカウマに乗りながら言う。


「ここも十分寒いですが、ここから先はさらに気温が下がり、高度も上がって過酷な環境になります」


 ハンスはクリスを抱え、熊の毛皮でできたコートを羽織って馬に乗っていた。

 乾燥してカサカサになった唇を動かし、リリィに言う。


「君は何でも知っているんだな。見たところ私よりも年下のようだが、大したもんだ」


 リリィはそれに答え、にこりと笑った。


「ありがとうございます。知り合いが多いんです。それで沢山の情報が私に。それと、言い忘れていましたが、これから行くのは旧日本という場所の中でも、私が以前お世話になった病院があるところ。そこまで行けばビサ軍も来ないかと」


 少し後ろから付いて来ているランファン、ライとアダムは、現地の荷物持ちに急かされながらも、馬の操作に手間取りながら一生懸命山を登っていた。


 ハンスはリリィに、さらに問うた。


「君は何故私達を補佐する。この質問はこれまで何度も聞いてきたが、いつだってはぐらかされてきた。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


 リリィはしばらく考えると、馬を止めて言った。


「私には二つの夢があります。一つは私の病を治すこと。これは、旧日本にある病院が稼働していれば叶うかもしれません。もう一つは、私の治める地域をつくること。ジョージ様は、生前にクリス様の作られた国であれば、その中にクロノスの自治区を作ってもよいと許可をいただきました。つまり、この二つの夢を叶えるため、今回の話に乗らせていただいたのです」


 勿論この時はまだ、リリィがゼリクの抹殺を行おうとしていることや、これまでの彼女の背景などを微塵も知らなかったため、ハンスはすんなりと納得した。


 ハンスは頷き、リリィを見て言う。


「そうか。夢が実現できると良いな。いや、私達が実現させるのか。ハハハ」


 そこでライ、アダムとランファンが追い付き、ガイドの男と荷物持ちの馬を引く男と共にハンスの隣に並んだ。


 すると急に、ランファンが東を指さして言う。


「さぁ行くぞ!私たちはこんなところでぐずぐずしてられん!一刻も早くクリス様を育て、ルバモシを再興するのだ!」


 ランファンはそのまま皆の前に躍り出た。

 しかし、急に速度を上げさせられた馬がバランスを崩し、ランファンが地面に振り落とされてしまった。


「痛っ!」


 それを見たライ、ハンス、リリィ、アダムが笑う。


「何をお前たち!ガイドも呆れた顔をするんじゃない!こら、ランファン様を笑うでない!」






 そこから一行は一年かけて大陸を横断し、遂にユーラシア大陸東端へと着いた。

 そしてさらにまた小型船で日本列島へと渡り、日本列島西部”キュウシュウ”へと辿り着く。






 アダムが一番乗りに地面へ降り立ち、両手を上げて喜んだ。


「着きました。ここは”旧日本”のハカタコーです。港の部分は波に浸食されてしまっていますけどね」


 リリィが船を止めた場所には硬い、真っ黒な地面があり、リリィに聞くと、何でも“アスファルト”と言うらしい。


 それからリリィが錆びついた小型蒸気船から降り、その後ろを三人が付いて行く。


 旧日本には見たことのないような灰色の建物“ビル”が林立し、それらの全てに緑のツタが巻き付いていた。

 リリィは鉈を持って先頭を歩き、ジャングルと化した世界を進む。

 ライたちが目にする日本の景色は圧巻で、どれもが初めて見るものばかりだった。


 特に日本列島は固有の動植物で溢れており、体長数メートルにもなる尾が虹色のオオトカゲや、神々しい毛並みを持った白い鹿もいる。


 それらと会うたびにアダムの心は踊り、彼にとっては全てが新鮮な体験だった。






 それから三日三晩歩き、ようやく着いたのが“モジ”という場所。

 ライもリリィに全てを聞くまで知らなかったが、当時第三次世界大戦により東日本は壊滅し、日本最大の病院はこのモジ、政府の主要機関等はシモノセキに移されることとなったらしい。


 ビルと植物に覆われた奇妙なジャングルを抜け、暫く山を歩いて急に出て来たのが“国際日本病院”。


「でかい、いや、でかいというか、もう町のようだ」


 ライが山の中腹から麓を見ると、そこら一面が病院の敷地だった。

 ハンスが水を飲み、膝に手をついてから言う。


「でも、ここには人なんていないな。人が生活している形跡がないし、気配もない」


 しかし、リリィはニコニコしてハンスに言った。


「いいえ、いますよ。AIという人がいます」


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