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(β版)  作者: 自彊 やまず
第六章 過去編
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第五十八話 2257

―時を遡ること紀元前30万年。


 地磁気の逆転や異常な太陽フレア、その他さまざまな要因により、地球上では特異的な環境が形成されていた。


 その影響を受けて旧人類、ネアンデルタールから誕生したのが、“吸血鬼”ヘマト種。

 彼等は同じく旧人類から派生した“人間”ホモ種とは異なり、自身の生命力を維持するためにホモ種の血液を利用することができる体の構造を持った。

 それにより格段な長寿を実現し、ホモ種の約10倍の寿命を持つことになる。


 しかし、その中でもさらに異常な回復力を持った者が、かつての”ゼリク”だった。


 ゼリクの過去は分からない。


 しかし、彼が(いにしえ)から、少なくともローマ帝国時代から生きていることは分かっている。


 そして二人の眷属をつくった。

 それがカシムとブルート。


 彼等も元は人間であったが、ゼリクの血を分け与えられたことにより特殊な吸血鬼となる。


 それはいつ頃であるとか、何が原因なのかとかは分からないが、つまり彼等もゼリクと同じように古から生きる存在であるということだった。






 それからさらに時が経ち、西暦1940年。

 第二次世界大戦中。


 吸血鬼達は各地で妖怪やモンスターなどと差別されながらも、その存在を隠して生き続けて来た。


 そんな時、リリィ・カムチャツカとブルートが接触する。


 リリィはソ連に住む一般庶民だったが、敵国の兵士として戦場から逃れて来たブルートと恋に落ちた。

 互いに敵国民同士にもかかわらず、二人の恋は燃え上がる。


 しかし、ブルートが自身の寿命の特殊性を打ち明けた時、リリィはそれを受け止めきれなかった。

 最初はリリィも自分だけが年を取っていくのが辛いと思い、愛ゆえの拒絶をしていた。


 ところが、次第にブルートは二人が結ばれることを強制するようになり、逆にリリィからブルートへの愛情が無くなっていく。


 そして遂に、ブルートはリリィを気絶させ、強制的に自分の血を輸血して愛する人を吸血鬼化してしまったのだ。


 起きて初めて自分が吸血鬼となったことを知るリリィ。


 自分が実際に吸血鬼となってしまうまで、そんなことができるとも全く知らず、さらにこれから長い月日を生きていくという事実に打ちひしがれた。


 当然リリィがその現実とブルートの支配に耐えられるはずもなく、彼の前から姿を消す。


 それ以来、彼女はブルートと、彼から聞いた諸悪の根源ゼリクを憎むことになった。






 そしてさらに時は経ち2004年。


 ここで奇しくも二つの出来事が起こる。


 一つはクロノス教の誕生。


 リリィを預言者とし、彼女が吸血鬼化されたことへの苦しみから解放されるために始めた小さな儀式が、次第に周りを巻き込んで大きくなっていった。


 もう一つの出来事は、小瀧夏と佐藤雄志の誕生。


 彼等は特殊な体質を持っていた。






 次に物語が動くのは2020年。


 東京オリンピック延期の年、小瀧夏が死亡。佐藤雄志は翌年に死亡。


 彼等の入院していた病院は二人の記憶をデータ化することに成功し、病院内で保存した。






―ここまでは地質年代第四紀の話で、


 ここからは地質年代第五紀の話。


 2024年1月、ロシア、アメリカ両国首脳が同時に暗殺される事件が起きた。


 それと同時に名乗りを上げたのはシーク・ガイア(母なる大地を探せ)一味。


 彼等はこれまで鳴りを潜めていた吸血族ヘマト種であり、暗殺事件は、この星のどこにも故郷のない彼等からの、ホモ種への宣戦布告だった。


 生態系の頂点に立つべく、温厚な彼等は武力行使へと転じる。


 世界各地で様々な兵器が使用され、これをきっかけに世界は第三次世界大戦へと突入した。

 ヘマト種とホモ種の戦争、ホモ種とホモ種の戦争。

 そして、その戦争は一つの核兵器で終末を迎える。


 ホモ種の使用した核兵器が南半球を壊滅させ、100年間地球を粉塵で覆った。


 その間に地球は温暖化、砂漠化が進み、天候は荒れ狂い、水位は上昇。

 最も地球上で変化したのは放射線濃度。


 これにより大量の生物が絶滅し、新たな環境へと適応した新生物が台頭した。

 しかし人類も進化し、放射能に耐えうる身体を獲得。


 そんな中、ヘマト種を含む人類は互いに支え合い、新たな文明を起こした。

 それが現在の蒸気機関技術。


 電力の生成できない状況、僅かな人類が生き残った状況において、石炭等の化石燃料は人々の活路を開いた。





 さらに粉塵で闇に包まれた100年が過ぎ、太陽が地球へと姿を現すと、そこには砂漠に包まれた世界が露わになる。


 これまで残っていた第四紀の建造物は砂に埋もれ、エッフェル塔でさえラオの中心で小さなシンボルとして頭を出すだけとなった。


 そこから段々と植物が生え始めるのだが、それと同時に吸血族の支配も始まる。


 吸血族はこれまでの歴史を改変させ、ヘマト種に都合の良い事実のみを教育しだした。


 それまで、世界には大きく分けて50程の共同体があったが、この時期にゼリクを中心とするシーク・ガイア残党が裏で支配し、約20の国や部族まで減ってしまう。






 西暦2132年。


 それに気づき、手を打ったのがネモ教授一派、ホモサピエンス解放運動軍。

 ネモ教授は過去の遺物を使い、人の体に他の生物や人間の遺伝子や体の一部を移植させることに成功した。


 そして彼はその技術により吸血族の根絶を計画する。


 吸血族を狩るために生み出された彼等は、恐ろしく、異形の者達がほとんどだったが、唯一人間と親和性のある反応をした人造人種がいた。


 それが獣人族である。


 彼等は吸血族を狩るためだけに創られ、次第に彼等のみの集落や街を作れるほどまでに人口が増加した。


 しかし、吸血族はそれを見逃すはずがない。


 ネモ教授の抵抗も虚しく、彼を含む獣人族と解放軍の多くは処刑されてしまった。


 さらに吸血族は念には念を入れ、教育の中に獣人種への印象操作(プロパガンダ)を含ませることで、完全に吸血族=上級種の考えを人々へ刷り込ませた。






 西暦2198年


 第四紀から続いていたクロノス教は世界で最も信者の多い宗教にまでなった。


 しかし預言者リリィは人類進化前の身体を持ち、ブルート経由の吸血鬼化である為か、その弱い回復力で常に放射能と戦いながら生きてきた。


 その苦しみが彼女を徐々に変え始める。


 どうしてもブルートを憎み切れなかった彼女はゼリクへの復讐を企み、クロノス教軍部を設立。

 さらに、その野望は歪みに歪み、ゼリクを倒して新たな王国をつくることへと変わった。






 西暦2200年


 旧ドイツ、共和制国家ビサの北西、旧イギリス南東部に位置していた王政国家ルバモシでは、約150年間、ブレイブハート家が統治していた。


 初代国王は国民によって選ばれ、王以外身分の差がない国家である。


 そこにクロノス教が合流し、国の宗教となった。






 西暦2257年


 王政国家ルバモシ、ブレイブハート家四代目国王ジョージ・ブレイブハートに第一王子が誕生する。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 講堂内はどよめき、獣人族の中には嘔吐しているものもいた。


 リリィは目を伏せ、教徒から投げられる様々な質問を拒絶する。


 しかしライはそこまで話すと、ゴホンと咳をして周りを静かにさせ、クリスの方を見てさらに続けた。


「ここからはわしが覚えている限り細かく話そう。なんたって全てをこの目で見て来たのだからな。あぁ、しっかりと覚えている。


 2257年、ブレイブハート家、ジョージ国王の御子息。五代目国王クリストファー・ブレイブハート。


 つまり、クリスが誕生した時のことを」


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