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(β版)  作者: 自彊 やまず
第五章 革命編
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第五十二話 忠実なる家族➀

 クリス達が地下への階段を下りていくと、そこは貴重図書の保管室になっており、たくさんの本棚が壁際に並べられた、小さな体育館のような場所だった。

 どうやら地上にあった本は、ここからコピーし直されたされたものらしい。


「こっからさらに奥があるのか?」


 ルピナがそう言って部屋内を歩き始めると急に反対側の扉が開き、その先の明るい部屋から、従業員らしき人が現れた。

 その若そうな男は部屋の明かりを点け、保管庫を歩き始める。


「おい、お前、誰だ」


 クリスがそう言うと、黒の燕尾服と茶色い蝶ネクタイを着た従業員風の男はこちらに気づいた。


「ヒィ!誰ですか貴方たちは!ここは重要な本だけが置いてある保管庫ですよ。勝手に入らにでください。犯罪ですよ!」


 最初は強気になっていた男だったが、男がクリスの背に背負われた大砲やルピナのアイアンクローを見ると震え出した。


 キッドは従業員へとゆっくり近づき、男のに向かって言う。


「すみません。ちょっと協力してください、何か怪しいものを持っていないかだけ調べますので」


 キッドは男のポケットや服の内側を探り、武器や何か鍵を持っていないか調べるが、男は何も持っていなかった。


「すみません。ありがとうございました。申し訳ないのですが、暫く図書館から出て行ってもらっても良いですか?」


 キッドがそう言うと、男は無言で何度も頷いて地上へと続く扉の方に向かった。


 クリス、ルピナ、キッドは男の隣を通り過ぎ、そのまま保管室の中を進んで奥の扉を開けようする。

 しかし扉が開かない。

 従業員の男が入って来た時、男が扉の鍵を閉めた様子は無かったはずなのに。


 そこでクリスが何かに気づいて後ろを振り向いた。

 地上へ向かったはずの従業員は逆に唯一の出口である扉を内側から閉め、鍵までかけていた。


「お前、敵だな?自らもここに閉じ込めるとはなかなかの度胸だぞ」


 クリスがそう言い、ルピナとキッドも振り向いた。

 キッドが慌てて言う。


「え、僕、彼が手ぶらなのを確認したはずですが」


 すると従業員の男がポケットから小さなダガーナイフを出した。


「おやおや。確認が不十分」


 よくよくそのダガーを見るとキッドが何かに気づく。


「あ!あれ僕のダガーナイフです!!」


 キッドはあわてて自分の服を探すが、自分のダガーはどこにも見つからなかった。


 男は得意そうに笑って続ける。


「これだけじゃないよ。僕の手にかかれば、ほら」


 男はルピナのズボンにあった財布、クリスの胸に掛けてあったダガーを次々とポケットの外へ出した。


「「あ、あれ俺の!」」


 クリスとルピナが慌てる。


「というわけで、ここはこのマンナズが通しません」


 マンナズはそう言うと、白髪からぴょこりと犬耳を出した。

 さらに燕尾服へ一瞬手をかざすと、黒かった服が真っ白に変わり、ネクタイも毒々しい赤色へと変化する。


「実は僕、ホッキョクオオカミの獣人なんだ。この小さい耳がチャーミングだろ?」


 マンナズがそう言いながら、さらにポケットから何かを出した。

 クリスが見るに、それは何か機械のボタンのようなものだった。


「カシム様はさ、ブルート様とあまり仲良くなくてさ、自由な考えの持ち主だったんだ。俺や人間のアロンを育ててくれた。好きなことをするのがモットーなんだ」


 そこでマンナズがボタンを押す。

 するとキッドがガクンと倒れた。


 上から糸で吊るされていた人形の糸が切れてしまったかのような、急な気絶。

 そのままキッドは目を閉じて床に寝てしまった。


「キッド!大丈夫か!」


 クリスとルピナが駆け寄る。

 マンナズがニヤニヤして駆け寄ったクリス達に言った。


「心配するな。僕たちの目的は君、クリスだ。君の機嫌を損ねるようなことをしたくない。彼は強睡眠薬で寝ているだけ」


 マンナズはそう言うと、ポケットから小さなアーティファクトを取り出して二人に見せる。

 それはクリスがラオへの列車の中で見た、小型の飛び回るアーティファクトそっくりであった。


「この球体の中に薬が入ってんだ。それが君たちの胸元で爆発する」


 マンナズはそう言うと、再び右手に持ったボタンを押した。

 ルピナが身構える。

 しかしすぐにルピナではなく、クリスがガクリと膝を付いて倒れた。


「おい金髪バカ!何やってんだ。起きろ!」


 ルピナが倒れたクリスの肩を掴んで呼び掛けるが、全く返事がない。

 マンナズがさらにニヤリと笑ってもう一度ボタンに手をかけた。


「君たちとすれ違ったときに胸ポケットへと入れておいたんだ。すごいだろ?魔法みたいだろ?」


 そしてマンナズが三度目にボタンを押す。

 ルピナは胸元から、何かガスのようなものが出てくるのが分かった。


「くそっ」


 ルピナの頭はだんだんとマヒしていき、視界もぼやけていく。


「そうだ。寝るんだ。そのままカシム様へ突き出してやるよ」


 遂にルピナも倒れ、三人共床に伏してしまうこととなった。






 マンナズがルピナに近づいて、ルピナの狩人帽を取る。


 そこでマンナズがルピナの正体に気づいた。


「こいつ、まさかハティ一族の生き残りか!?」


 ルピナの頭に生えた黒と白の耳は、マンナズにとって初めて見るものでありその正体に驚く。

 そんな事を気にしつつも、何とか三人を引き摺ってカシムの元へ連れて行こうとした時、ルピナが急に呻き始めた。


「うぅ。クッ」


 マンナズは麻酔薬入りの睡眠剤を使ったはずだったが、ルピナは唇を噛んでギリギリ意識を保っていた。


「ハティの力を……舐めるな」


 唇からは血が流れ、目は片目だけ少し開いているが、襲い来る睡魔がルピナを逃がさない。

 マンナズはさらにそれで驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻すとルピナに言う。


「ま、どうせギリギリだ。これで終わりだよ」


 マンナズはそう言うとルピナの顔を思い切り殴った。

 バチンという鈍い音と共にルピナの鼻から血が流れ始める。

 これでダウンを取ったと思ったマンナズだったが、予想に反してルピナは睡魔に耐えていた。


「ここで、負けるわけにはいかねぇんだ。ロランの表情から察するに、おそらくおじさん達に何かあったのは確かだろう。それを聞くためにも、いや、ロランを助けて、オリバーの仇を討つためにも、ここで負けるわけにはいかねーんだ!!!」


 そう言うと立ち上がるルピナ。左腕に付けているアイアンクローで、右腕の内側へ傷をつけ始める。


 勿論、刃が通った場所からは大量の血が流れだした。

 刃は皮膚を裂き、三本の赤い線が右腕を縦断していく。


 マンナズはそれを見て三度目の驚きを見せた。


「こいつ、狂ってやがる。僕は復讐という感情を理解したことがないが、復讐とは、こんなにも歪んでいるのか!」


 マンナズは髪をクルクルと弄り、興奮した様子でルピナを観察する。

 痛みと根性でルピナが目を覚まし、コートを脱いで息を切らしながらマンナズと相対した。


「ほう。やるじゃないか。こっちも奇術無しで戦わないといけないか?」


 マンナズはそう言いながらルピナへ右の拳を振り抜いたが、ルピナはそれを難なく躱す。


「馬鹿野郎。獣人の中でハティ族のスペックは圧倒的に強いんだぜ。おじさんは族間で二位と言ってたな」


 ルピナは既に大量の血を流しているのにもかかわらず、その反応速度はマンナズの比ではなかった。

 マンナズは力を込めたこぶしに体幹を取られ、つんのめってルピナとぶつかる。


 しかしルピナは全く体勢を崩さず、むしろマンナズの髪を掴んだ。


「お前、マンナズって言ったな。ハティ一族のことを知っているのか?」


 ルピナがそう聞くとマンナズは笑って答える。


「ノーコメントだ。それより、自分の心配をした方がいいんじゃないか?」


 ルピナはそれを聞き、当然何を言っているんだと困惑したが、すぐにその異変へと気が付いた。


――いつの間にかルピナの両手へと、銀製の手錠がしてあることに。


「いつ、何だ……これは!」


 ルピナが驚いてマンナズの髪を離す。

 ルピナの手に付けてある手錠は銀製で、丁寧に南京錠まで付けてあった。


「基礎だよ。基礎」


 マンナズはそう言うとルピナの周りをぐるぐると歩き始める。

 ルピナは何とか手錠を外そうとするが、その強固な銀の鎖がなかなか切れない。


 マンナズはニヤニヤしながらルピナに言った。


「メンタルフォースだよ。今回は特に初歩の。僕が直前に厭味ったらしく髪をいじって見せることで、君は僕の髪を掴んで引き抜いてやりたいと思った。いや、心の奥、僅かな部分でそう思ったんだ。そしてミスディレクション。僕のパンチがすかしてしまったことで警戒心を解き、つんのめってそちらへ意識を向かせる。最後に君が僕の髪を掴んだところで手錠を駆ければ完成さ」


 ルピナは丁寧な解説にうんざりする。


「そんなこと聞いてない。不愉快だ」


 マンナズはルピナのその言葉を聞いて満足したようで、またニコリと笑った。


「それが聞きたかった。僕はマジックが好きなんじゃない。人の一歩上を行くのが好きなんだ」


 マンナズはそう言うと思い切り力を込めてルピナの鳩尾へ蹴りを入れる。

 その蹴りは最初のパンチが嘘だったかのように強烈だった。


「ガフッ」


 ルピナが苦痛に顔を歪ませる。


 唇を噛んでいた傷は獣人の治癒力で大方治ったが、右手の傷はまだまだ治っておらず、さらに蹴られたことで口からも血を流してしまった。


「そろそろ多量出血か?俺、ホッキョクオオカミの能力は寒さに耐える力。このアビリティの所為で、仕事の時は頭を使わないといけないんだ。こうやってね」


 そう言うとマンナズが右手の爪を伸ばして、ルピナの左手に切り傷をつける。


 傷からはさらに血が流れ始めた。


「ホッキョクオオカミの獣人、獣化もできないんだぜ?笑えるよな。あ、どう?もうちょいで死ぬか?」


 ルピナは貧血によりまた意識が朦朧としだしたが、歯を食いしばって何かを決めた。


「クソッ。カシムまで取っとこうと思ったが、ここで使うしかねぇな。後は頼んだぜ、クリス」


 そう言うとルピナは腕に力を入れ始めた。


 腕の傷が治っていき、さらに上半身に銀色の毛が生え始める。

 顔も段々と狼の顔になり、尻尾も太く、長くなっていく。


 手錠は太くなっていく腕に耐えきれず、バチンという音を立てて砕け散った。


 ルピナのシャツが張り裂け、獣となった上半身が露わになる。


「おっとこれは想定外。銀の手錠って万能じゃないのね」


 マンナズはそう言うと後ずさりした。


 そしてルピナが言う。


「おじさんは、この人殺しのための能力を絶対に使わなかったが……俺は使わせてもらうよ」


 ルピナの迫力を前に、マンナズは一歩も動けなかった。


「ハティの能力は、ハイイロオオカミの獣人のような肉体的強化と、何よりも速い、素早さだ」


 ルピナの左手から神速の一撃が放たれ、マンナズのすぐ近くを掠めた。

 マンナズを途轍もない風圧が襲い、近くの床が抉れる。


「あぁ。貧血でね。なかなか照準が定まらないんだ」


 ルピナはそう言うと二発目の振りを左手で構えた。


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