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(β版)  作者: 自彊 やまず
第五章 革命編
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第四十九話 人生で紡がれる物語➁

「あのばばぁ!何でワシがこんなことをせねばならんのだの!」


 バーチが部下の男に向かってリリィの愚痴を言う。


「大丈夫ですよ。彼を連れていくのは私がしますから」


 部下がそう言い、地下への扉を開ける。

 その奥には薄暗い牢屋が続いていた。


「薄汚いのぉ。奴には気を付けろの」


 まず部下が入り、後ろからバーチが地下へと入る。


「処刑は本部でかの?ワシはババァの計画なんぞ知らんが、とっとと殺してしまえ、あんな化け物」


 バーチがそう悪態をつくと、部下は銀の杭を取り出した。


「まさか自分が今まで使ってきた銀の特効性を、自らへ処刑前に使われるとは思ってもいないでしょう」


 コツコツと階段を下りていく靴の音が牢屋に反響し、不気味な空気を醸し出す。

 二人はクリスの牢屋の前に到着し、牢屋の鍵を開けてクリスへと近づいた。


「出ろ!化け物。処分の時間だ」


 バーチの部下がそう言い、クリスの手に銀製の釘を刺そうとした。


「誰だお前!なんで俺がお前ごときにこんなことされねぇといけねんだ!先に隣のバカを連れてけ」


 クリスがそう言うとルピナが笑う。


「どうぞお先に~。ま、俺は処刑されないけどな。君の態度を見るに自業自得だろう」


 バーチの部下がそれを無視して、クリスの手へ銀の杭を刺そうとしたその刹那、牢屋の入り口から誰かが走ってくる音が聞こえた。


「誰かの?」


 バーチがそちらへ向かって聞くが返事は無い。


 やがてそれが近づいて来て、クリス達の目に正体が映った。

 それはまさかの柴犬。それも背中にリュックを背負った豆柴。


「は?し、柴犬!?この世界にいるの?てか、何でここに?いや、え?」


 クリスが戸惑っていると、柴犬が途中で躓いてこてんと転ぶ。

 四人が戸惑っていると、柴犬は再び起き上がって近づいて来た。


 バーチが嫌そうな顔をして部下に言う。


「こいつどっかに捨ててこい!わしゃ知らんぞ、こんな犬。見たこともないの」


 柴犬がバーチに近づき、バーチが首を掴もうとした時、柴犬が突然バーチの顔に張り付いた。

 突然の出来事にキョトンとする一同だったが、当のバーチは息苦しそうにもがいている。


「ガハッ!息ができん!助けろ!」


 バーチが部下に言い、必死に顔に着いた柴犬を剥がそうとするが、なかなか力が強く離れない。


「バーチ様!大丈夫ですか!」


 部下がなんとかして助けようとするが、バーチの顔に張り付いた柴犬が、その短い足をばたつかせてうまく掴めなかった。


 暫くすったもんだしているとバーチが静かになり、やがて泡を吹いて倒れた。


 クリスとルピナもそれにはびっくりする。


 部下は急な上司の死に驚き、地下室から逃げていった。


「なんだこれぇ!え、バーチ様ぁあああ!誰か、助けて!」


 その光景を見ていたクリスとルピナはさらに顔を合わせてキョトンとする。


「だ、え、な、何?」


 困惑したルピナが柴犬の方へ近づくと、柴犬が急に喋った。


「はー良かったです。獣化した状態で来ましたから、もしかしたら二人倒せないと思ってましたけど、倒せましたね!」


 ルピナとクリスが驚く。


 柴犬は空きっぱなしになっていたクリスの牢屋に入ると、クリスに話しかけた。


「大丈夫ですか?今助けますね。あぁ、あの節はどうも。お蔭でこんなに元気にしとりますよ!」


 柴犬はくりくりとした目でクリスに話しかけるが、クリスは何のことかまるで分っていない。


「そっか!この格好じゃわかりませんよね!実は僕、あの後スカウトされたんです」


 柴犬はそう言うと段々人間に戻っていく。

 人間に戻った姿は少年だった。


 リュックから服を取り出してそそくさと着替える。


 ルピナが口をあんぐり開けて驚いた。


「君、獣人だったのか。犬の獣人は初めて見たよ。狼しか見たことなかったから」


 ルピナがそう言うと少年が怒った顔をして答える。


「失礼な!実は柴犬って、ぎりぎり獣人になれるポテンシャルを秘めてた“狼”なんですよ!おっとすみません。僕の名前はキッド。またお会いできましたねクリスさん」


 そう言われたクリスの脳内で、キッドの記憶がフラッシュバックした。


 何年か前、暗殺組織にいたときに“ハキ”という三下から助けた獣人。

 たしかその子の名前もキッドだった。


「ほ、ほんとに!?すごく成長したね、キッド!」


 クリスがキッドに言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。


「覚えてくださっていたんですね!ありがとうございます!クリスさん。さ、ここから出ますよ」


 キッドがクリスの手錠を外し、銃を一丁だけ手渡した。


「おい、待て!ずるいぞ」


 ルピナが檻の中からクリスに言うが、クリスは何も言わずにルピナの方を向いて、ニタニタと笑って地下から出ようとする。


 とその時、地下室の入り口から誰かが入って来た。

 その足音にクリスとキッドが警戒する。


 しかしそこから来たのはカトレア。


「誰ですか貴方は!」


 カトレアがキッドに言う。


「教えられないです。貴方はクロノスの方ですね?」


 キッドが牙を出して威嚇する。

 そこでクリスが頭を傾げた。


「キッド、お前、入団したのはクロノスじゃないのか?」


 当然キッドがクロノス教団の団員であればカトレアを知っているはず。


「違います。えと、説明は後です。とりあえずこの人を倒してここから出ましょう!」


 キッドはそう言い、両手の爪を伸ばし始める。

 キッドの耳がぴくぴくと動き、姿勢も戦闘態勢に入った。


「こっちはそれどころじゃありません!クリスさんが何故ここにいるのかはわかりませんが、ロラン君達の為にもいち早く動かないと!」


 そこでロランという名前に三人が反応する。


「「ロランが!?何かあったのか」」


 クリスとルピナは同時に叫び、互いがロランのことを知っていることに驚く。


 ルピナは続けてカトレアに言った。


「じゃぁ、俺もここから出られるってことか?」


 ルピナが言うとカトレアが頷く。

 兎にも角にも、ロラン達を助けるのが最優先だと思ったカトレアは、これまでの状況を大まかに説明した。


「アロンが裏切り者でした。オリバーは殺され、ロータス、ロランがそれを追っています。ルーシー副長と、エマさん?のオペレートで彼等カシム一味と決着を付けようという話になっているんです」


 出て来たエマという名前で、更にクリスが驚く。

 三人の頭はもう既にパンク寸前になっていた。


 クリスが頭をぐしゃぐしゃにして床へ座り込む。


「もー意味わかんねー!つまりクロノスに裏切り者が出て、緊急でそれを追ってて、ルピナに手を貸してもらうってこと?」


「そうです」


 カトレアが頷く。

 クリスはしばらく考え、パンと手を叩いて立った。


「よし、俺も行く。キッドも来るか?ロランのピンチで俺が助けに行かないわけがねぇ」


 クリスがカトレアに向かって言うと、突然の申し出にルピナが困惑する。


「こんなどこの骨ともわからねぇ奴と一緒に行くだと?さすがに冗談きついぜ」


 カトレアは少し悩み、三人に言った。


「私はエマさんを軍部まで送ります。三人でローちゃん達を助けてきてください。一応クリス君はいい人ですよ、ルピナ君」


「えー、こいつ知ってんの?いや、え?」


 ルピナがびっくりしているうちにカトレアが鎖を外す。

 カトレアが三人に無線を渡し、没収した武器のある部屋へ案内した。


 クリスは腰にアンブリエル、二丁の拳銃を。

 ルピナは特製の皮手袋に銀製の鉤爪をつけて、アイアンクローならずシルバークローを装着する。


 クリスが武器庫のドアを開け、外に出ると自信満々に言った。


「お前と組むのは不本意だけど、派手にやらせてもらおうじゃねーの」


 それにルピナが答える。


「当たり前だ。俺の足を引っ張るんじゃねぇぞ」


 クリス、キッド、ルピナの三人は今一度手袋をきつく締め、アロン目指して闇夜へと繰り出して行った。


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