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(β版)  作者: 自彊 やまず
第五章 革命編
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第四十八話 人生で紡がれる物語➀

 クリスは牢屋というと、じめじめして半地下になっているものを想像していたが、教団本部の地下には、彼が思うよりも清潔で簡素な牢屋が広がっていた。

 牢屋の外にかけられた松明がかろうじて辺りを照らしている中、クリスは目を覚ます。


 クリスは腹に巻かれた包帯に気づいた。

 リリィと会ったところまでは覚えているが、それから先が思い出せない。


 すると突然、隣から声が聞こえた。


「お。起きたか?多分俺と同じで睡眠薬でも飲まされたんだろう。しかし残念ながら、ここは処分を待つ部屋だよ」


 隣の牢から喋りかける男は、暗い隅にうずくまって座っていた。


「軍部からわざわざここまで連れてこられて、縛られていた手足が痛いよ」


 男がクリスに、喋りながら近づく。

 彼は左右白黒のケモ耳、赤い目を持っている獣人と吸血族のハーフだった。

 心なしかラーラに似ている。


「あんたはなんでここに?」


 クリスが問うと、男が答える。


「ルピナだ。俺の名前はルピナ。冤罪だよ」


 クリスは頭を傾げた。


「信じられないって顔してる。ほんとに冤罪だよ。君こそ何をしてここに?」


 クリスはリリィと会った後を思い出す。

 急にフジから切りかかられ、キリに背後から刺された。


「そうだ!俺も冤罪だった!冤罪というか、何でここにいるのか分からないよ」


 それを聞いてルピナが笑う。


「君も冤罪?そんなことある?面白いね」


 ルピナの言葉を無視し、クリスは牢屋の中で膝を落として拳を地面に叩きつけた。


「思い出した。キリにやられたんだ。あの野郎、絶対やり返してやる」


 ルピナはそれを聞き、ふーんと言ってそっぽを向いた。


「なんだって?何でそんなに余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なんだ。牢屋のなかに入ってんだぞ!」


 クリスが苛立って、隣にいるルピナへ突っかかった。


「いや、俺は友人がここから出してくれるからな。君と違って」


 ルピナがクリスに言うと、クリスの怒りがさらに燃え上がる。


「うっせーな!この野郎!俺だって友人が助けてくれるわ!」


 クリスはエマとリラの顔を思い浮かべる。

 クリスはそのまま続けた。


「なんか最初から腹立つんだよな、お前。スカしてるっていうか、上から目線でさ」


 それにルピナが反応する。


「なんだと?君こそ初対面の相手に失礼だな。とっとと処分されるといい!」


 二人のイライラが頂点に達し、お互いが隣の牢屋から相手を殴ろうとしたが、手を振りかざした瞬間、手に付けられた手枷の鎖が音を鳴らして手を引っ張った。


 そこで二人の怒りが収まる。


 クリスとルピナはガックリし、腰を下ろして溜息をついた。


 クリスがルピナに言う。


「とりあえずここから出ようぜ」


「無理だろ」


「いや、行けるさ」


「無理やて」


「無理じゃねぇ。行くんだよ!」


「じゃ、ご自由に」


「バカにしてんのか?」


「アホ」


「なんだと馬鹿野郎!俺の名前はクリスだ!」


「「この野郎!牢屋出た後で覚えてろよ!!!」」






 部屋に電球が付き、オリバー班の作戦会議室に明かりが灯る。

 そこには倒れたオリバーと、血みどろになった部屋が現れた。


「俺一人でもあいつを追いかける!」


 ロータスが部屋を出ようとするが、ロランがその手を掴んだ。


「無駄です!暗視ゴーグル無しで探そうとしたって、こんな夜中に見つかるわけがありません」


 ロランはロータスを説得する。


「ちゃんと装備を整えてから行きましょう」


 二人が悲しみに暮れているところへ、カトレアとルーシーが駆けつける。


「どうしたの!?」


 カトレアが驚き、ルーシーはすぐさまオリバーの脈を測った。

 ルーシーが渋い顔をして言う。


「やられたわね」






 ロランはキリ班の作戦会議室で全ての状況を説明し、ロータスは早くも装備を整え始めた。


「博識者、ね」


 話を聞いたルーシーは何かを知っているのか、腕を組んで考え事を始めた。

 カトレアはどうすればよいかと戸惑っている。


「どうしましょう。しかし、ローちゃん一人では絶対に言ってはダメだと思います」


 カトレアがそう言うが、ロータスはそれを無視して装備を進める。

 腰にベルトを巻き、短めのジャケットを着て、その背中に大斧を背負う。


「やられっぱなしで、黙っちゃいられねぇよ」


 ロータスが部屋から出て行こうとした時、ルーシーが止めた。


「待って。私なら追えるかもしれないわ。流石にエマだけでなくクリスのことまでもバレてしまうのはまずい」


 ロータスがドアを開けようとした手を止める。

 ルーシーが続けた。


「私は今の彼の位置が大まかに分かるわ。彼の武器はうちの工房で作ったもの。クロノス教にはアーティファクトを作る技術が無いけど、私が監修さえすれば作れなくもない。悪いけど、私が作った武器には全てGPSが仕込んであるの。君達にはわからないでしょうけど、これはすごい技術なのよ」


 ロランがいつもと雰囲気の違うルーシーに戸惑いながらも、手を挙げてルーシーに質問する。


「じゃぁ、ずっと監視されてるってことですか?何のために」


 ルーシーは苦笑いして答えた。


「ごめんなさい、それは教えられないわ。私にも私の仕事があるの」


 それを聞いたロランはしょぼんとした顔をする。


「ま、取り敢えず場所さえわかれば、追えるでしょう?フジ、キリのいない今、私が無線機でオペレートするから、ロラン君とロータス君が追うの。カトレアちゃんはルピナ君を外に出してあげて」


 そこで四人は分かれ、それぞれの仕事を始めた。


 ルーシーは自分の部屋へ戻り、ボロボロになったパソコンを起動してGPSを追う。

 ロータスとロランは全力の装備を身に着け、アロンとの戦闘に備える。


 カトレアは急いで本部へと走っていった。

 カトレアの無線機に途中でルーシーから通信が入る。


「多分、ルピナ君もアロン君を追うと言うはずよ。その時は、私以外に唯一GPSの使い方がわかるであろう子がいて、その子を軍部の私の部屋に呼んでほしいの。私はロラン君達と通信するだけで手いっぱいだから。その子は本部にいるんだけど……」


 その情報を聞き、すぐさま先に本部へと通信するカトレア。


 カトレアは本部と繋がると、すぐにその名前を言った。


「エマさんはいらっしゃいますか?ルーシー副長の命により、緊急で軍部へ来てほしいのですが」


 すると相手が答える。


「エマですか?丁度拙者の部屋に戻ってきました。だいぶん落ち込んでいるようですけど、これでいいならお貸し致します」


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