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異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第一章 旅立ち編
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第三話 無情➀

 クリスとロランが組織へ入ってから2年が経った。彼らは16歳になり体格も男らしくなってきたが、顔つきにはまだ幼さが残っていた。

 ある日、二人は闇仕事の雇い手から呼び出される。


「何の呼び出しなんだろうな」


 歩きながらクリスが言った。

 フードを被った二人が路地裏にある廃れた小屋へ入ると、薄暗い地下への階段が口を開けて待っていた。消えそうなろうそくに、壁を這うナメクジ。まさに隠れ家という言葉がぴったりな雰囲気だった。


「じめじめして気持ち悪いとこだな...僕は嫌いだよ」


 二人が階段を降りていくと、間もなく正面に木の扉が出て来た。

 蝶番は錆び、クリスが扉を開けようとするとキュルキュルという不快な音が鳴る。


「「こんにちはぁー」」


 ずっしりと重い扉を開くとそこには小さな書斎があり、真ん中の机に一人、恰幅のいい男が座っていた。

コートを着た彼が二人の方を向いて言う。


「やあやあ。君たちが掃除屋のKとRだね。今までは手紙でのやり取りだったからな。よろしく」


 その男は二つの丸椅子を置いて二人に座るよう促す。クリスとロランは会釈してそこへ座った。


「もし今俺を殺しても何も金目の物はないからな。間違っても、変な気を起こすなよ」


 男が爬虫類の様な目で二人を睨んで言った。


「そんなことはしませんよ」


 クリスがきっぱりと答える。


「ならいい。あと、仕事上互いに名前は言わないということで。その、ま、怨み怨まれってのがこの業界だからな。じゃあ、早速本題へ入るぞ」


 そう言うと男は机から紙を出した。そこには“殺人依頼仲介協会ステティア本部”と書かれている。


「実は、君たちの仕事が本部で評価されてね。掃除屋をしていると十件に一件くらいはサツに見つかってもおかしくないんだが、君たちは今まで一度も見つからずに仕事をこなしてきた。当然、昇進だ」


「昇進、ですか」


 今まで顔をこわばらせていたロランが表情を崩し、柔らかい笑みを浮かべた。


「具体的に言うと、君たちにはステティアへ行き、協会の殺し屋件掃除屋として働いてもらいたい。どうかな」


「やります」


 クリスが食い気味に答えた。


「そうかそうか。頼もしい男達だ。そんじゃ、今日の話はこれで終わり。後日また手紙を出すよ」


 二人が感謝を述べて部屋を出ようとするとき、男が二人を引き留めた。


「まぁ、選別と言っちゃなんだが、今まで仕事を受注してくれたお礼だ。受け取ってくれ」


 彼は机の上に二振りのマチェットとそのマチェットホルダーを置く。二人の腕よりも大きなそれは、薄暗い部屋に照らされて禍々しい色の金属光沢を放っていた。


「ありがとう」


 二人はそれぞれ一本ずつ背負うと、元来た扉から出ていった。

 そこからまた長い階段を上って地上へ出ると、眩い光が二人を照らし、まさに表の世界へと戻って来たという言葉が相応しかった。

 地上に戻って早速、クリスが背負ったマチェットを外しながらロランへ言う。


「これ、ロランにあげるよ」


「なんでだよ。最高の武器じゃないか」


「俺は他の武器を使うからいいんだよ。いいからもらえって」


 クリスがそう押すと、ロランは遠慮しながらもマチェットを受け取った。


「わかったよ。ありがとう」


 そう言うと、ロランはクリスから譲り受けたもマチェットを担ぎ、計二本、両肩からマチェットを背負った。





 後日、二人の家に手紙が届いた。そこにはステティア行き馬車の待ち合わせ場所と、少しの銀貨が入っていた。


「さぁ、今日はステティアへ行く日だぞ。起きろクリス」


「わかってる。もちょい寝かして」


 それを聞いたロランが問答無用でクリスの背中を蹴り上げた。


「いってえええ!!容赦ねぇな!」


「いいから支度して!クリス!」


 ロランは既に二振りのマチェットを背負って、手にフィンガーレスグローブをはめているところだった。






 待ち合わせ場所へ着くともう既に一台の馬車が来ていた。馬車から一人、初老の男が出てくる。


「お前らが新人達か。ステティアまで行くぞ。乗れ」


「ケッ 挨拶もなしかよ」


 クリスが馬車に乗りながら言った。


 二頭の馬に引かれた馬車は四人乗りで、大きな幌が付いていた。

 木の腐りかけた荷台には食料や水、寝袋も置いてあり、幌には大きく“ダタリア商会”と書いてカモフラージュされていた。


「ステティアまでは20日で着く。砂漠だけじゃなくて、峠もひとつ越えるから長旅になるぞ」


 そう言うと男は運転台へ乗って手綱を握った。


「遂にだな、ロラン」


「ああ、行こう。ステティアへ」


 男が鞭を振ると馬達が動き出した。蹄鉄がカッポカッポと音を立てながら馬車が進み始める。

 馬の匂いと、春の新緑の匂いが混じって幌の中へ入ってきた。天気の良い、旅立ち日和な日だった。

 町を出る門まで来ると、ロランが口を開く。


「また、この町に戻って来るかな」


「さあな」


 その日は近くの村はずれで野宿をした。少し寒い夜だったが、寝袋のおかげでよく眠れた。






 こうしてクリスとロランはステティアへの道のりを少しずつ縮めていった。時に巨大サソリに囲まれたり、砂丘を超えたりと色々な道を進んで来たが、特に大きな問題もなく、順調に旅を送っていた。

 そしてそろそろ道のりも半分、峠へと差し掛かる頃だった。


「今日はここらへんで寝るぞ」


 峠の入り口で男が馬車を止めて言う。


「今日もお疲れ、爺さん」


ロランが寝袋を広げながら言った。


 行商人や旅人のために作られた小道はある程度整備されている。今日はその脇での野宿だった。

 夜の森に獣の鳴き声や木の軋む音がこだまする。


 不意に、森の方からカサカサと何かが近づく音が聞こえてきた。

 まず耳の良いロランがそれに気づき、すぐにクリスもその音に気づいた。


「おっさん、馬車の中へ入っていてくれ」


「ふがぁ」


 クリスが寝たままの男に小声で忠告してから、サッと馬車から降りた。ロランも続いて降りて、昼間の爽やかな景色とは打って変わって闇となった林へ近づく。

 そっと音のする方向へ近づいていくと、暗闇の中におぼろげながら何かの影が見えた。クリスが矢筒から弓へ矢をつがえようとすると、急に声が響いた。


「動くな!!動いたら射貫くぞガキンチョ共」


 林の中が急に明るくなると、そこに三人の小汚い男達がいた。一人は矢をつがえ、一人はランタンを持ち、真ん中のでかい男は斧を持っていた。


「持ってる商品、全部置いていきなァ!ダタリア商会さん」


 でかい男が斧で馬車を指しながら言う。どうやらカモフラージュが裏目に出てしまったようだった。


「まずいぞロラン」


 クリスがロランを見て言う。


「いや、僕なら矢くらいよけられる。僕が前に出て狙撃手を引き付けるから、君はすぐにランタン役の男に矢を打ってくれ」


「いくら獣人にある程度の再生力があっても、吸血鬼ほどじゃないんだからケガするなよ」


「了解」


 ロランがマチェットを両肩からおろして地面へ置く素振りを見せると、弓手がクリスの方へ矢を向ける。その瞬間、ロランが前に一歩踏み出した。

 ロランは全力で地面を蹴る。風のようにひらりと身をこなし、そのまま目指すは弓手の喉元ただ一点。


「野郎!あの赤髪を狙え!」


 弓手がロランへ照準を合わせようとするが、ロランの動きが速くてなかなか定められない。その瞬間、左にいたランタン持ちの下っ端がランタンごと射貫かれた。

 矢を放ったのはクリスだった。


「今だ!ロラン」


 クリスが叫ぶ。

 弓を持った男は暗闇でロランを見失う。オドオドと焦っていると、不意に右側で足音が聞こえた()()そっちへ弓を向けるが、既に遅かった。

 真横からマチェットを振りかぶったロランが飛びついて来た。


「ごめん、峰打ちだから許して」


 マチェットが男の頭へ振り下ろされ、カツーンという音と共に男が倒れる。


「ナイス、ロラン!」


 残るは大男一人だった。


「こんのガキどもぉお!一人は人狼か!ちょこまか動きやがって」


 残された盗賊のリーダーは、次の矢をつがえているクリスへと突進していく。男が二メートルはありそうな斧を振ると、衝撃を受けた地面がバキバキと直線に割れていく。

 衝撃波ギリギリのところで避けたクリスが矢を放つが、外れて空を射貫く。

 クリスが慌てて次の矢をつがえる間、男はその大柄な体を俊敏に動かして近づき、渾身の力で二度目の攻撃を繰り出す。


「俺の斧は切る為じゃねぇ!獲物を潰すためにあるんだよ!」


 大きな斧がクリスの頭めがけて振り下ろされた。


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