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(β版)  作者: 自彊 やまず
第三章 ロラン編
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第三十五話 どうしてうまくいってくれないのか➁

 ロランがローブの男へ距離を詰め、ルピナがクナイを投げてロランを援護する。

 二人のコンビネーションにより戦闘は有利に進んでいるようだったが、ローブの男が放つ謎の武器の所為で、なかなか男を仕留めきれなかった。


 男が棒をこちらへ向けると、二人の方へ目では見えない何かが飛んでくる。


「まずい。この距離で一発でも当てられたら、肉と骨を貫通してしまう威力があるッ!」


 ローブ男に接近しているロランが焦り始め、男もそれを見越して攻撃間隔を狭めた。

 ロランがそれでもマチェットを大きく振って男に詰め寄ると、棒の先端から不可視の弾丸が飛ばされ、放った三発の内一発がロランの脇腹をすかした。


「グッ」


 ロランは歯を食いしばって踏ん張り、一度敵との距離を置くが、ローブの男に隙を突かれてさらに弾丸を喰らった。

 右手の甲に一発、頬を掠って一発。

 強烈な痛みと共に、傷口からはドロリと血が流れ始めた。


「ロラン、下がれ!俺が相手する!」


 ルピナがクナイを使い切って素手でローブ男へ立ち向かうも、動きの遅くなったロランを庇いながらではうまく戦えない。

 相手の謎の武器も、その勢いを増すばかりだった。


 しかし、ロランが自分の傷口を見てふと考えた。矢傷と違って広く浅く削られた手の甲の傷、鳩番に当たった時も“刺さった“というより、”衝撃波を受けた“といった感じだった。

 そして棒から弾を出すときに鳴る、ポン!という高い音。


「これは、空気を発射してるのか?クリスのピストル技術にも似ているけど、少し違う。どうにかして空気を圧縮した後にそれを射出しているんだ」


 ロランが一つの結論にたどり着くと、急いでルピナに言った。


「分かったルピナ!それは空気を矢にして発射する遠距離武器だ。弾は無い!つまり、奴は証拠を残さない、凄腕の刺客なんだ!!」


 ルピナは空気弾を必死に避けながら、ロランを横目に見て答えた。


「流石ロラン。んで、どうしようってんだ!」


 それを聞いたロランが、ニヤリとしてルピナに言った。


「任せて」


 ロランはクリスからもらっていた煙幕玉に、マチェットをこすり合わせて出た火花で着火すると、ローブ男の方へ投げた。

 爆発音と共に、一気に灰色の煙がそこら中に立ち込め、三人共鼻と口を押えた。


 ロランとルピナは一歩煙の外に出たが、まだ中にいるローブ男の位置は分からなかった。


「それで?」


 ルピナが問う。


 すると、急にロランが片方のマチェットを鳩小屋へ投擲した。

 鳩小屋の柱にマチェットが刺さり、ビイイインと金属が揺れる音がする。

 それを聞いたローブの男は、すぐさまその方向へ空気弾を打った。


 煙の中の敵の位置を音のみで感知し、すぐさま攻撃に移る。普通ならば、この高度な技術と的確な判断により、フード男の暗殺は遂行されただろう。

 しかし、この一手が彼の息の根を止めることとなった。


 男が煙の中で空気銃を発射したことにより、煙の中で一筋の気流ができ、透明な線がそこにできる。

 そしてその空気の線を辿ることで、空気銃の発射位置、つまりローブ男の位置が割れる。

 これにより、ロラン達は敵の位置を把握し、敵はロランサイドの位置が分からないという、狩りに完璧な状況が誕生した。


 そしてロランが頷くと、ルピナが拳を握りしめた。


「で、俺があそこを狙えばいいってわけね」


 ルピナはそう言うと、煙の中にできた一筋の、透明な空気の道を目線で辿り、その大元へ辿り着いた。

 ローブの男は、煙の外から誰かが来ていることには気づいたが、気づいた頃にはもう既に手遅れだった。


「ここか!死ね獣人共!!」


 刺客が空気弾を打とうとしたとき、目の前には既にルピナの拳があった。


「よくも俺の帽子に穴をあけやがったなァ!テメェの顔面に穴を開けてやる!!」


 ルピナがそう言うと同時に、しっかりと握られた拳はローブ男の顔にめり込んでいき、刺客はそのまま鳩小屋まで吹っ飛ばされていった。


ズガァァアアアン!!!


 暫くして煙が晴れ、脇腹を抑えたロランが、倒れているローブの男に近寄った。


「うまくいったね、ルピナ。彼はもう戦意がないみたいだ」


 ローブの男は鳩小屋に寄りかかり、すっかり伸びてしまって、詳しい話が聞けそうな状態ではなかった。

 ルピナが男の手から空気銃を取ると、それを見て言った。


「こいつはカシムの手下だな。カシムの部下はアーティファクトを使う」


 それを聞いたロランが顔を顰め、ルピナを問い詰めた。


「なぜ誰も知らないようなカシムの情報をルピナが知っているんだ?それに内通者の捜査が始まってから来たこの刺客。バレたスパイを処理しに来たとしか思えない。当に彼は君を狙っていなかっただろうか?内通者や暗号の存在がこっちにバレたことはオリバー班とフジさんしか知らないはず。君から洩れてもおかしくはない。そして極めつけは、その赤い目。どうだろう?君が内通者じゃないのか」


 それを聞いたルピナは焦り、両手を大きく広げて“待て”の姿勢を取って言った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、話をさせてくれ!」


 ロランがルピナを睨みつける目には、完全な敵意が表れていた。


「仮にだ、もし仮に君が僕の敵なら、相打ちになってでも今ここで仕留めるよ。これまで共に過ごしてきたルピナなら知っているだろう?僕は元々暗殺専門なんだ」


 ルピナはそれを聞いてもなお、自分の武器を取り出さなかった。


「お願いだ、話を聞いてくれ。まず俺は内通者じゃない。吸血鬼側の人間じゃないんだ。俺に神への信仰心は無いが、最終目標は君たちと同じ、ゼリクを倒すことだからな」


 ロランは依然、ルピナを睨んでいるが、マチェットの握られた手を緩め、耳を傾けた。

 それを見たルピナは、必死になりながらも慎重に続けた。


「実は俺は、ブルートの右腕、ロデリックの甥なんだ。そして吸血鬼達に囚われた混血種ハティ一族、と言ってもロデリック叔父さんと俺の妹だけだが、彼らを救うためにこの教団へ入団した。これは誰にも言ってない。ロデリックの甥がクロノスに入団できるわけがないからな。これでどうだ?俺が内通者なら、こんなことわざわざ言わないはずだ。それに手負いの君を既に仕留めてるはず。頼む!ロラン、信じてくれ!俺は…」


 そこまでを聞いたところで、グニャグニャとロランの視界が歪み始めた。

 血を流しすぎたからなのか、それともルピナがロデリックを助けようとしていたという事実を知ったからなのか。


「待ってくれ、ルピナ、今何て―」


 どちらにせよ、ロランの意識はそこで途切れることとなった。


「…ン!…ラン!しっかりしろ!…ロラン!」


 最後にロランが見た光景は、薄暗い廊下の中、帽子も被らずにロランを運んでいるルピナの背中からの景色だった。






「お願いします!あの時、ラオの屋敷で何があったんですか!百人近くもの人が死んだ虐殺、その真相を教えてください!」


「知らん。ワシに聞くな」


「では、列車爆破事件容疑者のクリスさんは今どこに!話によるとあの日ジィジさんと一緒に屋敷付近に居たと聞きました」


「知らんわい、死んだんじゃろ」


 ジィジがオファク村の門に着くと、青い民族衣装を着た門番が記者の行く手を止めた。

 ジィジは一人村に入り、煩わしさから解放された気の緩みからか、屁をこいた。


「全く、最近の記者は滅茶苦茶しおるわ。ワシの目が見えんことを良いことに、さっきトイレまで入って来たからの。お蔭でワシは早よトイレに行きたいんじゃ」


 ジィジがそう言うと、側に来た村の若い戦士が笑った。


「それは酷いですね村長。そんな大変なところ申し訳ないんですが、客人が村長の間で待っております。“もう行く。感謝を伝えに来た“と言えば伝わるとかって言われたのですが、見慣れない顔で。オファクの、青い紋様が入ったフードの付いたロングコートを着ていたので、一応客間へ通しておきました」


 ジィジは無言で頷くと、一人で、淡い光を放つヒカリゴケが天井びっしりと生えた洞窟へと入っていった。

 程なくして、彼が奥に広がる客間へ着くと、真っ暗な中、そこに一人の男がフードを取って座っていることに気づいた。

 その男は長身で金髪、少し伸びた髪を後ろで一つに結んでいる。

 薄暗い部屋で目は赤く光り、犬歯は鋭く尖っていた。


「もう行くのか」


 ジィジが客間の入り口で立ったままそう言うと、その男は深く頭を下げて言った。


「ありがとうございました。感謝してもしきれません」


「そうか」


 ジィジが悲しそうに頷く。


「お主に、この剣をやろう。本当はエアリアにやる予定じゃったが、ギリギリ渡せんやった。名は、”~~”じゃ」


 ジィジが腰に帯びていた、銀製の青い紋様の入った剣を男の前に差し出す。

 彼は両手でその剣を受け取ると、すぐに自身の腰へきつく帯びた。


「ありがとう。ジィジ。じゃぁ、待たせてるし、行くよ」


 男はゆっくりと立つと、ジィジと握手してから洞窟入口のドアに手を置く。


「死ぬなよ、クリス」


 ジィジが最後にそう言うと、それを聞いて笑顔になった男は、ゆっくりとドアを押して開けた。

 扉の隙間からは、外に出る男を歓迎するかのように淡い光が零れてきた。


「行ってきます」


 クリスはその言葉を残して洞窟のドアを開け、希望を胸に外へと出て行った。



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