第三十話 特殊作戦部隊➁
「さて、早速次の仕事だ」
オリバーがテーブルの上に地図を広げ、ロラン、ルピナがそれを見る。アロンはテーブルの上に足を投げ出していた。
「行儀が悪いぞアロン、足を椅子から降ろしなさい」
「うるせぇぞー」
そう言いながらも、アロンは渋々足を降ろして真っ直ぐ座り直した。
「次はおそらく長丁場になりそうだ。狙いは吸血血統の貴族であり、ビサ革新党の下院議員バトゥ議員。この人は居場所すらつかめていないから、探すところから始めないといけない」
オリバーが地図の上にバトゥの写真を置く。白黒で、おそらく新聞に載っていた写真を切り抜いたようだった。
「こいつは、何をしでかしたんだ?」
アロンは腕を組み、写真を覗き込みながら聞いた。
「いや、しでかしたというか、命を狙われているらしい。吸血族にしてはいい奴らしく、フジの親方が保護しろと」
「なぜ命を狙われているんですか?」
今度はロランがオリバーに聞く。
「他の貴族たちは、リベラルな立場を取るバトゥ議員が気に食わないらしい。既に周辺の何人かはゼリク派に取り込まれているから、そいつらに先を越されないように、攫うようにしてかくまってほしいとのこと」
目を瞑って話を聞いていたルピナが、真っ黒なグローブを付けた手で無言で地図を指さすと、さらにオリバーが答えた。
「この件を依頼してきたのがバトゥ議員の秘書の人なんだが、おとといから連絡がつかないそうで、多分」
オリバーが首を親指で斬る動作をして舌を出した。
「でもある程度の場所はつかめてる。西部にあるバトゥ議員の仕事場。彼は基本この周辺しか出歩かないらしい。仕事熱心な人だ」
「なるほど。それで明後日の朝に不朽聖堂裏に集合なんですね」
ロランが頷きながら言った。
「そう。昨日知らせた時間と場所は守ること!特にアロン、いいね?」
急に名前を呼ばれたアロンが、しかめっ面をしてオリバーに反論する。
「んな!俺はまだ一回しか遅刻したことねぇぞ!」
「ふふふ。あるじゃん」
ロランがつい笑ってしまった。
少年たちが教会から出て行くと、リリィは一人教会に残った。
暫くすると、彼女の側近であるバーチが教会に入って来る。
「あの軍部の子が入った時を思い出すわね」
薄暗い灰色の教会の中で、ステンドグラスを通った光が、綺麗に整ったリリィの横顔を彩る。
「えぇ、そうですね。馬車、到着いたしましたよ」
バーチがリリィの前に跪いて言った。
「彼、名前何だったかしら」
バーチは顔を下げたまま言う。
「キリですかねぇ」
リリィはキリの名前を聞くと、確かにそうだったという風に頷いた。
「彼も同じ方法で教団に入れたけど、思ったよりも活躍しているらしいわね」
「ええ。あ、ついでに今思い出したのですが、クリスとかいう小僧は只今生死不明のようですぞ」
バーチが顔を上げ、ニヤリとして言った。するとリリィも目を合わせ、ホホホと笑いながら扇子で口を隠す。
「それは私も聞いたけど、死んでるわよ。彼。ブルート君相手に何の犠牲もなく勝てるはずがないもの。あっけない死に方!安心したわ。彼は本来この世界にいちゃいけない存在なのよ。一人で十分!」
リリィの機嫌が良いのを見て、バーチはここぞとばかりに手でお金のマークを作った。そして、にへらと笑いながら言った。
「私はあまり深くは知らないのですが、ボス、その、報酬さえもらえれば…」
「馬鹿おっしゃい!あなたが始末したのではないでしょう?勿論報酬はあげないわ。調子に乗らないことね。それと、ボスとは呼ぶなと言ったでしょう?私は信徒にとって神聖な存在なのよ」
そう言われると、バーチはサッと頭を下げて一歩引く。
「申し訳ございません」
「さ、行くわよ。さっさと私の家へ帰りたいわ」
「はい、只今」
リリィがバーチに支えられて立つと、二人はゆっくりと歩いて教会の出口まで来た。
そしてバーチが教会の扉を開けると、外ではリリィの親衛隊が馬車を取り囲んでいた。
兵士達がリリィの姿を見ると一斉にリリィに感謝を述べていく。その光景は、まさに彼女がどれほどのカリスマ性を持っているのかが分かる一場面であった。
「教祖様!」 「ありがとうございます教祖様!」 「再び神の御加護が得られました!教祖様のおかげでございます!」 「義務付けられているクロノス教のネックレスを付けただけで自分が浄化されて、常に教団を感じることができ…」
リリィは何人かの兵士の顔を見て頷くと、そそくさと馬車の中へ入っていった。
感謝を伝えることができなかった後方の兵士は悔しがっている。
「こら!リリィ様は疲れておられる!早く出立せい」
バーチが声をかけると、馬車はゆっくりと進み始めた。
二日後、ロラン達は不朽聖堂裏に来ていた。
不朽聖堂は古代からずっと壊れていない、歴史ある聖堂ということで有名である。昔はケルンと呼ばれていたらしい。
もしかしたらこの聖堂は、人々が自由に、争うことなく暮らしている世界も見てきてかもしれない。
ロランがそんなことを考えていると、すぐに他のメンバーも集まってきた。
皆一般人に紛れた格好をしており、特にオリバーは茶色のコートに白いパンツ、黒のシルクハットと完全に上流階級の見た目をしている。唯一ルピナだけは変わらず、狩人が被るような大きな革製の帽子と、黒いマントとスカーフを身にまとっていた。
「ルピナ、ここはスーツで来いよ」
アロンが苦笑いしながら言う。
「無理」
ルピナが一瞬アロンの方を向いたが、そっぽを向いて小さな声で言った。
オリバーがやれやれという顔をする。
「しょうがないなぁ。その格好で来られちゃ、バトゥの周りにいる奴らに感づかれてしまう。とりあえず今日は別行動してくれ。何か情報を見つけたら言ってくれ」
そう言われると、ルピナは無言でマントを翻して、颯爽と雑多の中へ消えていった。
「まったく。絶対姿だけは見せねぇもんな」
「いいじゃないか。彼は僕たちの倍の仕事してくれるから、たまにはね。さぁ、こっちも取り掛かろう!」
取り敢えず三人は、直接バトゥの事務所へ行くことにした。
「すみません、今バトゥ議員はいらっしゃいますでしょうか」
事務所へ到着し、ロランが門番にバトゥのことを聞いてみる。
「いえ。只今バトゥ議員は外出されております」
「どちらに出掛けられているか、教えていただくことって可能でしょうか?」
「申し訳ございません。行き先等は私にはわかりません。また、知っていても安易にお伝えすることはできません。ですので、事務所入ってすぐの受付にて面会予約をされてください。きっと来月までには会えると思います」
それを聞いたロラン達は、互いに顔を見合わせて難しい顔をした。
「あー。予約は一旦せずに考えなおします。どうも御親切にありがとうございました」
ロランはペコリとお辞儀をして、三人で事務所から離れていった。
「まずいな。ロラン、オリバー」
少し道から外れたところでアロンが言う。
「そうだね。彼の秘書が吸血族派に殺されてから少し経ってる。早めに救出したい」
オリバーがあごをさすりながら考えていると、ロランが少し悪い顔をして言った。
「事務所に忍び込んじゃいます?誰にも見つからずに探れば大丈夫ですよ」
「お前、意外と良いこと言うな。あんまそんな無茶するタイプじゃないと思ってた」
アロンが言う。
「クリスに影響されたのかも」
ロランが俯いて、少し苦笑いした。
オリバーはしばらく考えてから二人に言う。
「そうするかぁ。何にも思い浮かばないし。するとしても、潜入するのは一人だけ。責任重大だよ?誰が行く」
「俺が行ってくる」
アロンが如意棒を伸び縮みさせ、肩を鳴らしながら言う。
「君戦ったらいけないの分かってる?全くもう。行くならバレずに行けよ」
オリバーがそう言うと、アロンはウインクして再び事務所の方へ戻っていった。




