第二十八話 惨劇※閲覧注意。とてもグロテスクな描写になっています。
グロテスクな内容ですので、次回の冒頭にこの回のあらすじを乗せております。そう言ったものに耐性が無い方は、是非そのまま次の回へとお進みください。
クリスは驚いた。ここにいるはずのないゼリクが、何故ここにいるのかと。
「ブルート!なぜ死んでしまったのだ!おい、そこの坊主!ブルートを殺したのはお前か!指名手配で見たぞ。クリスとかいうやつだな!」
オファクの民に支えられたクリスが、荒ぶるゼリクを睨みつけた。
「ゼリク、やっとお前を見つけることができt」
「質問に答えろォ!」
カール達も急な出来事に唖然とした。
「わが義弟を殺したのはお前かァ!」
「そうだ。そうだそうだそうだ!俺だ!俺がブルートを殺したんだ!続けてお前ら三人とも殺してやr!」
クリスはそこから先のことをはっきりとは覚えていない。断片的な光景と、断末魔と、血の匂い。
クリスがゼリクへの殺害予告を終わらせる前に、隣でジャガーの首が斬り落とされた。いや、只勝手に落ちたように見えた。
次に、エアリアの腹に穴が開き、臓物が地面へと引きずり出された。
次にカール。彼は足を折られ、地面に伏したところで、頭を踏まれて命を奪われた。
次にクリスを支えていたオファクの男。次に、次に、次に次に次に。
クリスには、何もできることが無かった。何一つ。仲間たちが殺されていく様を、只指を咥えて待つしかなかった。
数秒後、目に見えぬスピードで殺戮を行う悪魔が、クリスの目の前へと降り立った。
一瞬で真っ赤に染まった広間の光景と、引き千切られた己の四肢、オファク兵の叫び声、ジャガーの首が落ちる音。
反乱軍はゼリクにより、圧倒的な力、スピード、技術で蹂躙されたのだった。
「これはブルートを殺した貴様への復讐だ。これでも足りぬくらいだ。だから私はお前の大切な仲間と四肢を奪った。これでも足りぬくらいだ!これでも足りぬくらいだぁぁぁ!このまま苦しみながら死ね小僧。己の罪を償って死ねぇぇぇえええええ!」
気づいたときには、クリスは屋敷の広間で一人、地面に転がっていた。
辺りにはかつて仲間達だったものが散乱し、自分の体には痛みを感じなかった。
クリスは絶望とも、憎しみとも、苦しみともつかない感情に支配される。
実際、クリスは自分の四肢をもがれたことよりも、仲間を失ったことが痛かった。特に、共に酒を酌み交わし、まるで姉弟であり師弟のような関係だったエアリアの死、反乱軍の面々が為す術もなく殺されていくその様は、クリスの心に一生の傷を残すだろうと、自身で容易に想像できた。
今までロランと二人、慣れない都会であるステティアに出て頑張ってきたが、その先で出会った数々の絆。いつも暖かかった同志たちとの会話。
それらが、たった数分にして、一人の男によって破壊された。
クリスは涙さえ出なかった。そんな次元ではない怒り、悲しみ、苦しみ。
ゼリクが去り、誰一人息すらしない、静かになった広間でクリスが叫んだ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
屋敷を出たとき、ロランは異変を感じ取った。濃厚な吸血鬼の匂い。毎日人の生き血を啜り、何千年もの時を生きて来たであろう、狂気的な頂点捕食者の匂いがした。
「まずい」
ロランは異変のことをルーシーに言い、これまで来た道を二人で引き返し始める。
裏路地から出て、屋敷正面の大通りに入ると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
見渡す限りの死体死体死体。
あるものは体を横に切断され、あるものは体を粉々に潰されている。
血は川のように流れ、坂へ滝となって流れてゆく。
「クリス、みんな!」
ロランは今まで感じたことのないほどの悪寒を感じて、足早に屋敷へ踏み込む。
屋敷の中も見渡す限りの死体だらけ。
屋敷の住人であろう吸血鬼や、獣人や人の奴隷まで殺されていた。
その中には小さな獣人の子供もおり、白と黒の、オオカミのキャラクターのぬいぐるみを抱えたまま地面に倒れていた。
「何て惨い」
ルーシーはあまりの光景に吐き気を催す。
ロランは顔面蒼白になり、広間まで小走りで向かった。
廊下も壁も血、血、血。
屋敷の広間へ進むにつれ、壁から天井まで、すべてが真っ赤に染まっていった。
ロランが広間へ着くと、開け放たれたドアからいくつもの死体が溢れ、それらが全て苦痛の表情を浮かべている。
その中にはカール、ジャガー、エアリアもいた。
ルーシーが三人の元へ走り、まだ少し暖かい遺体の側で涙を流した。
さらに先を進むロランは、死体の中にクリスを見つけた。
手足を千切られ、微かな息だけが口からこぼれている。
「クリス!何があった、どうしたら助けられる、クリス、クリス!うぅ、、、あぁ」
奥に進んで来たルーシーがクリスに近づき、胸に手を当てた。
「まだ生きてるわ」
ルーシーは少し考えた後、ゆっくりとロランに言う。
「唯一彼が助けられる方法があるとしたら」
「お願いします」
ロランはその方法を聞く前に答えた。迷いのない、即答だった。
「彼を吸血鬼の血の中に漬けて、吸血族の血を体内に循環させることができれば、…彼は吸血族になってしまうけど、助かるわ。うまくいく確率は、10パーセントといったところね」
今のロランは、確率などどうでもよかった。ただひたすらにクリスを助けたい、その一心だった。




