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(β版)  作者: 自彊 やまず
第二章 ラオ編
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第十八話 反逆の灯火➂

「ワシは援軍要請を受け入れたわけではない。じゃが、その話を少し考えることにした。しばし待て」


「「あ、ありがとうございます!」」


 エアリアとクリスは互いを見て頷いた。


 それからすぐに、族長の部屋へと町のまじない師や狩猟団のリーダーが来て、町総出の会議となった。クリスとエアリアは入り口近くの壁にもたれてその様子を見ている。


「まったく、君があんなこと言いだしたとき私がどれだけ焦ったか」


 エアリアが周りに聞こえない程度の声でボソッと言った。


「すみません。でも、族長さんの場合、こっちが下手に出てちゃ援軍はもらえないと思ったんです。これまでハンスっていう厄介で頼りになる爺さんを相手にしてきたんで、多分こうした方がいいなと」


「ハンス…?まぁ、この町で頑固爺さんに歯向かう奴なんていないだろうからね。爺さんもびっくりしたと思うよ」


 エアリアがそう言うと、クリスが力こぶを作ってドヤ顔をした。


「にしても、君は私達に負けず劣らずブルートへの憎しみが強いね。あまり聞かない方がいいのは分かってるんだが、君の身に何があったか聞いても…」


「いいっすよ」


 そこでクリスは、エアリアにこれまでの話を全て話した。ハンスという育ての親が殺されたこと、その犯人がブルートやゼリクであることを。


 彼女は一言も割り込まずに、静かに頷きながらクリスの話を聞いた。


「そんなことがあったんだね。話してくれてありがとう。なんだか私も気が引き締まったよ」


「いえ、俺も普段この話はロラン以外しないから、聞き手になってもらえてよかったっす」


「いいんだよ。それに、私も―」


 エアリアが何か言いかけた時、二人が急に族長から呼ばれた。


「エアリア、クリス、決めたぞ。ワシらは」


 二人は固唾を飲んで次の言葉を待った。洞窟の中で族長の言葉が反響し、肌寒く、暗い部屋に緊張感が走った。


「協力することにした」


 それを聞いた途端、二人の表情が一気に明るくなった。洞窟の中も一気に騒がしくなる。


「やった!ありがとうジイジ!」


「ジジィ?」


 クリスが首をかしげた。


「族長の名前!ジイジ族長!」







 その夜、村で歓迎会を兼ねた決起会が行われた。


 洞窟の外の広場で宴が行われ、村中の人々集まってきた。提灯が灯され、子供たちは駆け回り、大人も酒を飲んで大騒ぎした。


「ワシらも、よく考えたらのぉ、ブルートにのぉ、思うところがあっての、最近谷の水が枯れてきよったんじゃ。気になって、調べたらブルートの所為じゃったんじゃ!やっぱりここで一発、、、」


「族長、お酒の飲みすぎでございます!気を付けてください!」


 護衛が族長の飲みすぎを注意する。

 それを見たエアリアが、護衛にも酒を注いだ。


「たまにはいいだろう?あんたも、あたしが酒注いでやるから飲め飲め!ムラビートエも!モブビーも飲め!」


 族長が意識朦朧とする隣で、酒を飲んだことで大きく性格が変わったエアリアが、皆に酒を勧め始めた。


「おい、クリ坊!お前は飲まないのか?あたしが注いでやるよ」


「え!?俺未成年ですけど、あの、エアリアさん」


「エアリアだァ?姉御と呼べ姉御とォ!おら、注ぐぞ!」


 渋るクリスのコップに、並々エールが注がれた。


 勿論クリスは飲酒初挑戦。前世でもこの人生でも一口も酒を飲んだことが無かったが、遂に大人の階段を一歩上ることになる。


 クリスが意を決して飲もうとした時、エアリアが間違えて、クリスのコップに注がれたエールを飲んでしまった。


「んめー!!!!!最高だな!クリス!」






 それからしばらく経ち、住人たちもそれぞれの家に帰り始めた頃、クリスとエアリアは酔いを醒ましに、オファク渓谷の上にある砂丘へと腰掛けていた。


 満天の星空の元、心地よい風がクリスの頬を撫でた。


「なぁ、ほんとに良かったのか?なぜあたし達と行動を共にするんだ。こっちとしては戦力が増えるから良いんだけど、あまりにも二つ返事だったからさ」


 エアリアがそう聞くと、クリスは砂の上に寝転がって答えた。


「正直、最初は反乱軍と共に行動するつもりはなかったっす。でも、救護テントから出たときに貧しそうな子供がいて。この子達を守るためにも、より目標へ近道できる方を選んだんです」


「フフフッ、アンタもチビ助のくせによく言うよ」


 エアリアは酔いを醒ましに来たはずだったが、さらに酒をがぶがぶと胃に注ぎ込んだ。彼女は既に焦点が定まっていなかったが、まだまだ飲むつもりだった。


「あたしはね、実はジイジに育てられたんだ。十歳の時、両親が流行り病にかかって死んじまってよ、それからあたしを拾ってくれる人はいなかった。一人、街で途方に暮れてた時にジイジが来てくれた。ジイジ、お父さんの知り合いだったみたいで。それからこっちに引っ越してきて、オファクで育ったんだ。戦闘術も学んだ。ジイジに教えてもらったの。あの爺さん、目が見えないのにすごいだろ」


「え、族長って目が見えてないんすか!じゃぁ、最初に会ったとき俺に気づいたのは?」


「彼にはお見通しなの」


 自慢気にエアリアが言った。クリスは水を飲み、宴会場から持って来た豆をつまむ。


「そんでよ、あたしの右手が機械の理由なんだけど、小さい頃右手を蛇に噛まれて。右手を切らないと毒が全身に回っちまうってなったんだ。その時にラオで手術して義手にしてもらった。すごいだろ?ジイジがほぼ全財産使って買ってくれたんだ」


 エアリアがクリスに右腕を見せた。アーティファクト技術によって作られたその義手は、素晴らしく手入れが行き届いており、エアリアが心底大切にしていることが伺えた。

 腕の外側からは刃が飛び出し、いつでも戦闘態勢になれる高性能ぶりだった。


「あたしの最終目標は医療の普及。私みたいな不幸な孤児を減らすためにね」


「おぉ。それ、いいっすね。自分も手伝いますよ」


 クリスは自然と笑顔になった。

 ここまで腐った性格を持ち合わせた人間ばかりを見てきたからなのか、反乱軍での優しい人物との出会い一つ一つが、クリスの心をじんわりと温めた。

 エアリアもそんな優しき心の持ち主の一人だった。


「じゃぁ、この戦いも乗り切りますよ。姉御…あねご?」


 エアリアに呼び掛けるが、返事がなかった。

 クリスが慌ててそちらを見ると、エアリアは既に幸せそうな顔をして寝ていた。

 久々の実家に落ち着いたのか、はたまた酒に酔っただけなのか。


「寝るの早いっすよ」


 そう言うと、星を眺めていたクリスも夢の世界へ落ちていった。

 そうやって皆は、夜をゆったりと過ごした。戦争への恐怖を紛らわす、束の間の安息を。






 ハピがロランに蹴りを入れ、ロランはそれを腕でガードした。がら空きになった足元をすかさずハピが蹴り払う。


「まっずい!」


 ロランが地面に膝をついた時、すでにロランの喉元にはハピの手刀が添えられていた。


「まだまだだっぴ。もっと全身をくまなくまもるっぴよ」


「すみません。もう一回稽古付けてもらってもいいですか?」


「勿論だっぴ」


 ハピがそう答えると、もう一度二人は戦闘態勢に入った。


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