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(β版)  作者: 自彊 やまず
第一章 旅立ち編
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第十一話 こっから来るってわかってんねん➁

「て、敵が来た!敵がぁ!あわわわわ」


 階段下から来た敵がロランを見つけたことで、遂に戦いの火蓋が切られた。

 敵の前衛兵士は槍を持っており、短距離武器を持ったクリスとロランは、早速不利的状況に陥った。


「所詮二人じゃ勝てねぇぞ!降参しろ!クロノス教の手下共」


 敵兵士はざっと20人。リーダーであろう男がクリス達に降伏を促す。


 前衛が槍を突き出し、相手の槍先がロランの肩をかすめた。ローブに血が滲み、槍を受け止めたマチェットからは火花が散る。

 クリスは敵の槍を奪い、狭い場所にいる敵を薙ぎ払うが、使い慣れない武器を使ってでは敵に致命傷を与えることはできていなかった。


「ロラン!このままじゃ押し切られる!一度前衛の敵を消すから目をつぶれ!」


「了解!」


 そう言うとクリスは何やらポケットから玉を取り出し、階段の下へ転がす。


「爆ぜろ」


パアアアアアアアアアアア


 玉が爆発すると、轟音と共にまばゆい光が階段を包む。敵兵士は目と耳をやられ、頭を押さえてその場に立ち尽くした。


「!」


 次第に耳が聞こえるようになってきた兵士が次に聞いたのは、パンパンとした短い音だった。

その音が鳴るたびに仲間たちが倒れる。


「なんだこれはぁああ!」


 敵兵士が混乱に陥っている中、クリスは遂にハンスの忘れ形見を取り出した。

 それは一方的な殺戮。

 クリスがピストルで一人ずつ確実に頭を打ち抜いていった。リコイルをうまく抑えながら、丁寧に引き金を引く。彼には少しの躊躇いもなかった。


「ま、魔術だ!魔法を使いやがったこいつら!一回退け!」


 敵兵が一度退避するとクリスは辺りを見回し、安全を確認してから、ピストルの銃口から出る煙を口でフーっと吹いた。


「俺、これ一回やってみたかったんだよね」


「ナイス」


 クリスとロランの前には十余人の死体。次に来るものは恐れ慄き、互いに遠慮しあっていた。






 一方のロータスとカトレアは、ラムズスの待つ部屋を守る護衛兵達に苦戦していた。その数約十人。

相手リーダーは短弓を持っており、無闇に近づこうとすると眉間に狙いを定められた矢が二人を襲う。


「まずいな。」


「ここは私が牽制します。小刀を投げるので、その隙に距離を詰めて!」


 そう言うとカトレアは小刀をいくつか構え、一つを相手の弓手に投げる。当たりはしなかったが、こちらを警戒させるには十分な攻撃だった。

 その間にロータスが戦斧をもって距離を詰めた。相手の近接兵が前に出て来て槍を構えるが、ロータスは槍ごと兵士を真っ二つにする。

 敵兵の血がロータスにかかり、鬼神の様な気迫が相手を恐れさせた。


「オラァ!次の犠牲者は誰だ?出てこい!」


 次にロータスの前に立ちはだかるは同じく戦斧を持った男だった。互いの巨大な斧がぶつかり、火花を散らす。廊下の壁や天井ごと、辺りを全て破壊していった。


 カトレアはもう一度弓手に小刀を投げるが、相手はそれを弓ではたき落とし、すかさず矢を打ち返した。

 放たれた矢は、廊下の中央で戦う二人の僅かな隙間を抜け、カトレアの右頬を掠って飛んで行った。


「まずいわ。彼女、思ってたより弓の才能がありそうね」


 カトレアの頬から血が滴り、相手の弓手がロータスへ向けて次の矢を構える。

 丁度カトレアの位置からでは敵が邪魔で、矢の進路へ干渉できない場所で矢が放たれようとしていた。それにロータスも気づく。


「まずい!」


 相手の弓手はロータスの頭へ向けて寸分の狂いもなく矢を発射させた。

 恐ろしいスピードで接近する矢に、ロータスは避ける暇も無い。

 矢は動いているロータスの眉間に吸い寄せられるように、着実に迫っている。

 ロータスも敵の斧と矢を同時に避けようとするが、どうしても矢の軌道上に頭が来た。


ドスッ


「うぁぁあぁああ!」


 そして矢が頭に突き刺さり、血しぶきが吹き上がる。ロータスの顔は真っ赤に染まった。

 敵兵の返り血で。

 ロータスと敵弓手は急な展開に戸惑った。

 しかし、カトレアは余裕の笑みを浮かべて言った。


「私を舐めないでくださる?」


 矢が刺さったのは、ロータスと組みあっていた敵兵の()()()()だった。相手弓使いの計算には寸分の狂いなどなかったはず。


「どうやって!!」


「私程にもなれば、小刀で人を転ばして矢の着弾点に頭を持ってくるくらい造作もないわ。オホホ」


 これにはさすがのロータスにも冷や汗が伝った。

 そしてロータスはその冷静なカトレアに圧倒され、さらに慎重に行動しなければならないことを覚悟する。


 相手の弓使いが兵士の足を見ると、そこには見事にナイフが刺さっており、それによって彼が()()()()()こと分かる。


「今度は俺の番だ!いくぞぉぉぉぉおお!」


 あっけにとられた敵兵をよそに、すぐにロータスが敵の中へ突っ込み、一気に数人ずつ薙ぎ払っていく。

 カトレアも後方から援護し、気づくと部屋の前にいた敵は一人もいなくなっていた。


 そのままロータスがドアを蹴破り、ガタガタと震えているヒッタ派の首領(ドン)、ラムズスを見つけた。


「さぁ、洗いざらい、喋ってもらおうか、ラムズスさんよぉ」






「まずい!こいつ強すぎる!」


 そのころクリスとロランは、新たな敵と出くわしていた。


 怯えきった兵士たちの奥から出て来たのは、鋼鉄の鎧を被った巨漢の狂戦士だった。

 何か薬物でもやっているのか、奇声を上げながら襲ってくる。


 クリスが銃を撃っても弾が弾かれ、当たったとしても変わらず奇声を上げてハンマーを振り回す巨漢。

 その姿はまるでゾンビの様だった。

 ロランのマチェットではまるで相手にならないほど強力な一撃が放たれ、一度戦線から下がるロラン。

 二人は完全に攻めあぐねていた。


「これはガードしても吹っ飛ばされるぞ!うまく避けて戦うんだ!」


 ロランが叫ぶ。


 狂戦士は廊下一杯を使って攻撃してくる。その後ろには階段を上ってきた何人もの兵士が待ち構え、クリスとロランには厳しい状況だった。


「くぁwsでftgyふじこlp!!!!!」


 バーサーカーが謎の言語を叫んだ。


「こいつ頭いかれてやがる!先輩二人はまだか」


 クリスの体力もかなりしんどくなってきた。息遣いは荒くなり、汗が額に浮かび上がる。

 ロランは先輩の姿が見えないのを確認すると、無言で首を振り、まだ耐える必要があることをクリスに伝える。

 耐えきれなくなったクリスは、「これで終わりにする…」と決心した瞬間、ポケットから火打石と、一つの鉄の玉のようなものを取り出した。


「じゃあ、とっておきの武器を使うしかねえな!ロラン!」


 敵の攻撃を避けつつ、クリスは背負っていた丸い筒に鉄の弾を入れて、何やらいじり始める。


「クリス、なんだそれは?」


 ロランが相手の攻撃をすれすれで躱しながら問うた。


「これはロケランってやつで、爺からもらった弾丸一杯詰め込んで作った、コスパの悪い武器!」


「な、何を言ってるのかわからないよクリス!わかるように言ってくれ!」


「ま、下がって見てろって」


 そういうとクリスは大筒を構え、導火線に火を点けた。


「3」


「まずいクリス!とても僕じゃ相手になってないよ!一度下がる!」


「2」


「あsl@mjcるんrbmr!!!!」


「1」


 そしてロケットランチャーの火薬まで火が到達する。


「おらァ!燃やし尽くせロケットランチャー!!」


ドッカァァァァァァァァァアン!!!!!!


 クリスの作ったロケットランチャーが原始的だからなのか、砲身から出た弾にはすぐに火が燃え移り、まるで大きな竜のごとく太い火柱が雄叫びを上げながら打ち出された。


 敵は巨漢の男ごと吹っ飛ばされ、後ろにいた敵兵も全員爆風に飛ばされる。

 なぎ倒された全ての敵兵達。

 もう一度起き上がるものは一人もいなかった。


 しかしこの武器も諸刃の剣であるのか、クリスとロランにも火の粉が襲い掛かり、二人とも腕に火傷を負っていた。

 廊下は瓦礫まみれとなり、辺りから警察の笛の音や叫び声が聞こえてくる。


「やったな、クリス!」


 達成感に浸っていると、不意に二人の後ろから声が聞こえて、ロランとクリスが飛び上がった。


「お前ら派手にしやがって。想像以上の大物ルーキーだったようだな」


「「先輩!」」


 そこにはロータスとカトレアの姿があり、どうやらその様子を見るに、ゼリクに関する情報が聞き出せたようだった。


「帰りましょう。表は警官でいっぱいだから、裏口から出るしかないわね」






 四人は一階まで下りて、裏口のドアから外に出た。表口の辺りでは、爆発音に驚いて夜中に起こされた人々の騒ぐ音が聞こえる。


 しかし、誰もいないはずの裏口へと出た瞬間、四人はおぼろげながらそこら中に人影があるのが分かった。

 よくよく見てみると、黒いマントを羽織り、手にサーベルやダガーを持った者たちが何人もいる。

 彼らは皆目に見えそうなほどの殺気を放ち、こちらへと冷酷な視線を向けていた。


「マズい!こいつらは吸血鬼協会直属の吸血鬼達。ゼリクを怒らせすぎた!」


 ロータスがそう言っている間に、吸血鬼達の一番前にいた男が身をかがめた。

 クリスが次に瞬きをすると、彼は一瞬でクリスの目の前まで来ている。


「クリス!危ない!」


 ロランが叫ぶとき、吸血鬼は既にサーベルを振り上げていた。


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