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(β版)  作者: 自彊 やまず
第一章 旅立ち編
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第十話 こっから来るってわかってんねん➀

 翌日夕方、クリスが作戦室の重い扉を押し開けた。部屋の中央には、見慣れない髭面の男が立っており、彼の周りにはキリとロラン、そして二人の戦闘員が集まっていた。

 男の鋭い目がクリスを一瞥し、クリスがぺこりと頭を下げるが、厳しい表情が崩れることはなかった。


「クリス君は初めましてだね。儂はクロノス教軍部の総隊長、フジだ。よろしく」


 皆の中心に立つ、立派な白髭を生やした大男は自らをフジと名乗り、クリスへ手を差し出す。クリスは警戒しつつもその手を握り、小声でよろしくとだけ言った。


「そしてここからはロラン君も初めましてだ。右がロータス、左がカトレアだ」


 二人とも順にクリス、ロランと握手していく。ロータスはグラデーションに染められた茶髪にピアスと派手な格好で、カトレアは黒髪ハーフアップで大人しそうな見た目をしていた。


「では、作戦を伝える。ロータスとカトレアはヒッタ派系組織のボス、ラムズズから情報を引き出せ。クリス君ロラン君はその間の見張りだ。

すべてが終わったらあとはキリに始末してもらう。この作戦で行くぞ!」


「「「イエッサー」」」


 その後、五人はすぐに部屋を出て準備に取り掛かった。

 真っ黒なローブを着込み、深くフードを被ることで顔を隠し、まるで影のように見える姿に変わった。

 ロラン達は太ももに鋭い短剣を装備し、それぞれの主戦力となる武器を背負って、ヒッタ派本部での戦いに備えた。

 そして唯一、クリスは何やら新しい玉を懐へ入れると、背中に大きな筒を背負った。


「今日はチビ助たちと一緒に任務か。変な武器も持ってるし、嫌だな、カトレア」


「そんなこと言わないでください。クリス君もロラン君もいい子達と聞いていますよ」


 ロータス、カトレアの会話をよそに、ロランは二人とどう関わってよいか分からず、クリスは眼中にないといった様子で準備を進めていた。


「足引っ張んなよ。邪魔ならどかすかんな」


 ロータスがクリスを睨み、クリスもロータスを睨む。


「了解です。まぁ、僕らの働きを見てから評価してください」


 ロランは自慢げにマチェットをかざしてロータスに答えた。


「君達!喋っていないで早く準備してくれ。警備交代の時間は七の刻と決まっている。僕は先に行っておくから、すぐに来ること。現地では別行動だからな」


 キリがそう言って部屋から出ていくと、皆準備を急ぎ始めた。


 暫くして、もうすぐ全員の準備が終わるというとき、ロータスは新人二人に小さな箱のようなものを渡した。


「新入り共!これやるから腰につけとけ」


 クリスとロランは、言われるがままにそれらを腰につけた。ずっしりと足に重みが伝わり、クリスが早速ボタンを弄り出した。


「それは無線機だ。無線機っつーのは遠くにいる奴と会話ができる不思議な機械のことだ。初めて見るだろうがうまく使いこなせよ!」


 なんと渡されたものは、トランシーバーを二回り大きくしたくらいの無線機だった。

 電気という概念の無いこの世界に無線技術があるはずもなく、その仕組みや名前をしているのはクリスだけのはずだった。

 驚いたクリスがロータスに詳しく聞く。


「これ、だ、誰が作ったんスか?こんな、最新の、ありえない道具」


 ロータスは既に部屋を出た後だったが、代わりにカトレアがその問いに答えた。


「クリス君、それはクロノスのとっても偉い人が作ったものよ。私達には、とにかく上手く使えと命令が来るだけだから、詳しくは分からないわ。壊さないで頂戴ね」


 クリスは明らかにこの時代にそぐわない無線機を見つめて考える。これを作ったのはよほどの天才か、それともまさか自分と同じ転生者か、、、。


「ほら、早く行かないとキリ隊長が怒るよ!」


 ロランに声を掛けられてクリスは我に返った。眉間によっていたシワがぱっと広がる。

 三人は装備を持って、急いで部屋を出た。


 地上へ出ると、ちょうど太陽が沈む時間だった。街並みは淡い赤色に包まれ、まるで絵画のように美しい光景が広がっていた。

 人々は家へ帰り、日々の疲れを癒す時間。どこからともなく、誰かの家の夕飯の匂いが漂い始めた。

ロランはその香りに包まれながら、今日の夕飯はシチューかな、なんて考えていた。


 新人を含んだキリ部隊四人は、ステティアでも人通りの少ない道を進み、すっかり日が落ちる頃には目的地の建物に着いた。

 淡い夕焼けが消え、夜の静けさが再び彼らを包んだ。闇の中、彼らの任務は静かに、しかし確実に進行していくのだった。






 ヒッタ派の本部はビルのような形の四階建てで、屋上には大きな歯車がいくつも回っていた。

 ロータスとカトレアが音もなく門番二人の首を絞め、気絶した彼らを近くの路地に隠す。

 四人は入り口から建物へ入り、警備交代中で誰もいない一階を歩いて進んだ。


「誰もいねぇなぁ、これはちゃっちゃとボスに会って帰ろうぜ」


「焦ってはいけないわ。気を抜かないで」


 ロータスはすでに気が緩んでいるようでズカズカと廊下を進んでいく。それにロラン、カトレアがついて行き、クリスはここまで人気のないことを怪しがっていた。


「何か、おかしくないスか?」


「お?ビビってんのか?誰がいても俺がぶちのめしてやるよ」


 一行は三階へ上る階段近くまで来たが、ついに誰とも会わなかった。

 風一つない、空気の淀んだ廊下と生温い室温がより不気味さを倍増させる。まるで近くに誰かがいるような感覚へ陥った。


 そして最上階である四階に到着しようとしたとき、不意にロランが人間の匂いを嗅いだ。


「待ってください!下の階から人が来ている。それも、大勢!」


 皆の顔に冷や汗が垂れた。

 背後から忍び寄ってくる死の影が四人の心臓を締め付ける。


「本当か!今日襲撃だということが分かっていたのか。どういうこった」


 ロータスは悪態をつき、カトレアは頭を抱えてどうしようか考えた。

 次第に足音がしてくるようになり、階段を上る人数が相当のものであると分かった。


「しょうがねえ。新入りども、お前ら逃げろ。俺ら二人はこの奥で、勝った気でいるであろうラムズスを捕まえて情報を聞き出す。後はキリさんに任せよう」


 ロータスがそう提案すると、ロランは慌ててそれを否定し、一緒に逃げようと説得を試みる。


「そ、そんな無茶な!ここは一旦逃げるべきです!死んでは元も子もないですよ!」


 しかし、ロータスは聞く耳を持たない。


「邪魔ならどかすっつっただろ?今ならまだ三階の窓から降りれる。情報は無線で言うからな」


 ロータスがそう言ってカトレアを連れて奥へ行こうとしたとき、クリスが口を開いた。


「じゃ、作戦とは関係なく、俺たちの意思で戦います」


 ロランが驚き、思わずクリスの肩を掴んで言う。


「クリス!何を言ってるんだ、この数じゃ勝ち目がないぞ!」


 しかし、クリスはロランに肩を揺さ振られながら、真剣な顔で三人に言った。


「ここで逃げても、俺らはどちみち内通者として捕まえられて厳しい拷問が待ってるはずっス。ここで真っ先に疑われるのは俺らっスから。それならここで全員倒すのが正解じゃないスか?」


 三人はあっけにとられた。ロータスとカトレアは意外とこいつ頭良いんだという目でクリスを見る。


「フフフ!お前、ここで全員倒すってか。やるじゃねえか!分ったよ、戦えよ。その代わりぃ、全員で生きて帰るからな」


「新入り君達、厳しくなったらいつでも逃げていいんだからね」


 ロータスとカトレアがクリスとロランに声を掛け、二人共自分の武器を鞘から抜いた。


 そしてロータスとカトレアは覚悟を決め、お互い顔を見合わせた後、真っ暗なヒッタ派本部の奥へ進む。

 殿のクリスとロランは、階段の上で敵を待ち構えた。


ザッザッザッザッザッザッ


 その足音は徐々に大きくなり、今やクリスたちのすぐ真下にまで迫っていた。緊張感が一層高まり、二人は息を殺してその動きを見守った。

 床板がきしむ音、鎧の金属が擦れる音が響き渡り、傭兵たちがすぐ近くにいることを知らせていた。

クリスはロランと目を合わせ、無言のうちに次の行動を決める。


 その時、突然足音が止まり、静寂が訪れた。全員が緊張の糸を引き締め、次の瞬間に備える。

 何が起こるか、どこから攻撃が来るかは全く予測できない。闇の中で二人は、まるで一体となったように心を一つにしていた。


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