表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/62

第7の宝石

 私とラファエルの気分は高揚していた。皇后に許してもらったあと、私たちは部屋でキスをした。昼食は宿屋で提供された豪華な食事を皇后とケネス王子とレティシアと一緒に取り、昼食の間中、ラファエルと私の視線が絡み合い、私たちは見つめ合うだけで幸せを感じた。


「今晩はいいね?」


 ラファエルに密かにささやかれ、私は顔が真っ赤になってうなずいた。私とラファエルの間には確かな愛の煌めきが存在していた。私は幸せの絶頂にいた。


 午後は、私とラファエルはケネス王子とレティシアとともに、ショーンブルク郊外に出かけた。


 第7の宝石は、銀板に浮かび上がった古代文字を並び替えることでわかった『(いにしえ)の祭壇より甦りし皇帝の光』の言葉がヒントだった。その言葉が伝わるジークベインリードハルトの伝説によれば、『皇帝の墓』にある『皇帝の椅子』に座ることができる者が次の皇帝になれるという。


 では、『皇帝の墓』だが、ショーンブルク近隣には3箇所あった。3箇所のうちどれが『皇帝の墓』であるかは、銀板を包んでいた白紙を暖炉の炎にかざして浮かび上がった、古代文字の暗号『シリウス』が指し示す。


 シリウスとは、オリオン座の隣に位置する冬の大三角形のシリウスだと推測される。同時に白紙に浮かび上がった暗号により、『百合とオリーブの木』がベテルギウスだとするヒントがあった。『百合とオリーブの木』はロレード商会の紋章だ。ロレード商会がベテルギウスだとすると、オリオン座のベテルギウスとともに形作る冬の大三角形のシリウスの位置にあるのは、3つの『皇帝の墓』のうち、シュトラウス大聖堂だった。


 そこには巨大な地下聖堂があるらしい。私たちは行き先は誰にも告げなかった。ただし、皇帝の騎士団とラファエルの騎士団、レティシアの騎士たちは私たちについてきていた。


 午前中に私が襲われたばかりなのだ。慎重に振る舞う必要があった。私たちは変装していたが、皇帝の騎士団を連れているのですぐにバレてしまいそうだった。


 馬で1時間ほど進んだところにある街にシュトラウス大聖堂はあった。地下聖堂はまだ新しく、歴代の皇帝の何人かを埋葬しているだけのことはあり、非常に立派な造りをしていた。ひんやりとした地下聖堂に向かって私たちは階段を降りて行った。皇帝の椅子を探すのだ。


 6つの宝石がはめられた古びた王冠も持ってきていた。


 私とラファエルはケネス王子とレティシアに嬉しい知らせがあったけれども、秘密にしていた。皇后はレティシアに内緒で、レティシアの実家に早馬を飛ばしてくれたのだ。


「フランリヨンドのオットー陛下がケネス王子とレティシアの結婚を認めたのであれば、この街にレティシアの両親の公爵夫妻も呼んで、すぐにでも挙式をあげてあげたいと思います。若い二人です。今すぐに一緒になりたいでしょう。急いで準備をするので二人にはまだ秘密にしておいてくださいね」


 ラファエルと私はその言葉を聞いてとても嬉しかった。きっとケネス王子とレティシアも喜ぶに違いない。冬の間コンラート地方のリシェール領に閉じ込められてしまうので、そこで二人の挙式を挙げてあげるべきか悩んでいたのだ。どちらの両親も参加できない状態であげるよりは、少なくともレティシアの両親が参加できて、主催者がジークベインりードハルトの皇后となれば、とても豪華な式になるであろう。


 地下聖堂に降りる時も、レティシアとケネス王子は手を取り合って降りて行っていた。ラファエルは私の顔を見て、二人の様子に肩をすくめてウィンクをして見せた。


 密かに二人の結婚式の準備が進んでいるなんて、二人が驚く顔を想像すると思わず口元が緩んでしまう。


「何?ロザーラ、何か隠しているの?ニヤニヤしているわよ」


 めざとくレティシアが私の表情に気づいて言っていたけれども私はごまかした。


「先ほど皇后様にラファエルの妻であることをお許しいただいいたので、つい……」


 私の言葉にレティシアも輝くような笑顔を見せた。花が開花するようなあの天使のような笑顔だ。プラチナブランドの髪の毛を揺らして思わず私に駆け寄ってきて抱きしめてくれた。


「あぁ、本当に!それはおめでとう!私も心から嬉しいわ!」

「ありがとう、レティシア」


 私たちは互いの幸せを心から祝福できる存在になれたのだ。姉のマリアンヌのことを一瞬私は思い出した。第一王子ウィリアムと幸せにやっていることだろう。レティシアは姉のように私にとっては何でも相談できるし、互いの幸せを素直に願える人だ。


「あった!」

 

 先に地下聖堂の中を歩いていたラファエルの叫ぶ声がしたので、私たちは急いで駆け寄った。ラファエルが一つの接近禁止のエリアを指差した。縄でぐるりと囲まれている。試すには、地下聖堂の中で人払いをする必要があった。


「仕方ない。君の紋章と皇帝の騎士団の威力を使って人払いをするしかないと思う」


 ケネス王子がラファエルに囁いた。ラファエルは『東インドから胡椒を仕入れたんだが、航海で……』といった話を盛んにしている商人たちや、街の人々をチラリと見た。確かに他の人がいるところで、皇帝の椅子に座って宝石を見つけるわけにはいかない。


「そうだね。ちょっと待っていてくれるかな」


 ラファエルは外の守衛に相談しに行った。私たちは地下聖堂の中を歩き回って、他に椅子がないことと敵がいないことを確認して回った。


 気づくと、騎士団と守衛が地下聖堂の人々に外に出るようにお願いしてまわっていた。やがて、私たち4人しか巨大な地下聖堂にはいなくなった。


 ラファエルは古びた王冠を手に恐る恐る皇帝の椅子に座った。しかし、何も起こらなかった。私とレティシアとケネス王子は椅子の周りを歩き回った。何かの印があるに違いない。


「古代文字の7よ!」


 レティシアが皇帝の椅子の台座から離れたところにある、壁を見つめて叫んだ。確かに普通の人が手が届かないような場所に古代数字の7と刻まれているのが読めた。


「僕が座ったままでいるからその7を押すことができる?」


 ラファエルがケネス王子に聞いた。ケネス王子はうなずいた。離れたところから助走をつけて走ってきて、壁際で思いっきりジャンプして壁を蹴り、7のところまで腕を伸ばして壁の7を押した。


 その瞬間、ぎいぎいと音を立ててラファエルが座っている皇帝の椅子が動いた。ゆっくりと台座が沈み始めたのだ。


「見えたぞ!」


 ラファエルは椅子の台座が沈んだところにあったくぼみから、何かを包んだような布を取り、急いで皇帝の椅子から飛び降りた。ラファエルが椅子から降りると、またしばらくして椅子の台座はぎいぎいと音を立てて元に戻った。

 

 私たちは顔を見合わせた。布を広げると、中から宝石が出てきた。すぐにラファエルが王冠の7つ目の穴に宝石をはめて、ゆっくりと回した。王冠に文字が浮きあがった。古代文字の座標のようだった。ラファエルが読み上げた座標を紙に書き取ると、ケネス王子は地図を調べ始めた。


「ジークベインリードハルトの都市だ。数世紀前から諸侯会議が開かれているフルトのようだよ。リーデンマルク川沿いの街だ。フランリヨンドのセルドに近い」


 ケネス王子が告げると、レティシアが補足した。


「かなり国境に近いわ。セルドにも近く、コンラート地方にもより近づいているわ」

「よし、明日はそこに行こう」


「そうね、この国の移動の間は皇帝の騎士がついてきてくれるから、返って安全なのかもしれないわね」


 私たちは次の目的地が判明したので、急いで地下聖堂を戻った。階段を上がって地上に出た。まだ日は高かったけれども、冬の夕暮れは早い。急いでショーンブルクに戻った方がよさそうだ。


 1時間かけて馬を走らせて戻ると、空に一番星がうっすらと輝き始める頃にショーンブルクについた。嬉しい知らせが待っていた。


 宿屋に戻ると、私たちは第7の宝石が手に入ったと皇后に報告に行ったのだ。皇后はとても喜んでくれた。そしてにっこりと笑って、レティシアとケネス王子に嬉しい知らせを皇后が告げたのだ。


「ケネス王子とレティシア。明日の朝、挙式をあげましょう。何もかも手配をしました。明日の朝早くに公爵夫妻も到着します。レティシア、あなたの両親も挙式に参加いただきます。雪が降る前に、結婚式をあげましょう」


 ケネス王子とレティシアはあまりのことに言葉も出ない様子だった。驚いた顔で数分の無言のまま互いを見つめあっていたが、ようやく理解できたようで二人とも叫んだ。私たちは二人を抱きしめて皆で喜びあった。


「え!?」

「お父様とお母様も来てくださるのですか?」


 レティシアとケネス王子は嬉しいような驚いたような様子だったけれども、ケネス王子とレティシアのそれぞれの部屋に明日の衣装の準備ができているから試着するようにと言われて、侍女に案内されていく頃には、高揚した様子で足取り軽く部屋を出て行った。


「フーエンシュタウフィン大聖堂で挙式の手配が整いました。あなたたち二人の衣装も準備しましたよ。ショーンブルク一の仕立て屋で、花嫁衣装と花婿の衣装を準備して、ついでにあなたたちの衣装も揃えておきました。着てみなさい。仕立て屋が待機しています。合わないところは調整してくれることになっています」


「ありがとう!おばあさま!」

「ありがとうございます。皇后様」


 私とラファエルは皇后に抱きつきそうな勢いで礼を言った。とても嬉しかった。


 今晩はワクワクして眠れなそうだ。大切なレティシアの結婚式ができるなんて、私はとても嬉しかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ