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恋の予感

 馬の走る蹄の音が私の頭に響く。私たちは前傾姿勢で覆い被さるようにして馬に乗り、ほぼ全速力で疾走していた。緩やかなカーブを描いて登っていく山の中だった。低木が多く、冬枯れしており、空気は澄んでいた。太陽は高く上がっている。


 先頭をケネス王子、レティシア、ラファエル、私の順で走り、すぐ後ろに騎士にまじってベアトリスとジュリアが走っていた。ジュリアとベアトリスが馬が乗れることは、今回の旅のポイントだ。前回私が死神と契約する羽目になった旅では、別の馬に乗れない侍女だった。


 レティシアは剣だけでなく、乗馬も非常に得意だ。私も普通に乗れたが、レティシアはその比ではないほど上手かった。先頭を走るケネス王子が時折心配そうに後ろを振り返って、レティシアの様子を確認しているのがわかった。


 敵に見つかるわけにはいかない。敵に目的地を悟られるわけにはいかない。私たちは大急ぎで移動していた。

 

 皆で話し合って今回は船で移動するのではなく、馬を使うと決めた。


 2つ目の宝石を回して表示された暗号文字は、ヴァイマルの街の座標を示していた。白ぶどうとワインの産地で有名な街だ。朝食の後、私たちはエーリヒ城を静かに馬で出て、そのまま疾走をし始めた。一刻も早く大聖堂に辿りつきたい。その一心で皆は馬を飛ばしていた。


 ヴァイマルに一番早く辿り着くには、馬を使うのが一番だった。いきなり相談したにも関わらず、エーリヒ城の城主は快く馬を貸し出してくれた。


 次のヴァイマルは白ぶどうの産地で有名だが、城はない。もしもこのまま船で旅を続けるなら、リーデンマルク川沿いの水の都であるゴーニャのフラン城が第3の城と推測するのが妥当だろう。しかし、宝石のありかの順番を決めるのは古びた王冠なのだ。


 私たちは王冠の暗号文字にしたがって、第3の宝石のありかはヴァイマルだと決めたのだ。


 今朝方私たちはエーリヒ城の客間で目的地を話し合った。どうやって移動するかも話し合った。


 その間中、ケネス王子は豊かな髪の毛を自分の手でぐしゃぐしゃにしながら、考え込んで意見を出していた。


「この座標はヴァイマルの街を示している。ゴーニャの街ではない。となるとだ。ラファエル、おばあさまの手紙にヴァイマルの名前があったか?」


 ケネス王子は何かを考え込むような様子でラファエルに聞いた。


「いや、なかった」



「つまり敵も知らない街がターゲットということになるな。白ぶどうの山地で有名ということは、第3の宝石の隠し場所は城ではないのかもしれない。ヴァイマルの街には城はなく、吸血鬼の伝説で有名な小さな廃城しかない」


 ケネス王子は考え込んだ。彼はこの国の王子だ。土地の特徴はこの中では一番頭に入っている。


「はるか昔のローマの時代にぶどうを栽培する方法が伝授されたヴァイマルの街には、ローマ人が構築を始めた伝説の大聖堂がある。そこに隠されている可能性があるかもしれない」


 ケネス王子は街の中心地あたりをさしている座標をじっと見つめていた。


「よし、ケネスの意見に賭けよう」

「そうね。ヴァイマルの街には城がない。となると、敵は私たちが城を巡っていると思っているのだし、好都合ではないかしら?」

「いいわね?ロザーラ」

「そうね。そうしましょう」


 ラファエルとレティシアと私は、ヴァイマルに向かうことで同意した。こうして、大陸を横断する旅は陸路から水路に変わり、また陸路に戻ったのだ。


 日中でもその日はかなり冷えていた。ヴァイマルの街に着くと、私たちは吐く息を白くさせて真っ直ぐに大聖堂に向かった。しかし、その大きな大聖堂の中では目的の宝石は全然見つからなかった。


「ここにないのかしら?」


 私たちは時間をかけて大聖堂の中を探しまわった。 


 レティシアが何度も探した椅子の下を再度見ようとしとき、偶然ケネス王子の手がレティシアの手に重なった。


「あっ!ごめんなさい」

「いえ、こちらこそごめんなさい」


 レティシアとケネス王子は互いに謝りながらも二人とも頬を赤らめていた。

 

「君の手には剣のたこがあるね……」


 レティシアは真っ赤になった。


「ちょっと見せていただけますか?」


 ケネス王子はレティシアの手を取り、しげしげと眺めていた。


「左時計台の方!」


 その時、急にケネス王子が叫んでレティシアの腕を引っ張った。それと同時に左側にレティシアが倒れ込んだ。ケネス王子の腕の中にレティシアは倒れ込み、ラファエルが逃げ去った男を追おうとした。


 一人の男が何か不審な動きをしたのだ。レティシアめがけて何かを投げつけるそぶりを見せた。


「馬泥棒かもしれないから、馬の様子ががちょっと心配だから見てくれないか」


 ケネス王子はラファエルに頼んだ。


 腕の中ではレティシアがドギマギした様子でケネス王子の顔を見上げていた。


 二人の目が合った。そのまま唇が重なり、二人は長い口付けをかわした。



 レティシアはケネス王子の髪の毛に優しく手を当てて瞳をのぞき込んだ。


「あなたは、私のことが好きですか?」

「はい、あなたにとても惹かれています。僕たち結婚しませんか?」


 私はそばでささやかれる二人の愛の告白にどきどきしていた。気配を消してその場から遠ざかろうとした。


「ロザーラ、ちょっと後で話があるわ」


 そおっと私が遠ざかろうとした姿が目に入ったらしいレティシアは、私に声をかけた。


「わ……わかったわ」


 私は顔を真っ赤にしてその場を足早に去った。人のロマンスの始まりを目撃する現場にいるのはとても気まずい。胸の大きなレティシアが頬を真っ赤に初めて瞳を潤ませている姿を見て、正気でいられる男性の方が珍しいとは思う。こと女性に関しては、ケネス王子は非常に真面目な方だ。今まで浮いた噂一つ無かったお方で、兄である第一王子ウィリアムとはその点は全然違った。


 



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