ベルタの城で愛を深める
暖かい暖炉の火が私とラファエルを照らし、私たちはゆっくりと口づけを交わした。ラファエルの瞳を見上げる。ラファエルの瞳が温かく煌めき、私の体温が上昇して顔が熱くなり、私は震える手で彼の胸に手を置いた。
「今日こそあなたと……」
それはそれはロマンティックな城で、月明かりに輝く川が見えた。窓の外は夜でもとても美しい眺めだった。新婚の私たちには愛をささやき合うのに全てがふさわしい部屋だった。城主は私たちを手厚くもてなし、最上級の部屋を用意してくれた。
私の心は彼に夢中だった。夫はいつのまにか私が恋焦がれる人になっていたのだ。いつからそうなったのかは分からない。でも、気づいたら私は夫に夢中だった。
ラファエルの温かくて分厚い手が私の髪を撫で、私の頬を通り過ぎて、私の肩から腰に手が滑りおりた。
「大事にしたいんだ」
ラファエルがゆっくりとした低い口調で私にささやく。
「ええ」
私はうなずきながらも、心の中ではレティシアが過去にラファエルとどんな関係だったか聞きたくてたまらない思いで溢れていた。
――彼女より、今は私がラファエルの近くにいると思いたいの。
私は目の前のラファエルをうっとりと見つめた。碧い瞳が私を愛でるように眺めていて、私は心の奥から彼のそばにいれることに感謝した。もっと近づきたい。
ラファエルが豹変したのはその時だ。私をいきなり押しのけた。私は暖炉のすぐそばに転がった。
「危ないわっ！どうしたのっ？」
ラファエルは無言で私を抱えてベッドの上に放り投げた。
私は豪華なベッドの上に放り投げられて、体が弾むのを感じた。突進してきたラファエルを私はベッドの上を転がってかわした。すぐさまベッドの横に立てかけてあった剣を手にする。
「どうしたの？あなた誰なの？」
私はラファエルを見据えて剣を構えて後ずさった。
「食べた……逃げてくれ、ロザ−ラ！」
ラファエはうめくようにそう言うと、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「食べたの？毒キノコを？」
私は剣を床に放り投げてラファエルに駆け寄った。彼は頭を抱えて睨むように床を見つめて動かない。
「出すしかないわ。神経にくる毒キノコよ。死にはしないけれど、暴れたくなるわ」
ラファエルが唸るように床を叩いた。幻覚症状だろう。
私は必死で介抱をした。彼はほんの少し食べただけだったし、私はあのキノコの対処法を知っていた。
――あのまま宿屋で皆で食べていて、全員でこの状況になっていたとしたら……？そもそもレティシアが彼をこんな目に合わせるようなことをするかしら。彼女は彼が欲しくてたまらない様子だった。だとすれば、彼を傷つけるようなことはしないのではないかしら。今回の犯人はレティシアではなないのかもしれないわ。
私はゾッとした。立派な城に守られている状況でラファエルが発症したのは不幸中の幸いだった。
私が食べるのをすぐに止めたために、ほんのわずかな量しか口にしていなかったこともあり、ラファエルはすぐに落ち着きを取り戻した。私たちはそれぞれ城の豪華な浴室で湯に浸かって身を清めた。
この騒ぎで一つ言えるのは、ラファエルが今までになく私を頼ったということだ。私が彼に守られるのではなく、私が彼を守って介抱をしたという状況になり、幻覚症状を発症してからはラファエルは明らかに私に頼った。
私はそれが二人の関係を深めたようで、少し嬉しかった。湯から上がってさっぱりとした顔で穏やかに私を見つめるラファエルは、私がそばにいることで心からくつろいでいるように見えた。
何事もなかったかのように旅の疲れを癒してくれる豪華な寝室で、私たちはほっとしてお互いを見つめあった。
「今日も無事に生き延びられてよかったわ」
私は心の底からそう思って、ラファエルを抱きしめた。
「本当だな。ありがとうロザーラ。陛下は素晴らしい人を私の妻に選んでくれた。感謝しかないよ。君にどんどん惹かれているんだ」
私はラファエルの心臓の鼓動を聞きながら、ラファエルの胸に顔を埋めたまま、嬉しくてぎゅっとさらにラファエルを抱きしめた。
「私もよ。陛下には感謝しかないわ。あなたの妻になれるなんて素晴らしいことだわ」
私たちはおめでたい夫婦なのかもしれない。命の危険にさらされながらも、こうして豪華な寝室で無事に生きていることを実感できると、幸せを感じてしまうのだから。
「さあ、古代語を教えてくださいな、あなた」
「ジミアレガワズダハストガ。イハベガだアングラビリチェガグラック……」
碧い瞳が私を見つめた。次の瞬間、ラファエルは私の耳元に口を近づけてきた。心地よい低い声が私の耳元でささやく。
「君の全てを僕にくれ。君の初めての人になれて、僕は信じられないほどの幸運ものだ」
私は古代語で愛をささやかれた。美しいベルタの街の有名な城の豪華な寝室もかすむほどの魅力的な夫からささやかれた言葉に、私は膝から崩れ落ちるほどの色香を感じた。完全に心を撃ち抜かれた。
美しいリーデンマルク川を使って交易をしようと思ったのは、天使のような美貌のレティシアが夫の前で私のドレスを馬鹿にしたのがきっかけだった。短期間に夫と私の関係がより強く深まったのは、私たちを誰かが狙ったからだ。
今宵、私は死神がくれたチャンスをきちんと活かせている気がした。
――死神さま！死を前にして再び戻ったおかげで、前より私は幸せですわ……
死を招くルートを回避していたのか、私は贅沢な城で素晴らしい朝を無事に迎えることができたのだ。
