ep.8 アンダーアトランティス
西暦2032年 4月7日 AM 10:50 AA入口
翌日俺たちはある路地裏の入口に集合することに決めてこの場所に来ていた。
「あの・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっと・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「久しぶり・・・・・・?」
再開してしまったのだ。姫咲色葉に・・・・・・。
*****
恥ずかしい。とてもとても恥ずかしい。あんな別れ方をした手前本当に出会うと恥ずかしい。いやでもそうか・・・彼女は能力者。ひいてはデウスディザスター、この学園のSクラスに居て然るべき存在なのだ。
「えっと・・・・・・天音くん能力を発現したの?」
「・・・・・・いや、知らない間に入学してた」
「何それ・・・・・?」
知らねぇよ・・・・・・。俺の方が聞きたいぐらいだ。それにしても・・・・・・。
「Sクラスはお前1人?」
「違うよ他にも何人かいる。今日は予定やらなんやらで居ないの」
学園長直々の依頼を断るほどの予定・・・・・・デートかな?
「じゃあ入るか」
「私のこと置いて行こうとしてない?」
「俺のことも置いて行こうとしてないか?」
「わるい、いつも1人行動なもんで忘れてた」
いやマジで、キララのことも一樹のことも完全に忘れてた。しかたなくない?俺の黒歴史になるかもしれない出来事の漏洩を未然に防ぐか知れ渡ってしまうかの差なんだ。ましてや情報通のキララとそれを整理し、集める能力を持つ一樹にバレればとんでもないことになる。学園で見られるたびにクスクスと笑い声が・・・・・・。
「にしても・・・・・・」
再び周りを見渡してチーム編成を確認する。戦闘役1人に非戦闘員が3人。バランスが取れていないさすぎる。しかもそのうち2人は無能力者。とてもこの無法地帯であるAAに乗り込むメンツとは思えない。
「天音・・・このメンツで大丈夫なの・・・・・・?」
同じことを考えていたのかキララが俺に問いただしてきた。
「正直きついな。まともに戦える奴が色葉しかいない。俺も銃とナイフを持ってるけど相手は能力者、それも殺し方的に戦闘系の能力者だ。当たるかがまず問題だ。1人は守れても3人も守りきれないだろうから、少なくとも1人は犠牲が出るかもしれない」
1人の犠牲で済めばいいが・・・・・・。しかしなんだろうかこの違和感・・・。後から調べてみたが殺された奴らは戦闘経験のある軍人か国の要人・・・戦闘経験のある軍人が能力者といえど簡単に殺されるだろうか?それもかなり深い切り傷、出血多量による死亡・・・。ここアンダーアトランティスは重犯罪を冒したやつも平気でくる無法の地・・・・・・。法律の通じない治外法権なこの地はそんな奴らの理想郷。予想だにしないやつがいる事だってある。今回ももしかしたら・・・・・・。
「行くよ天音」
「え・・・あぁ…!!」
想定外の事態に備えておいた方がいいかもしれないな。
*****
「そういえばここって重犯罪を犯した奴がいっぱいいるんだよな?こんなに堂々と歩いてて大丈夫なのか?」
少し歩くと一樹がそんなことを訪ねてきた。その質問はごくごく普通の質問で、これまで聞かなかったことが不自然なほどの質問だ。
「大丈夫だココはまだ『セーフエリア』と呼ばれる通称【迷いの霧】だ。まだ迷い込んだレベルで済む場所」
「そのエリアっていくつに分かれてるの?」
「4つだ『セーフエリア』『ロストエリア』『エンドエリア』『アトランティス』。
セーフエリアはさっきも言った通り安全な区画だ。俺たちが行こうとしてるのはロストエリア、通称【消失の迷宮】この区画に入った人間は行方不明扱いになる。そしてこの区画からが治外法権扱いになる」
「それを見分ける方法はあるの・・・?」
「ある。人口密度の差だ」
そうこの場所では人口密度の差が激しい。セーフエリアには全く人がいない。それ代わってロストエリアには人がかなり多い。全エリアの中でも最も人が多い。研究所もこのエリアにあるのだ。
「大体人が見え始めたらそこがロストエリアだ」
「エリアの名前に由来とかってあるのか?」
「入れば行方不明扱い・・・信号が消えるからロストエリアって呼ばれてる」
「へぇ〜」
「う、動くな!!」
突如後ろから声が聞こえる。幼い声・・・子供だ。
視線だけを動かすと他のみんなはその場で立ち止まり後ろからかけられた声の幼さに驚いているんだろう。だからこそ俺は後ろを振り向き声の主と目を合わせる。
「!?う、動くなって言っただろ!!」
そう言う声の主は7歳ぐらいの男の子だった。後ろには6歳ぐらいの女の子と男の子が隠れていた。多分妹と弟だろう。お兄ちゃんとして金目の物を取り立てて食い繋ぐ魂胆だろう。
「悪いが俺たち急いでるんだ、手短にしてくれないか?」
「な、なんだと!?今のお前にその権利はない!!この銃が見えてないのか?!大人しく手を上げて止まってろ!」
そう言ってこちらに主張するかのように銃口をこちらへ向けてくる。その小さな手は震え照準が定まらない。
その命令通りに手を上げながら言う。
「手、震えてるけど大丈夫か?人を撃ったことないんだろ?」
「だまれ!撃てるに決まってるだろ!!バカにするな!」
「バカにする?違うな、俺は心配してやってんだ。感謝してくれてもいいもんだろ?」
「うるさい!その減らず口を今すぐ閉じろ!!さもないと・・・」
「撃つ・・・か?」
「!?」
俺はその反応を確認したのち右の腰からファイブセブンを取り出して男の子に向けて構えた。
「少年・・・いいことを教えてやろう。銃は脅しの道具じゃない。《人を殺す》道具だ。構えたら撃たなきゃ」
「なにを言って・・・」
そして俺はその言葉を遮るようにして男の子の足元向けて撃つ。
「言っただろ?銃は脅しの道具じゃない・・・次は当てる」
「・・・・・・・・・」
大人気ない?子供相手に何をしているのかって言いたいやつもいるだろう。だけど俺はそいつに聞きたい。戦場でも同じことを言えるのかって・・・。たとえ相手が子供であろうとも武器を持ち殺意を向けてくるならそれに対処するのみである。
「わ、わかったよ・・・撃たないでくれ・・・・・・」
「銃を置いてこちらに滑らせろ」
その命令に従い彼はゆっくりと銃を下に置き足でこちらに滑らせてきた。俺は銃を向けつつその銃を拾い・・・
「女の子の方キミも銃を持ってるなそれもこっちに渡すんだ」
「・・・・・・・・・」
少女は少年(兄)に指示を求めたが首を横に振ったのを見て渋々従った。
「なぁキミたちここ最近で見慣れない顔のやつがいたり、おかしな動きをしてる人間を見たか?」
「い、いや見てない・・・・・・」
「わ、わたしも・・・」
「ぼくも・・・・・・」
なるほど・・・なら犯人はここより奥のエリアかもともとここにいたやつの可能性があるな。
「わかった・・・・・・それじゃあキミらはもう用済みだ死んでくれ」
「!?」
「天音!!」
その呼びかけを無視し引き金に指をかける。そうしてゆっくりと引き金を引いて・・・・・・。
「ま、待ってくれ!!」
「待たねぇよ。それで済むほどこの世界は甘くない・・・・・・」
「お母さん?そう子供3人を保護したの・・・・・・うん、わかった」
俺が引く金を引く刹那の瞬間、彼女は連絡誰かに連絡を取ったようだ。お母さん・・・つまり彼女の母、俺たちからしたら学園長だ。保護をしたと言ったのに死なせてしまったら問題になる。それを見越した上での連絡だろう。
「・・・・・・考えたな」
「当たり前のことをしただけだよ・・・子どもが死ぬところは見たくないから」
殺人犯の刑罰は死刑か無期懲役のどちらかだ。それはいささか面倒なため助かる。ただ子ども・・・子どもか・・・・・・。
2週間ほど前に出会った少女・・・彼女は俺のことを知っているようだった。そしてきっと俺も彼女を知っている。昔に出会ったことがあるんだ。しかし昔の記憶はおぼろげであまり覚えてはいない・・・。それにしてもキララに殺しを阻止されて思った。
〜なぜ俺は殺しをするようになったのだろう?〜
2032年の4月7日は水曜日だそうです!!