ep.3 罪人の意識
「タナトス・・・・・・死を神格化した神の名前。あんたもデウスディザスターじゃないか」
「まぁ名ばかりだけどね。おじさんにそんな大した力はないよ」
こう言ってる間にも俺は頭の中をフル回転させていた。相手がデウスディザスターとわかってしまった以上素通りはできない。今の所持物は残りのマグネシウム、手作りスタングレネード(光だけ)、手持ち花火、路地裏で拾ったライター・・・しかしこれは残りのオイルじゃ1分持てば充分くらいか。
(クソッ、冗談きついぜ・・・・・・あと少しで出口なのに!)
「ジンさん、もういいですかい?」
ヤンキーの兄貴分がそう言いながら前に出てきた。手を前に出すと何もない空間に炎を出しこちらを威嚇する。
「汎用系火炎能力者・・・・・・」
本格的にまずくなってきたな・・・・・・考えろ、考えろ・・・!!俺の持ち物、出来ること、現状
「・・・・・・・・・彩葉」
「・・・・・・??」
「相談は終わりか?なら派手に燃やすとするぜ!!」
「簡単にはやらせねぇよ!!」
俺は腰からマグネシウムのあまりを空中にばら撒いて後ろに飛び目を瞑る。瞑る寸前彩葉も目を閉じ近くの物陰に飛び込むのが見えた。
刹那の瞬間・・・・・・あたりが白く染まった。マグネシウムは燃焼すると激しい光を伴う物質だ。ばら撒かれたものがわからない奴らにとっては嫌なものだろう。あれだけの光を伴えば数秒間は目が見えにくくなるはずだ。
「クソッ、見えねぇ!!」
ほらね?
「行け!彩葉!!」
「うん・・・・・・!!」
その隙を逃さぬように彩葉は物陰から飛び出しヤンキーの兄貴分に向かって加速した。それも人間とは思えない速さで・・・・・・。
彼女の能力はアルテミスの称号を持つもので【生物に対して攻撃力を増加させる能力】と言われている。しかし、アルテミスという女神は狩りが得意な神であるとされておりこの能力はその力を強く受けている。ならたったそれだけの力なわけがない。なぜなら、いくら威力を上げても攻撃が届かなくては意味がない。ナイフ?弓?何にしても当たらなければ意味がない。その場所までいけなければ意味がない。その過程によりアルテミスの能力は次のように予想されている【生物に対して身体能力と器用さを増加させる能力】・・・。これを見る限りではこの説は正しいようだ。
そうこう考え込んでいるうちに彼女は兄貴分の懐に入り一撃・・・・・・顔面に向けて綺麗なストレートが入れられた。兄貴分はそのまま宙を舞い地面に倒れたまま起き上がって来なかった。・・・・・・まず1人目だ。
「いや〜すごい連携だ。君たちカップルかい?すごい息ぴったりだね?」
「おっさん、それを世間じゃセクハラって言うんだぜ?」
「おっと失礼・・・そんなつもりじゃないんだ。ただただ気になってしまってね」
「答えはノーだ」
そうまだノーってだけだ・・・まだ・・・・・・。
「それじゃあおじさんもそろそろ仕事をしようかな?お嬢には怒られたくないしね。君たちには大人しくしてもらうよ」
「はっ、無理だな。お前はその場所から動いてもらっちゃ困るんだ」
俺はそう言いつつ建物から飛び出してライターで火をつけ投げつける。目を瞑り1秒・・・あたりがまた閃光に包まれた。最後の一個のスタングレネードだ。俺はそのまま男の横を通り抜ける。
「彩葉、逃げるぞ!!」
そう叫び3秒後スタングレネードの光が消えあたりを鮮明にさせる。しかし出口まではあと10m・・・!!勝った!!
・・・・・・突如目の前を小さな少女が立ち塞がった。するとなぜだか自分は歩みを止めていた。・・・・・・なぜ?わからない。わからないのだ。後ろにはまだ迅がいる。すぐにでも逃げないと。いけないのに・・・どうして!?
「・・・・・・天音久しぶり」
「え・・・・・・?」
今・・・・・・彼女はなんて言ったんだ?久しぶり?俺は彼女に会ったことがあるのか?でも・・・・・・。見た目は11歳、金色の髪は腰まで伸びており頭にクローバーの髪飾りをつけている。赤いドレスは彼女に似合っており瞳は碧く綺麗に澄んでいた。そう、例えるなら月のようだ。黄色い月、赤い月、そして青い月・・・・・・そのどれもが美しく満天の星空に君臨している。
「お嬢・・・・・・こんなとこまで来たのか」
お嬢・・・・・・つまりコイツらのボス。つまり彼女を倒せば俺たちの勝ち。
「・・・・・・っ!!」
そうとわかればやることは一つだ。地を蹴り彼女に近づいていく。手短にあった鉄パイプを掴み。彼女へ詰め寄り鉄パイプを振り切る・・・・・・!!・・・・・・しかしそれは叶わなかった。
「ぐぉっ・・・・・・!?」
突風のようなものが吹き自分の体を壁際まで吹き飛ばしてしまったからだ。
「ダメじゃないか・・・お嬢にそんな手荒な真似をしちゃ」
「っ・・・・・・!?」
その瞬間自分の身体を確認した。斬られたんじゃないかと感じざるおえない感覚。殺気・・・・・・それはこれまでにほとんど感じたことのないもの。この男のそれは表情からは読み取れないオーラがあった。それこそ逆らえば殺されてしまうような・・・・・・。
「君は罪を犯した。その罪は償ってもらうよ・・・・・・」
そう言いながら詰め寄ってくる彼に手も足も出るはずがなくただ地面に手をついて見上げる。
タナトス・・・・・・死そのものを神格化させたもの。能力は【罪人をいかなる方法であろうと死に至らしめられる能力】。彼の中では自分はもう罪人扱い。先程自分を飛ばした風はその能力の一端だろう。しかしこれには欠点がある。この力で人を殺せるわけではない。死の定義が違うのだ。この力では《死に至らしめる》ことができるだけで《殺す》ことができるわけではない。その過程は自分で操作しなければならない。さらに《物理的な死》つまり生命活動の停止と《精神的な死》を選ぶことができない。つまり心が死ねばそれだけでも能力は停止する。
最悪後者になれば復活できる可能性が1%ほどだが残るかもしれない。
「さようなら少年。また来世の君と巡り合おう・・・・・・」