3話 火気厳禁
「なんで、バイト面接は大丈夫なのに会社面接はダメなんだろうなぁ」
次の日、バイトを二つ受け、どちらも採用された。皿洗いだから簡単だけど。最近のバイト時給高いのね。970円ももらえるもん。
おっと、マンションについたな。ん?入り口に誰かいるけど。子供抱えているって事は結婚してるのか。けど、ドアの前に居られるとすごい邪魔。
「すみません」
「ん?はい、なんでしょう」
「ドアの、前に居られると入れないのでどいて貰ってもいいですか?」
「あぁ、すみません。夫を待っていたものですから」
「そうですか。仲が良さそうでいいですね」
「そうですか〜♡」
『仲が良さそう』と言うワードをを聞いて、すごく嬉しそうにうねうねしていた。相当旦那さんの事が好きなんだろうな。
「このマンションの住民なんですか?」
「え?はい、そうですけど」
急に投げかけられた質問に驚きながらも、質問にこたえた。そっか、この人も、マンションの住民か。挨拶してないのバレちった。
「そうなんですか。では、初めまして。私はナラ。206号室の住民です」
「俺は、407号室の村田宇一です。よろしくお願いします。それでは——」
「ちょっと待ちなさい」
優しい感じの口調から一転。急に冷めた感じの口調になった。挨拶してないの怒ったかな?
「明日、私達の部屋に来てくれない?」
「え?なんでですか?」
明日は、バイトも家政婦もないし別にいいけど理由が気になる。
「夫を紹介しておきたいの。あの人、コミュ障だから」
コミュ障ならそのままにしておけばいいのではないのか?と言う疑問を持ちながら聞いていた。
「ガー君、マンションで喋れる人神矢さんぐらいだから」
「ガ、ガー、君?」
「あぁ、ごめんね。いつもの癖で」
「旦那さんの事ですか」
「うん、それでもうちょっと友達増やして欲しいな。って思って」
あぁ、妻として、心配してるのね。
「はい、そういうことならいいですよ」
「ありがとう。そうしてくれると助かるわ」
「それじゃあ、また明日。妹が待っているので」
「妹さんもいるの?それじゃあ妹さんも連れてきてくれる?」
「はい。いいですけど、なんで?」
「お、女の人は秘密が多いの!」
なぜか、顔が赤くなって照れている。
何か恥ずかしいことでもいったか?
うーん。女性って生き物は難しい。
※ ※
部屋に帰っていつも通り夏華がいる。合鍵いつ渡したっけ?
「あ、おかえり〜」
「俺、お前に合鍵渡したっけ?」
「え、今更何言ってんの?」
「今更で悪かったな。で、なんでだ」
「うーにぃが酔った時に勢いで言ったらくれたの♡お泊まりは許してくれなかったけど」
「え、まじか」
あの時の俺、なんで渡しちゃったの。
「って、そうじゃなかった」
「なに?お泊まりも許してくれるの?ありがとう、うーにぃ♡」
「そうじゃねえよ。明日、206号室のラナさんのお宅に行くけど一緒にこない?」
「206号室…あ!あの魔王と女騎士の夫婦の所ね。まさか、夫婦の会話をしようとしてるの?うーにぃダイターン♡」
「黙って話をきけ。旦那さんの友達になりに行く」
「え?何でまたそんな事を?」
「奥さんの方に頼まれたの」
「ふーん。それだけなの?なら私要らなくない?」
「奥さんの方にお前も連れてきてって頼まれたの」
「なんで夏を?」
「女子トークでもして盛り上がりたいんじゃないの」
「へー、うーにぃ意外には、興味ないのに」
そんな事言うなよナラさんが可哀想だろ。そもそも、お前も少しは話す努力をしようよ。いつもそうじゃん。
「まぁそう言うな。とりあえず、明日よろしくな」
※ ※
そして、次の日になった。手見上げは饅頭でいいよね。
ピーンポーン
ガチャ
「あ、こんにちわ。そちらが妹さん?」
「はい。うるさいので気をつけて下さいね。これ、饅頭です。どうぞ食べてください」
「お兄ちゃん、そんな事ありませんよ」
うっわ。ブラコンむっちゃ抑えてるじゃん。人前だとこうだから誰も気づかない。ホント、こういう所だけはしっかりしてるんだよな。
「全然大人しいじゃない」
「皆さん知らないだけなんですよ」
「ナーちゃん、どしたの〜?」
「ど、どうも」
「こんにちわ、旦那さんですね」
「ド、ドウモ」
俺達の姿を見た瞬間、カチコチに固まって全然動かない。銅像みたい。
「そうなるかぁ。ま、いいや。上がって」
固まった旦那さんを押しながら自分も中に進んでいく。ついて行けばいいんだよね。
「そこ、座ってて。お茶でいい?」
「ありがとうございます」
「夏華ちゃんもこっちに来て」
「はい?なんでしょう」
「秘密のは・な・し」
「はぁ」
二人残された。気まずい。とりあえずこの空気を、打破するべく何か喋らなければ。
「初めまして。俺は村田宇一と言います。よろしくお願いします」
「初めまして。ボクはガルディアと言います」
「気になることを直球に聞きます。奥さんとの馴れ初めは?」
「そうですね。ナーちゃんと会ったのはここに来る前の世界で会いました。」
馴れ初めを聞いた瞬間、表情が柔らかくなった。単純だな。このまま話を続けてもらおう。
※ ♡ ※
なぜか、呼ばれたのできたけど、なんの用でしょう?うーにぃと話していたいのに。
「夏華ちゃん、これの使い方教えてくれない?」
「IHコンロですか。今までどうやって料理してたんですか…」
「魔法でちょちょいと」
「はぁ、普通のコンロと同じですよ。ここを押してこのツマミで火加減を調節するんです」
「ありがとう。・・・ついでに一緒に料理しない?お昼うちで食べていってもらって構わないから」
「いいですけど、それじゃあ一つ質問していいてすか?」
私、こんなに仲がいい夫婦見た事ありません。兄以外の物に初めて興味をもちました。
「馴れ初めを聞いてもいいですか?」
「あはは、ちょっと恥ずかしいかな。でも、いいよ。話してあげる」
「ほんとですか!」
「うん、あれはねぇ——」
「『昔の私が、多すぎる魔物に殺されかけている時だった。
「クソッ!魔物が多すぎる!」
その時、彼が現れたのは。
「大丈夫か?怪我をしていないか?」
私は、その姿を見た瞬間にキュンっときた。それは、彼も一緒だったみたいなの。そこから、私と彼は隠れて付き合い始めた。』これが、私達の馴れ初めよ」
「なんで隠れてたんですか」
「魔王と付き合ってた、なんて知られたら殺されちゃうからね」
「そうですか。可愛そうですね」
「そうでも無いよ。だって、彼と行く全ての場所が楽しかったもの♡あんなに楽しかったこと他になかったもの♡」
ホントに仲がいいですね。バカップルと言うやつですか。うーにぃも、これくらいデレてくれればいいのに。
※ ☆ ※
「はーい、ご飯出来たよ〜」
「おー、美味そう」
「ナーちゃんの料理、絶対美味しい♡」
「ちょっと〜、私もいるんですけど」
「そう言うな、夏華。これが夫婦仲と言うやつだよ」
「ガー君はお話出来た?」
「うん、宇一さんいい人で恋バナをずっとしてたよ♡」
この夫婦ホントに誰がいてもラブラブだな。消化器持ってこい。冷やしてやる。
「お兄ちゃん、消化器で冷やしてやる。とか考えてるでしょ」
「失礼な。そんな事ないぞ」
こんな事あるんだけど。ホントに鋭いな。
「それにしても、宇一さん。いい恋してましたね」
「そんな事ないですよ。今では、完全に萎れてますし」
あっはっは、と笑っていた。それより懐かしいな。初恋。本当にあの人だけは、忘れることができないなぁ。
※ ※
「それじゃあ、また今度」
「はい、さようなら」
あの後、ずっとイチャイチャしてる所を見せられた。ホントに消化器ぶっかけたかった。
明日からも頑張ろう。今日のおかげで疲れも取れたし。・・・帰って寝よう!!




