影法師 【月夜譚No.43】
影法師には、もう一人の自分が宿るという。
影は光があるところでは実体と共に行動し、行く先々で同じように振る舞う。それは当然のことで、「何故影が存在するのか」や「何故同じように動くのだろう」などといった疑問を抱くのは、ほんの少数だろう。
だが、光のない場所ではどうだろう。建造物の影の中や雨の日、街灯のない夜道。そういった場合において、生き物の影は鳴りを潜める。その時、その者の影はどうなっているのだろうか。
大きな影の中ではその影と一体になる。光源がなければそもそも影は生まれない。――そう考えるのが普通だろう。しかし、そうであると誰が証明できるだろう。自分の影が足下にない時、別の場所で何か他のことをしていないと誰が断言できるだろう。
影法師には、もう一人の自分が宿る。密やかに囁かれる言い伝えは、今日も何処かで一人歩きをしている。