名作訪問ー志賀直哉「城の崎にて」
初めは「名作発掘」というタイトルにしようと思ったのですが、「城の崎にて」は文学史に残る傑作の一つですから、今更「発掘」もないだろうと思い、「訪問」としました。
とはいえ、この作品について書こうと思ったのは、今の時代、何となくこうした傑作名作が忘れ去られているような気がしなくもないからです。
内容は、主人公が山手線の電車に跳ね飛ばされ、怪我をした、そのあと養生に訪れた城の崎温泉で、いくつかの小さな生き物たちを通して生と死を見つめた作品と言っていいと思います。
文体は、「静か」「淋しい」などを多用しながら、淡々とした、しかし清澄なもので、私は初めてこの作品を読んだ時、何とも言えない、それこそ静かな、清らかな読後感に包まれたものでした。
初めは蜂の生と死の話で、次に川に投げ込まれたネズミの話、最後にいもりをうっかり殺してしまう話の3つが大きな柱になっています。それらの生き物たちの描写は、何でもないようでいて実に巧みでリアルで、やっぱりすごいなあと唸ってしまいます。
自分以外には殆ど他人は登場せず、この小さな生き物たちのリアルな描写から、作者は生と死を考察しているのです。
「城の崎にて」はこういう作品で、今の人たちにも受け入れられてるのかどうか分かりませんが、短編なので、読んでいない方には是非ご一読をお勧めしたい名作です。
「城の崎にて」についてでした。