最初の一歩
ひと仕事終わって・・・。
今日の夕食は具だくさんのトマトスープだ。昨日の竹の子や山菜で甘味噌和えも作ってある。サラダに果物の盛り合わせもあるので、いつもより豪華な感じがする。
「今日はリードが手伝ってくれたから薪がたくさん集められたよ。この子は物覚えがいいな。だいぶ話せるようになったぞ。」
「薪たくさん集める。いい子?ほめる?」
(いい子って褒めてもらったんですね。流石です。)
(いい子と言う意味だったのか・・・。36歳に向かって言う褒め言葉じゃないな。)
(ふふふ・・見た目が12歳ですからね。しょうがないですよ。)
「笑う、ダメだ。ホリー。」
「ごめんなさい。リード。」
「ホリーも今日はジェシカの先読みが出来たんですよ。ニコラがホリーにって、1レート置いていきました。ジェシカがやっと結婚する気になったって大喜びでしたよ。私の癒しが効いたのか、そっちの嬉しさの方が大きかったのか、来た時とは違う軽い足取りで帰って行きました。」
「そうか。今日は四人ともいい仕事をしたな。薪がたくさんできたから、わしはもう一度ライヘンに行って来るよ。手が空いたら北のノスルに情報を届けて欲しいと言われてるんだ。どうも他国からの干渉がきな臭くなってきたらしい。」
「まぁ、またですか?!去年、南のサウゼが国の役人をしていた時もおかしな噂を聞きましたよ。ニコラから聞いたから本当の話かどうかわかりませんけどね。隣国のスーバルタン共和国がここに侵攻しそうだとか・・。」
「わしも手紙を運んでいる時にそんな噂を聞いた。エラは知っていたのか。心配させないように黙ってたんだけどな。」
「知ってました。これからは何でも言ってくださいな。隠されているほうが不安です。」
「わかった。今後はそうするよ。」
・・・この天国のような異世界にも争いの火種はあるんだね。大丈夫なんだろうか・・・。
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後からリードにエラとダンテが深刻そうだったけどどうしたんだ?と聞かれたので、包み隠さず話をした。(そうか・・・。)と言ってリードはしばらく考え込んでいたが、エラとダンテに急に文字を教えて欲しいと言い出した。夕食の後は、庭で家族揃ってのんびり話をして過ごしていたのだが、この日からエラによる即席寺子屋教室が始まった。私もホリーの知識の中に文字の知識が無かったので、一緒に勉強することになった。
数字や文字を覚えると、リードの会話能力は一段とあがっていった。ダンテが五日間の出張から戻って来た時には、聞いたことのない単語以外は流暢に会話が出来るようになっていた。日本でも社長のことは天才だと思っていたけれど、ここに来て超天才認定に書き換えた。外国語をここまで早く習得する人はいないだろう。私がそう言うと、「テレビや本やパソコンや外部のいざこざに煩わされることがないからね。」と軽く返されてしまった。・・・・そうなんですか。
一般人の私としては、母さんに教わったことを地道に地面に書いて復習するしかなかった。ここにきて立場が逆転して、リードに文字を教えてもらうことになった。リードも嬉しそうに教えてくれた。人に教わるばかりだったのでプライドが傷ついていたのだろう。そのことは、私に教える時の嬉々とした顔つきを見ていればよく分かった。
「ホリー、この間約束を守れなかったから、今度は奮発してお土産を買ってきたぞっ。」
そう言って父さんが渡してくれたのは、手芸道具と綺麗な靴だった。
「素敵っ。父さん、ありがとう!」
父さんに抱きつくと、ダンテの鼻の下がだらしなく伸びた。
「リードには、辞書と大工道具だ。勉強も男としての仕事も頑張れよ。」
「ありがとうございます!ダンテ父さん。父さんに教えてもらって、出来るだけ早く一人前になります。」
「二人ともいい子だ。なあ、エラ。」
「本当に。ちょっと前までは、こんな日が来るとは思っても見ませんでしたよ。」
二人に見守られて、この世界で生きるすべを教えてもらって、私達は本当に幸運だ。なんとか異世界での一歩を踏み出せたような気がする。まだまだ先は長いのだろうが、着実に一歩一歩、歩いて行きたいと心を新たにした。
ここで最初の章が終わります。