表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

結婚相手

リードの考えは・・・。

 ベッドに入ってから、夕方に家族で話していたことについてリードに説明を求められた。

結婚の話は言いたくなかったけれど、話さなくてはならないらしい。父さんの言っていたことをリードにおずおずと説明していく。リードは最初、驚いているようだったが次第に納得の表情になっていった。

(ダンテの言う事はもっともだな。私も君もこちらの世界の人間と結婚するより、そうしたほうがお互いにいいんじゃないかな。常識が全然違うんだ。こちらの人たちとすべてを理解し合えることはないだろう。)

(なにかすみません。私なんかが結婚相手になってしまって。)

(私なんかというのはおかしいだろう。君は日本にいるときも頼りになる人だったし、こちらの世界では君の知識の方が役に立ちそうだ。それに忙しすぎてパートナーを探す暇もなかったからな。結婚生活というものにもそそられる。)

へえー、女の人なんか見向きもしなかった社長がねぇ。以前も少しは結婚に興味があったのかしら。


そう言えば、今日行った森のことを聞いていなかったな。

(リード、石鹸の謎は解けましたか? 私としては今日の収穫の季節感のなさに驚いたんですが‥。)

(季節感? なかったのか? ダンテは何も疑問に思っていないようだった。当然という顔をしていたぞ。石鹸は洞穴の中に大量にあったんだ。鍾乳洞のようなところだった。自然にあるもので洗えるというのは、水が汚れなくて環境に優しい。この世界は上手くできてるな。・・それよりも言葉を教えて欲しい。ダンテが何回も繰り返してくれたのでいくつかは覚えられたんだ。まず「駄目だ。」と「臭い」はダメということと臭いがするということなのか?)


この人は季節に採れる物のことも知らなかったんだ・・。私はリードが今日覚えて来た「駄目だ。」「臭い」等の単語を日本語に直しながら、果物や山菜の名前も合わせて伝えていった。思った通り形状は見覚えがあるものの、みかんとリンゴ以外の名前は知らなかったようだ。

「駄目だ。」「臭い」・・って、味噌を持ち帰る時に言われたんだろうか? この単語から想像するに、ダンテの反対を押し切って無理矢理持って帰って来たらしい。社長がこんなに味噌汁が好きだったなんて知らなかった。四年も側についていたのに私は何を見ていたのだろう。


私達は知らなかったが、この時リプンは窓の外でミルクを飲んでいたようだ。

翌朝、器を見てみたら綺麗にミルクがなくなっていた。




**********




 午後にリードのズボンを母さんと縫っていると、お客さんがやって来た。太った中年の女の人と黒髪をツインテールにしている若い娘さんだ。

「こんにちは。お邪魔しますよ。」

「あらニコラいらっしゃい。また腰痛なの?」

「ああ、そうなんだよ。この身体を支えるのは骨が折れるよ。」

「どうぞこちらに腰かけて下さい。」私はすぐに立って、座っていた椅子をニコラさんに譲った。

「ふぅー、ありがとう。あんたは見かけない顔だね。どこの娘さんなんだい?」

「もうっ、ニコラ。うちのホリーよ。」

母さんがそう言うと、お客さんは二人ともびっくりして私を見た。無理もないよね。この髪の色だし歩いてるし。

「まあっ!髪の色が違うからわからなかったよっ。それにっ、いつからそんなに元気になったんだい?今にも死にそうだったじゃないか。」

「母さん!ホリーに失礼でしょ。」

「だって、ジェシカ・・・・わかった。言い過ぎたよ。ごめんね。」

娘さんに叱られて大きな身体のニコラさんが身体をすくめている。

「いえ、いいんです。驚かれるのは無理もないことですもの。ちなみに、記憶も喪失していますので失礼があったらお許しください。お二人は親子でいらっしゃいますの?」

「はあ、親子でいらっしゃいますよ。」

ニコラさんは、目をくるりと回してそう答えた。

「なんともはやホリーは17歳とは思えないね。あんたより年上みたいな口のききようじゃないか、エラ。」

母さんは慌てて私に目配せした。まずい。秘書言葉が出てしまった。これは席を外した方が良さそうだ。

私はちょっと失礼します。と言って畑の方に避難することにした。


私が畑の草取りをしていると、後を追いかけて来たのだろうジェシカという娘さんがやって来た。

「ホリー、母さんの口が悪くてごめんね。」

「いえ。私が以前とは変わり過ぎているんでしょうから・・。」

「ふふっ、そうね。でもいい方に変わってるわよ。身体も動いて、話すのもちゃんと話せているようだし。・・・実は私ね、ホリーに先読みをしてもらえって、母さんに無理やり連れてこられたのよ。でも、私達同い年だからこういうことはあなたに相談しにくくて・・・。」


ジェシカが遠慮しているのか口をつぐんでしまったので、私の方から水を向けてみた。

「なんの相談だったんですか?私は記憶の事もあって、先読みができるかどうかわからないんですが、お話しだけなら聞くことが出来ますよ。」

ジェシカは私のすぐ側にくっついて座って来て、耳元に小さな声で(ささや)いた。

「冬のパーティーのことよ。17歳で結婚相手が決まってないのはあなたと私ともう一人を入れて、三人なんだけど、私達に年の近い15歳の男性はオラスしかいないでしょ。後は14歳以下よ。・・・オラスは鍛冶の魔法が使えるから人気が高かったのに、お母さんが亡くなるまで結婚しようとしなかったわ。母子家庭だったから仕方がなかったのだけど・・・。それで・・その・・オラスが誰を選ぶのか教えて貰えたらって思って・・。」


なるほど・・・恋占いというか、思い人の気持ちが知りたいのね。ジェシカは見たところ売れ残るようなタイプには見えない。きっとギリギリまでオラスを待ってみるつもりだったのだろう。

「わかった。・・私のことは気にしなくていいのよ。父さんがルクト村から連れて来たリードと結婚することになってるの。私はオラスという人が誰だかわからないからイメージがしにくいわ。ジェシカの結婚相手を占って・・先読みしてみましょうか。上手くいくかどうかはわからないけど・・・。」

「ほんと? やってみるだけでいいから。・・・もし見えたら髪の色だけでもいいから教えてちょうだい。」


なんとかこの日本語魔法が先読みも出来ますようにっ。私はジェシカに頷いてから頭の中を日本語に切り替える。

「【ジェシカノ ケッコンアイテヲ シリタイ】」

すると私の目の前にスクリーンに映すように男の人の姿が現れた。

「えーと、髪の色はブロンドね。身体つきががっしりしていて顎に切り傷のようなものがあるわ。」

私がそう言うと、ジェシカは両手を祈るように組んだまま、勢いよく立ち上がった。

「ホント?! ホリー、本当なのねっ!」

「うーん。私に見えたのはその人。誰なの?オラスだった?」

「ええ、そうよっ! ああっ、これで鍛冶屋に行ってみる勇気が出たわっ。私、怖くてオラスから逃げ回ってたの。何も言われなかったらどうしよう、オラスの隣に誰かいたらどうしようって思って・・。ありがとうっ、ホリー。」

ジェシカは目をキラキラさせて満面の笑顔で私の手を握ると、風のように駆けて行ってしまった。

・・・恋愛がない世界だと思っていたけれど、そうでもないのかな。



先読み師ホリーの誕生か?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ