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この世界は・・・

翌朝のことです。

 チュンチュンという鳥の声で目を覚ました。薄い光がカーテンの隙間から射しこんできている。

どこかから食欲の湧くようないい匂いが漂ってきていた。

「朝?」

お腹がクゥーと可愛い音をたてて鳴った。

「お腹すいたー。」

朝にお腹が空いて起きるなんて近年なかったことだ。朝ごはんってどこで食べるんだろう?起きて部屋を出たらわかるかしら。


・・・死んだら赤ちゃんになって新しい人生を生きるのかと思ってた。どうも違うみたいだ。手を持ち上げてみる。少し重たい感じはするけれど持ち上がる。やっぱり・・赤ちゃんの手じゃあ無い。29歳だった(わたし)の手とそう変わらない大きさだ。ということは、ホリーは成人してる?

・・ホリーだって。西洋風の名前ね。外国には一度住んでみたいと思ってたから、神様がここに転生させてくれたのかしら。それとも精神だけが何かのショックで転移してきたのかしら。・・・例えば「雷」・・とか。

そう言えば、死ぬ前にも昨夜目覚めた時にも雷が鳴っていた。


考えるのは後だ。お腹が空いた。朝ごはんをいただこう。

私はベッドの上に起き上がった。眩暈(めまい)がして頭がふらふらする。うわー、貧血だ。お腹が空き過ぎているのかな。それとも手足が動かなかったって言ってたから、ホリーは今まであまり起き上がることもなかったのかしら。これは、ゆっくり動いた方がよさそうだ。よく見ると足も棒のようで、筋肉が見当たらない。


私はベッドのヘッドボード変わりになっているらしい部屋の壁に頭を持たせかけて眩暈が収まるのを待った。

「小さな部屋ね。」

ベッドの足元の向こうには、昨夜の男の人が壊したドアが蝶番(ちょうつがい)のないままにはめ込まれている。蝶番は金属ではなく皮のようだ。厚みのある皮が、ドアの横に2つだらんと垂れ下がっている。ただ取っ手は金属の棒だった。厚みのある板に、短い金属の棒が突き刺してある。ただそれだけで飾りも何もない。ホリーの家はあまり裕福ではなさそうだ。それなのに手足の不自由な娘を可愛がっていたんだな。


ドアがガタガタして取り除かれたと思ったら、男の人と女の人がびっくりした顔で部屋へ入ってきた。

「・・・ホリー、一人で起き上がれたのね。」

「昨日のことは夢じゃなかったんだな。」

「ええ、あのう・・もしかしてそれは朝ごはんですか?」

私は女の人が持っていたトレーに目をやった。


「まぁ!ホリーが食べ物に興味を示すなんてっ。」

女の人は笑いながら私の膝に木のトレーを置いた。木のスプーンで食べさせようとするので、「自分で持って食べてみます。」と言うと、またひとしきり感激された。・・どうもやりにくい。

具沢山の野菜スープのようなものをスプーンでゆっくりと口に運ぶ。

「・・美味しい。」

野菜のうまみがスープの中で凝縮されていた。微かに肉の油を感じるので、ダシに少しは肉が入っているのかもしれない。私は夢中でスープを食べた。飲むというより食べるという感じのスープだった。

最近忙しくて冷凍食品ばかり食べてたからなぁ。こういう薄味の素材の旨味を生かしたものは食べていなかった。胃に優しい感じがする。


「・・・なぁ、エラ。ホリーの喋り方がおかしくないか?・・ホリー、昨日頭が痛いと言ってたが大丈夫か? 雷が家に・・お前の部屋のすぐ前に落ちたからな。火事にならなかったのが不思議だよ。もしかして頭が感電して何かのショック症状が出ているのかもしれないぞ。急に手足が動くようになったのもよく考えればおかしいじゃないか。」

「そういえば、髪の毛の色が変わってしまったぐらいだものね。まだ頭が痛いとか、なにかあるの?ホリー。」

二人が心配そうに私を見る。・・・これは言ったほうがいいよね。


「えーと、すみません。私、自分が誰だかあなた達がどなたなのかここが何処なのか、なんにも思い出せないんです。・・・昨夜、目が覚めた時から。」


「「・・・・・・・・・。」」

二人は、声も出せないくらい驚いている。申し訳ない・・・けれどどうしようもない事実なのだ。




**********




 エラ達が話してくれたところによると、私はホリーと言う名前で今、17歳らしい。3歳の頃に頭を打ったのが原因で、手足が不自由になったそうだ。父親のダンテと母親のエラと一緒に3人で、ここアルベル村で暮らしている。父親のダンテは速足の魔法が使えるので、物を運ぶ仕事をしている。母親のエラは癒しの魔法が使えるので、村の治療師をしている。・・・これを聞いた時は驚いた。魔法だよ!・・・ここは地球じゃないということが決定してしまった。

もう家族には二度と会えないんだ・・・。お父さんとお母さんに親不孝をしてしまった。結婚もせず仕事ばかりで孫の顔も見せず、極めつけに逆縁の不幸を味あわせることになった。こんなことになるのなら・・・と悔やまれるが、今更言ってもしょうがない。なんとかここ、アルベル村とやらで生きて行かなければならないようだ。あの人のよさそうなダンテとエラをも悲しませることはしたくない。


まずは、歩く練習だ。

さっき用足しにオマルのような陶器の壺を持ってこられたのには赤面した。一人でトイレに行くのが当面の目標だ。ベッドに座った状態から、足を床に降ろしてみる。ここまではなんとかできた。しかし足の裏の感触が何とも心もとない。何年も自分の足で歩いていないからだろう。私は足に力を入れて、床を押す練習から始めた。疲れると、壁にもたれて手の指を動かす練習をする。腕の曲げ伸ばし、肩の上げ下げ、思いつく限りのストレッチをやっていった。


とにかく立つ、そして壁伝いにでも歩く・・・やってみるしかない。壁にもたれたまま、背中を支えにしてずるずると立ち上がる。

「やったっ。なんとか立てたっ。」

後は足が前に出れば・・・。これが難しかった。足を持ち上げるというのはこんなに筋肉を使ってたんだ。ずるずると床を擦るようにしか足が前に出ない。

「ああーっ、もうっ!【アルケワタシノアシ!】」

身体中にビリビリッと電気が走ったかと思うと、急に足がすっと前に出た。少しぎこちなくはあるが、いつもと同じように歩けている。


えっ、急に足に力が入るようになった。さっきおかしな言葉を使ったよね。

・・・・・・・・・。

おかしな言葉じゃなくて・・もしかして日本語?

日本語を喋ったら歩けるなんて、変なの。・・・いや魔法が使える世界だよ。こんなこともあるのかもしれない。これは・・もう一度試してみたいな。


ドアのところまで来たので、頭の中で(日本語、日本語)と思いながら、声に出してみる。

「【ヒラケ】」

するとドアの鉄の取っ手が電気が走ったみたいにパチパチッと光ったかと思うと、壊れている蝶番がそのままあるかのように、ゴットンとドアが開いた。


ひえーっ。私、魔法が使えるみたい。




不思議な世界のようです。

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