成敗(せいばい)
決戦は金曜日?
翌朝、宿屋の近くの村の広場に昨夜の10人の男たちが集まった。手に手に武器を携えている。村人たちも何事かと私達の方を遠巻きに見ていた。
「おはようございます!・・・皆さんの意気込みは判りましたが、これから隣国に突入するわけではありません。」
「どういうことだっ!」
「昨夜は、今日で片を付けると言っていたではないかっ!」
10人の男たちがリードに詰め寄るが、リードは平気な顔をして言ってのけた。
「今日は、いえ午前中には一つの片を付けます。皆さんにお願いしたいのは今後の監視です。一週間経っても何の動きもないようなら、こたびの騒動は終結したと言ってもいいでしょう。もし、今日のことが終わってもスーバルタン共和国が我がクローバルに侵攻する様子が見えたなら、もっと徹底的にスーバルタンを滅ぼしましょう。・・・たぶんそんな愚かな選択はしないと思いますけどね。」
私達は今朝早くにケンカ腰に話し合ったのたが、リードはあくまで自分一人でやり遂げると言ってのけた。私はあくまで映像を見せる補助でいいのだという。社長が言い出したことには引かない人間であることを知っている私は、ひとまず矛をおさめた。
「まず、最初にこの侵攻の計画を立てた者からやっつけましょう。その者のことを一番よく知っている人は前に出て来て下さい。」
リードがそう言うと、髭面の男が「俺だ。軍師カズクのことは俺が一番知っている。」と言って前に出て来た。
リードは「僕たちと手を繋いで、そのカズクのことを頭に描いてください。」と髭面男に頼む。その人は戸惑いながらも私とリードの手を取って目をつむって集中する。
「【テンシャ】」
私とリードにもそのカズクの姿が見えて来た。私は日本語魔法でカズクの居場所を探す。
「【カズクノ イチヲ シリタイ】」
私の目の前に豪奢な部屋の中でにやけているカズクの姿が見えて来た。私が頷くと、リードが私に集中しながら詠唱する。
「【テンチュウ!】」
するとリードの中から、雷の音と同時に稲妻が青白い閃光を纏って飛び出して行き、空に突き刺さるように高く舞い上がっていった。村の広場はドーンゴロゴロという巨大な雷の音と目が潰れそうなピカーッと光る目つぶしの閃光で、騒然となった。
私達もこれほどの光と音を想像していなかったので、目と耳にダメージを受けた。
「・・・これは、耳栓をして目をつむってやったほうがいいな。」
「そうですね。目がちかちかします。」
私達は、小さく切った布を耳に突っ込み、頬かむりをして次のターゲットに移った。救国の勇者と言われている私達のおかしな頬かむり姿を見て子ども達は笑っていたが、大人たちは私達がやっていることがわかったのだろう、畏れと希望を抱いた複雑な表情で私達を見ていた。
次々と繰り出すリードの天誅が、最後の二人になったところで威力が落ちて来た。私はリードを睨みつけて有無を言わさず役割を交代する。リードは私の精神的ダメージを心配しているようだったが、極力何も考えないようにして、正確に天誅の雷を落とした。最後にスー国の大統領に天誅を下した時、彼はうろたえていた。自分の側近に次々と雷が落ちてくるのだ。何が起こっているのかわけがわからない状態だったのだろう。最後は、息を呑んだ驚いた顔をしたまま光に包まれていった。
「昼だ。ロジャーはもう広告隊のところに着いただろうな。」
「たぶん。これで午後に風魔法でチラシをばら撒いたら、一区切りつけますね。」
「ああ。やっと終わった。後味は悪いが、仕方のない結末だな。」
私達は昼食を食べてから、ここトナン村を出発した。村のみんなは引き留めてくれたが、私達をこわごわと遠巻きに見ている人たちもいるいじょう、この場に長居をするのは憚られた。
帰り道は急いで転移する必要もなかったので、リードと二人ゆっくりと歩いて帰った。ライヘンの街明かりが遠くに見えて来た時に、今日初めての転移をした。父さんと母さんを目標に転移したので、宿屋の部屋にいきなり現れた私たちを見て、父さんが大声をあげた。
「うぅわぁっ!!」
「まぁ、あなたたちなのっ。驚くじゃないのっ。」
「無事かっ、二人とも。」
「帰りました。なんとか片が付いたと思います。」
「リードは大活躍だったんですよ。」
「ホリーもだよっ。」
言い合いをしている私達を見て、父さんと母さんはにこにこ笑った。
「わしはお前たちが無事に戻って来てくれただけで嬉しいよ。」
「・・・父さん。」
「そうですよ。ダンテのようなケガをしませんようにとメガン神に祈っていたのよ。」
「母さん、ありがとうっ。」
私は母さんに抱きついた。甘い母さんの香りが私の緊張していた心をじんわりとほぐしてくれた。リードも父さんに頭をガシガシ撫でられて、いつになく嬉しそうな顔をしていた。
「あなた達も疲れているだろうから今夜はここでおやすみなさい。」
私達は母さんの言葉に甘えて、母さんたちの部屋のベッドで休ませてもらうことにした。父さんと母さん、リードと私、それぞれに別れて寝床に入ると、疲れからすぐに眠りに落ちていった。リードが私を心配して顔を覗き込んでいたそうだが、そんなことには全然気づいていなかった。
やっと安心できましたね。




