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対決

国境に向かうホリーたち・・・。

 ライヘンの町に来る時に父さんを追いかけて転移してきたように、今度は国境に向かって走るロジャーを追いかけて、リードと二人で転移を繰り返している。

「【ロジャーノ イチヲ シリタイ】・・・ロジャーが止まったわ。」

「国境に着いたんじゃないか?よっし、行くぞっ。せぇーのっ、「【テンイ!】」」

私達は、立ち止まっているロジャーのすぐ側に転移した。


「あんたたちはどっから湧いて出たのっ?!」

キンキン声に驚いて振り返ると、そこに小柄な女の人が剣を構えて立っていた。

「・・・・魔女のマーセル?」

私の言葉を聞くと、その女の人の顔はみるみるどす黒く歪んでいった。

「ふんっ。その名前は嫌いなんだよ。その髪、あんたたちはアルベル村のリードとホリーだね。・・よくもあたしたちの計画を邪魔してくれたねっ!いいところで出会ったよ。ふふっ、三人まとめて真っ黒焦げにしてやる。」

「気をつけてっ!この女は火の魔法を・・・。」

「五月蠅いっ!あんたは黙ってなっ!」

ロジャーが速足で後ろに飛びのいたから良かったが、真っ赤に焼けた炎が私達のすぐ側をかすめていった。

「【マーセルヲ セキユデ ツツミタイ!】」

リードが直ぐに日本語魔法を叫びながら私を後ろに引っ張って逃げていく。

「ぺっぺっ。なんだいこの嫌な臭いのする水は。目がしぱしぱするじゃないかっ。こんな泥水を浴びせかけたって駄目だよ。逃がさないよっー!」


マーセルが私達に向かって炎の魔法を打ち出した途端に、ドガァーーンという音をたてて爆発した炎がマーセルを包み込んだ。爆風が熱を持って辺りの木々をビュービューと揺らす。

「ぎゃーーーーー!!」

どす黒い紅蓮(ぐれん)の炎の中でマーセルの目がカッと見開かれ、私達を見据えたと思うと一気に黒い煙を吐きながら空高く燃え上がっていった。


「・・・・・ひえ~、危機一髪っていうかなんていうか。なんだい?あれは。自爆したのかな。」

ロジャーがガタガタ震えながら腰を抜かしている。

私達も今わの際に睨みつけられたマーセルの眼光で、そこに釘付けにされたかのようにしばらく動くことが出来なかった。




**********




 その日の夜は、国境近くのトナン村で宿をとることにした。東のライヘンと南のサウゼに挟まれた南東の村だ。私達が部屋に入って休もうとしている所に宿のおかみさんが来客を告げた。

「お客さん、夜分遅くにすみません。トナン村の村長が、お客さんたちのことを聞いてどうしても話をしたいと言ってきてるんですが・・・。」

「わかりました。下に降ります。」

私達は寝間着を脱いで、今日来ていた服をもう一度着る。

「何の話でしょう・・・。」

「明日に出来ない話なんだろう。ここはスーバルタンの脅威にずっと(さら)されてきた村だ。今回の侵攻には一番神経を尖らせてるんじゃないか?」


私達が下のホールに降りて行くと、おかみさんが食堂の方に連れて行ってくれた。食堂に入ると10人ぐらいの男の人たちが、一斉にガタガタと椅子から立ち上がった。

「子どもっ?」「大丈夫なのか?」小さく漏らした声が聞こえてくる。

その中から若い男の人が一歩前に踏み出して挨拶をする。

「僕は今年の村長を預かっているレイフといいます。重要な情報が入って来たのでお伝えしたいと思いまして・・・。えっと、その前にロジャーの言っていた救国の勇者というのは本当にあなた方の事なんでしょうか?」


リードが笑って一歩前に出る。

「救国の勇者という言葉は初めて聞きましたが、スーバルタンの脅威を取り除こうと動いています。私はリード、こちらはホリーです。」

身体は小柄だけれどリードの落ち着きと威厳は、そこにいた男たちの口を閉じさせた。

「失礼しました。・・実はサウゼの町で新聞屋をしている聞き耳の魔法使いから情報が入ったんです。そちらに座って聞いてもらえませんか?」

私達は男たちの中に混じって、食堂のテーブルについた。おかみさんがみんなにお茶を配ってくれている。


みんなが席に着いたのを見て、村長のレイフが口を開く。

「実は三日前にライヘンから南のサウゼに向かっていた使者が敵の手に落ちたようなんです。つまりこちらが考えている計画が向こうにバレてしまっている可能性が非常に高い。」

「・・・そうですか。しかしそんなこともあろうかと警告文の許可願いの文書以外は口頭で伝えてもらうようにしていました。・・・使者が拷問されて口を割ったということでしょうか。」

「いや。そこまではわからない。だがその可能性も含めて動いた方がいいと思うんです。つまりあなた方の存在をあちらは手にしているということです。」

「・・・リード、そう言えばマーセルは私達の名前だけでなく村の名前まで知ってたわっ。」

昼間のことを思い出して私がそう言うと、リードも考え込んだ。


「・・・・出来れば穏便に済ませたいと思っていたんだがな。計画変更を余儀なくされたようだ。・・・レイフさん。あなた方はスーバルタン共和国に一番近い村の人たちだ。この情報の事もそうだが、四つの町が手にしている情報もほとんどはこの村からの発信だったんじゃないでしょうか?」

リードがそう言うと、他の人たちがどよめいた。

「はい。5年程前から隣国がきな臭くなってきたので、聞き耳の魔法の使えるものや速足の魔法の使えるものなど、スパイ活動が出来るものをこの村に集めて来たんです。村長もここしばらくは素早く動けるように若い者の持ち回りでやってきました。」


リードは10人の男たちを見まわす。

「それでは、スー国の誰が今回の侵攻を計画して来たか、そして誰を排除すればよいかみなさんは知っておられるのですね。」

「はい。名前や顔などを調べて役人の方に情報を送ったのは僕たちですから。」

「それはいい。みなさん、一晩ゆっくり休んで体調を万全にしてください。明日の朝、この問題に決着をつけましょう。明日ですべてを終わらせるとお約束します。」

リードは皆に向かって言い切ると、立ち上がって部屋を出て行った。私も慌ててリードの後を追う。

「何か考えがあるんですか?」

「ああ、やりたくなかったがここまで来たらやらざるを得ないようだ。ホリー、今日は休もう。明日は魔法の力をだいぶ使いそうだからね。」


私達が疲れた身体をベッドに横たえた頃、窓の外のコオロギたちは深い闇の中で愛の歌を静かに奏でていた。

涼しさを増してきた夜風がこの南の村に秋の到来を告げようとしていた。


決戦前夜・・・。

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