討伐と謀略
父さんを害したアスバルを追います。
私達が転移したところは狭い路地裏だった。前方に長袖を着た男が歩いて行くのが見える。リードと顔を合わせて頷き合うと私達は黙って男の後をつけていった。
その男が町はずれにある森の中へ入っていったのが見えたので、姿を見失わないように走って追いつく。
木立の中をしばらく進んだ後で、男は急に立ち止まった。
「お前らっ、バレバレなんだけど。後をつけて来て、俺に何の用だっ。」
「気づいていただいてありがとうございます。クローバル軍第三班所属のアスバルさんですか?」
リードの問いかけにアスバルはニヤリと笑って振り返る。
「ふん。突き止めたのか。ちょろちょろとこざかしい奴らだな。」
「こざかしいのはどちらでしょうね。あなたのやっていることはあまり褒められるような仕事とは言えませんね。特にダンテを殺そうなどと・・・愚か以外の何物でもない。」
「なんだとっ、偉そうにっ。・・ふふお前らもお父っつぁんと同じ目にあいてぇようだなっ。」
アスバルはサーベルを構えて私達に対峙する。
「本性を現しましたね。【アスバルヲ ジメンニ ウメタイ】」
リードが日本語魔法を詠唱すると、アスバルは物凄いジャンプ力で木に飛び移った。
「おっと、危ねぇ。ハッハッ、お前らの使う魔法なんざ見切ってんだよっ。」
なるほどね。昨日、私達がザグルに使った魔法をどこかで見ていたのね。・・・でもねアスバルさん、日本語魔法はなんでもありなのよ。私は溜息をついて、日本語魔法を使う。
「【アスバルヲ ダンテト オナジメニ アワセタイ】」
私が詠唱した途端に、アスバルは身体を切り刻まれた状態で木の上から地面に落ちて来た。太ももの大動脈を切ったのだろう、森の中に血しぶきをまき散らしている。
「なっなっ、何だっどうなったんだっ。ひぇーー、痛てぇー。おいこりゃあ・・・うぐっ。」
「目には目をよ。自分にされて嫌なことは、人にもしないことね。お母さんに教わらなかった?」
「・・・・ホリー。僕は君を怒らせないようにするよ。」
リードは血がかからない距離を保って、アスバルに話しかける。
「マーセルはどこに行った。言ったほうが身のためだぞ。地獄の沙汰で斟酌してもらえるかもしれないぞ。」
「知るかっ。・・おっ・・俺は知らねぇんだ。奴は姿をくらましちまった。・・んぐっ。うっうっ。」
「そうか。使えないね。ホリー、次の手を打とう。」
「わかりました。」
私達はうめき声をあげるアスバルを放置して、庁舎に転移して戻った。
「ただいま戻りました。アスバルの方は討伐してきました。これからスーバルタン共和国のスー国の軍部への謀略にかかります。」
リードの言葉にデニスが口を開けて驚く。
「えっ、こんな短時間で奴を仕留めたのか?!」
「ええ。致命傷を負わせた後で森に放置してきたので、後は獣たちが始末してくれるでしょう。」
「・・・・・・・・。」
私達はさっき座っていた椅子に腰かけると、謀略の相談をする。
「目立つ動きは出来ないからな。・・・先ずは食料を仕入れている店と軍部との間に楔を打ち込もう。」
「伝票操作をしてみましょうか。」
「そうだな。軍部に非があるように持って行きたい。」
「わかりました。」
私は先読みをして、スー国の軍部が取引をしている食料品店の事務所の伝票を探す。
「【スーコクグンブノ ショクリョウヒンデンピョウヲ テニイレタイ】」
わたしが詠唱すると、机の上に分厚い伝票帳が現れた。
リードがそれを見ながら、わざと手を入れた後がわかるように改ざんしていく。
「店側のものがこれを見たら軍部と取引をするのは、大損だと思うだろうな。」
私達は改ざんした伝票を元の場所に戻した。
私達がやっていることを代表のザッカリーと相談役のマシューは興味深げに眺めていたが、ここに来て口を開いた。
「武器とかではなく何故食料品に焦点をあてたんだい?」
「他国に侵攻するために軍隊を動かそうと思ったら、大量の食糧補給がいるんです。立往生させるためには補給路を断つのが一番です。特に食料は一日に三回は必要ですからね。武器よりも先に切羽詰まって来ます。」
「なるほどな。自分たちに同じことをされると思ったら、鳥肌が立つな。」
デニスも嫌な顔をして両腕をさすっている。
「スー国が動き出したら直ぐに、スー国の民衆や同盟国のバル国タン国に心理戦を仕掛けたいですからね。スー国の大統領やその側近を間抜けな馬鹿者に見せるようにチラシをばら撒く準備をしましょう。」
それから私達は、リードの書いた文章をみんなで一緒にコピーする作業に没頭した。地味な作業だがこれも立派な武器になるものだ。
それから二日後、父さんが起き上がれるようになった時に西の町トラントに行っていた使者が帰って来た。しかし急げば半日で行けるという南の町サウゼに向かった使者がまだ帰ってこない。途中で何かあったに違いない。デニスたち軍隊は、南の町に向かって出発した。
「三町の合意としては、警告文の発令にゴーサインが出た。使者が一人戻ってこない所を見ると攻めの一手に出る時だと思う。」
ザッカリー代表はそう言って、スーバルタン共和国に警告文を発令した。
私とリードは、北の町ノスルに使者として出向いていた速足の魔法使いロジャーと組んで、クローバル国とスーバルタン共和国との国境に向けて、転移を繰り返していた。
決戦の時はすぐそこに迫ってきていた。
いよいよ大詰めですね。




