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魔女の家

魔女の家へ・・。

 秋の風が吹き始めた日に、リードが森にゴムの原料になる葉っぱを採りに行くというので、私も一緒についてきた。今日は魔女のガブリンの家に行くつもりなのだ。

「魔女に食べられないように戻って来いよ。」

「心配性ね。父さんたちも大丈夫だって言ってたでしょ。食べられるのは独身男性だけ。リードは心配でもついて来ないでね。」

「ふーん。少しは僕のことも気にしてくれてるんだ。」

「もうっ。・・・そういう意味じゃないし・・。」

「はは、わかってるよ。ほら、そこがわき道の入り口だ。気をつけて。」

「ありがとう。リードも遅くならないうちに帰ってね。」

「ああ。」


森の中のわき道を入ってしばらく歩いて行くと道の両側にリンドウの花が並んで植えられている場所にやって来た。その向こうに甘い匂いに包まれた藁ぶきの可愛い田舎家があった。玄関の周りには低い背丈の秋の草花が植えられており、庭には一面にコスモスが風に揺れていた。

「たぶん。ここよね。でも外側は普通の家みたい。」

玄関に近付いて行くと、不意にドアが開いて魔女のガブリンが顔を出した。

「いらっしゃい。待ってたのよ。なんか今日はホリーが来てくれる気がしてたの。」

「こんにちは。なかなか来られなくてごめんなさい。ジェシカの結婚式のこととかで忙しくて・・・。」

「知ってるよ。私も結婚式を見に行ったしね。さぁ、入って。」

カブリンに促されて家の中に入ると、そこはまさにお菓子の家だった。

壁一面に埋め込まれているようにジェリービーンズの瓶が並べられている。クッキーの瓶で出来ている物入れやガラスケースにいくつものケーキが入っているキッチンテーブル。チョコレートの板をガラスで包んで作られた本棚。天井にはびっしりとキャンディーが並んでいて、それも綺麗にガラスでコーティングされている。

「わぁーーーーっ。」

叫んだまま、驚きで立ち尽くしている私をガブリンは満足げに見ていた。

「なかなか見ごたえがあるだろ。私は子どもの頃からこういう家に住みたいと思っていたのさ。さあ、座って今日のケーキを選んでおくれ。」

私は言われるままにキッチンテーブルに座って、その中の一つのケーキを指さした。

「この栗のケーキ、モンブランを頂いてもいいかしら。」

「いいよー。」

テーブルの横から引き出せるようになっているようで、ガブリンは私の為にモンブランを、自分にはチョコレートケーキを取り分けてお茶の用意をしてくれた。

勧められてケーキを一口食べるとその美味しさに目が丸くなった。これは今まで食べたケーキの中でぶっちぎりの一番だ。ふわっとした生クリームとそれにのっている栗のペーストが何とも言えないハーモニーを奏でている。軽い口当たりで何個でも食べられそうだ。

そんな私が食べている様子を見て、ガブリンは笑いながら他のケーキも切り分けてくれた。


「ガブリンさんは、お菓子を作る魔法が使えるんですか?」

「ああ。それで結婚が出来なくてね。ふふ、わからないかい?毎日、お菓子ばかり食べたい男はいないだろ。あたしもお菓子以外の食べ物を作るなんて願い下げだったからね。これで良かったんだよ。」

「・・・そうなんですか。」

「ところで、一人で森で暮らしてると勘が鋭くなってね。ホリー、あんたとリードはちょっとおかしいね。雷雨の夜に染まったその髪も変だけど・・・二人にはこの世界の者ではない匂いがするんだよ。リードがアイデア魔法と言っている蝶番もゴム紐も、なんかこの世界で出来たとは思えない発想を感じるんだ。どういうことなんだい?」

「・・・・・・。」

私はケーキを頬張っていた手を止めて、ガブリンの顔をじっと見た。誤魔化すのは許さないよ。とその顔が言っている。

「わかりました。お話しますので、他言無用でお願いします。」

私はダンテとエラに説明したのと同じことを、もう一度ガブリンに話した。

「・・・なるほどね。どうりでリードが気になるはずだ。私の歳に近いんじゃないか。」

「駄目ですっ!リードは渡しませんっ!」

私が慌てると、ガブリンはお腹を抱えて笑い出した。

「くくくくっ、そんなに慌てなくても取りゃあしないよっ。ヒィー、なんだいあんた。普段はすましてるくせに、そんなにリードのことが好きなのかい?」

ガブリンにそう指摘されて私はうろたえてしまった。

「・・・すっ、好きとかそういうんじゃ・・ない・・です。」

「くくっ、そうかい。そういうことにしといてやろうかね。」


ガブリンは紅茶を入れ直して、私の前に置いた。

「気を落ち着けて聞いて欲しいから、まずはそのハーブティーをお飲み。」

「えっ?・・・はい。」

私は言われるままに、ハーブティーを一口飲んだ。カモミールのようだ。リンゴのような甘い香りがスッと鼻に抜けた。

「あんたはダンテの家にいるんだから、隣国のスーバルタン共和国がうちの国に干渉してきているのは知ってるね。」

「はい。父さんが言っていましたし、母さんもニコラさんに聞いたって言ってました。」

「・・・そうかい。ニコラが知っているのならアルベル村の全員が知っているってことだね。んー、事は急を要するようだ。」

「ガブリンさんは何か他に知っておられるということですか?」

「察しがいいね。その通りだよ。アルベル村のすぐ北にカトスという村があるんだ。そこにザグルっていう名前の暗い魔法使いがいる。こいつがどうも近隣の魔女をたぶらかして一緒に内部反乱を起こそうとしているみたいなんだ。私の友達のシリルっていう暗い魔女がいるんだが、シリルにも声がかかったらしい。シリルはザグルと同じ村だから、あいつの腐った性根を知ってるからね。すぐに断ったらしいんだが・・どうも最近、ルクト村のレジーナとライヘンの町のマーセルが奴の手に落ちたみたいなんだ。」


私は、以前森の帰り道に目の前をよぎった影のことを思い出した。三つの影。一人の魔法使いと二人の魔女。・・・三つの影は先読みの力で見えた警告だったのだろうか。

「お菓子を作る魔法なんかじゃ対抗できないからね。誰か対応できる魔法を持っている人間を探してたんだよ。」

「ガブリンさんは、リードと私にその人たちを何とかして欲しいと言われるんですか?」

「ああ、そうだ。あんたたちの話を聞いて確信を持った。あんたたちはメガン神に呼ばれたんだよ。雷に与えられたその日本語魔法とやらで、ザグルと二人の魔女を止めて欲しい。内紛なんかが起こったら一気に隣国に攻め込まれてしまう。敵はそれを狙ってもしかしたらザグルに干渉したのかもしれない。」



とんでもない話を聞いてしまった。

うきうきとお菓子を食べに来て、こんな話を聞かされるとは思ってもみなかった。

私は・・私と瀬崎社長は、戦士としてこの世界に呼ばれたのだろうか・・・。




困った事態ですね。

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