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目覚め

激しい雨の中・・・。

 家の外では雨が降っているようだ。

降っているというような表現では生ぬるい。ザーザー・・いやザンザン。とにかく桶をひっくり返したように音をたてて降っている。その合間に雷が光り、近くで落ちたような地響きのような音がする。

ドンガラガッシャンダダァーンゴロゴロゴロ。


・・・今のは落ちたね。

その音で目が覚めたのだろう。私は(まぶた)を開けた。


暗い部屋の中が見える。ピカッと光る時折の閃光で部屋にカーテンがかかっていることがわかる。

ん? 部屋の中っておかしくない?

だんだん覚醒していく意識が、私に違和感を伝える。


ドンッ。パチッ。「痛いっ!静電気が・・・。タオルを持って来てっ。」「俺がやるっ。」

誰かが部屋の外に来たようだ。急に騒がしくなってきた。

ドンドンドンッ。「ホリー、大丈夫か?! ホリー、ホリーっ!」

・・・私のことを呼んでいるのだろうか?・・でも私はホリーなんていう名前じゃないけど・・・。

私の名前は・・・。うっ痛いっ。頭が痛い。


「開いたっ!」誰かがドアを蹴破ったような音がして、暗い部屋の中にランタンの明かりが入ってきた。何人かの足音がする。

「まぁ!髪の色が・・・ホリー・・ああ、あなたなんてことっ。」

「目が開いてるっ! ホリー、意識はあるのか? 父さんと母さんの顔がわかるか?」

男の人が「私」を覗き込んで、そう問いかけた。

「わ・・たし、ホリー?」

「話せるぞっ。」

「ああ・・神様、ありがとうございます。」

女の人が力が抜けたようにベッドに座り込んできて、手を合わせて神に祈りを捧げ始めた。


これは・・いったいどういうことなんだろう。

ズキズキと痛む頭に顔をしかめながら、私は周りの様子を見ていった。

私は木のベッドに寝ている。背中には固い板のようなものを感じている。布団は薄い夏布団のようだ。軽くて薄っぺらい。ぼんやりしたランタンの明かりは、熊のように大きな男の人の影とゆらゆらと動いている女の人の影をお化けのように部屋中に写している。


私はホリーなんていう名前じゃない。

私の名前は・・・・神崎瞳(かんざきひとみ)。瀬崎商事の社長秘書。

・・・社長っ、そう言えば・・・・・・。

はぁー、・・ここは天国なんだろうか。

意識が明瞭になって来て直前のことを思い出した。会社の車に乗って土砂降りの雨の中を取引先の元へ急いでいた。隣には社長の瀬崎守(せざきまもる)が乗っていた。一際(ひときわ)大きな雷の音がして、車が真っ白な光に包まれたと思ったら、大きな街路樹が黒く倒れかかってきているのがチラリと見えた。その途端に意識が無くなった。


・・・・・死んだのね。

でも、天国にしては頭が痛い。このこめかみから頭全体に広がって来るズキズキとした痛みは現実の世界を思わせる。

私は布団の中で手足を動かしてみた。ちゃんと肌触りを感じる。

私が動くと、ベッドの端に座っていた女の人が驚愕の表情を浮かべる。

「あ・・・あ・なた。ホリーの手足が動いてるわっ。」

その驚きように、思わず動かしていた手足を止める。すると男の人が私の身体を覆っていた布団を跳ね除けて、懇願して来た。

「ホリー、父さんにも見せてくれっ。足が、足が動かせるのかっ?!」

その必死の声色に押されるように足を動かす。

「・・・・・これ・・は。神の奇跡だっ!」


二人は興奮していたが、私は冷静に考えていた。もしかして、ホリーは手足が動かないような病気だったの? そしてこの状況から判断すると、私は今、このホリーという人で、この二人の男女が両親ということらしい。・・・こういう状態はどこかで聞いたことがある。

転移? 転生?・・・異世界に飛ばされるという、あれだろうか?それとも輪廻転生で日本とは違う国に生まれ変わったのだろうか・・・。

ただ、意識は神崎瞳のままだ。ホリーの意識はどこへ行ったのだろう?


「頭・・痛い。」

駄目だ。難しいことが考えられない。鈍痛が耐えられなくなってきた。眉間にしわを寄せて痛がっている私を見て、女の人が私の頭に手を置いて何やら呟いた。

すると、スッとしたハッカの香りが身体中を包んでいくのがわかった。ズクズクとした痛みはだんだんとあいまいなものになり瞼が自然に閉じて意識が混濁していった。

「おやすみなさい。愛しい子。」

優しい女の人の声が耳元で聞こえ、おでこにキスの感触が残った。




異世界ライフが始まりました。

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