ハッピーバースデイ!誰か。
ほぎゃあほぎゃあと病室に赤ん坊の鳴き声が響いた。
看護師は慣れた手つきで赤ん坊の首筋にプラグを差し込む。
ぱしゅっ
という軽い音と共にナノマシンが注入された。
これにより赤ん坊はあらゆる病気にかかることはなくなり、怪我をしてもすぐ治る。
プラグが刺された箇所もすでに赤くなっているだけで傷はふさがっている。
これが現代の出産風景だ。
1週間ほど母子共に病院で過ごし、問題もなく退院する。
赤ん坊はすでに目が見えるようになっており、その目には知性を感じさせる。
顔つきは母親に似ている。
さらに言うと病院を出る際にすれ違う他の母親にも似ている。
デザイナーベイビーという言葉をご存知だろうか。
両親が生まれてくる子供の遺伝子を自由にカスタマイズする手法のことだ。
これにより、能力、外見、性格などがほぼ、思い通りになる。
ほぼ、というのは、成長する過程の環境などにより変化することは免れないためである。
この手法が当たり前になってすでに長い年月が経過している。
その結果、「もっとも優れたカスタマイズ」に行き着くのは当然の帰結である。
オンラインゲームを遊んだことがあるならばわかるかもしれないが、いわゆる「テンプレ型」というものがデザイナーベイビーにも存在するのだ。
そのため同性であれば「同じ顔」「同じスタイル」「同じ性格」になってくる。
言ってしまえば一卵性双生児と大差ない。
ほどなくして赤ん坊は順調に、他の子供と同じように成長する。
数日違わず同じように成長する。
同じように寝返りを覚え、はいはいを覚え、言葉を覚える。
家庭環境が違うにも関わらず、だ。
正確には、家庭環境すら、ほぼ同一である。
親の世代もテンプレ型ばかりで趣味思考が似ているのだから、どの家も同じような構造になる。
また、現代では遺伝子の仕組み、脳の構造、パルス信号など全てが解析されている。
そのため、記憶の外部出力、入力が可能となった。
テニスがうまくなりたければテニスプレイヤーの動作マニュアルをインストールすれば良いし、
囲碁が強くなりたければ、同様にプロの定石を入れれば良い。
結果、人類は特別な努力を必要としなくなった。
体内に注入されたナノマシンは常に学習データをクラウドに送信し、他の個体の学習データを受信する。
脳の成長に合わせた学習プログラムも存在し、常に最適化され続けている。
他者と自分の考え方の違いもなくなった。
思ったこと、考えたことが全て共有化されているのだから当然だ。
それにより人々からは競争、争いは消え、すれ違う悲しみはなくなった。
個性は消え、世界は平和になった。
全ての人類は、同じように考え、成長し、死ぬ。
母親はふと、考える。
果たして腕に抱くこの子は一体誰なのだろうか、と。
そんな疑念すら一瞬のデータ共有の後には消え去った。
魂の均一化といいましょうか、人類補完計画のようなものですね。
イメージとしては全人類のミサカネットワークでしょうか。
こうなってしまうと果たして生きているとはどういうことなんでしょうね。