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ゴスロリライダー  作者: キョウ
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第二章(1)

〜第2章〜


「おお、菊花ちゃん。今日もゴテゴテした服を着ているのぅ」

「おう、山田の爺様。あんたも相変わらず散歩かい? 健康でなによりだねえ」

「はっは。日課というやつじゃ。こういうのがないと1日家で乾いてしまうのでな。さて、では行くとするかの」


そう言って、お爺さんは歩いていった。何も繋がっていない犬のリードをずるずると地面に引きずりながら。


「あれはこのキシン荘の住民の一人だよ。山田って苗字しか知らないしそれが本名かは知らないけどね」


ボクが気になるのはそこではなくて。


「ん? ああ、あのリードかい? あれについてはほら、なんか聞きにくいじゃん?気の利くやつらばっかりでね、あえて触れてないのさ。だから、知らん」


そういうことならボクも見なかったことにしよう。

深入りしてもなんか怖いし。

日が傾き始める頃。ボクは菊花さんに連れられてこのキシン荘というアパートにやってきた。そして、その入口で山田さんに会ったところだ。


「なに、心配はいらないよ。あの爺様も悪い人間じゃないし。ほら、大家に挨拶と行くよ」


3階建てのキシン荘の1階、一番端部屋が大家さんの住居兼管理室になっているらしい。そこに菊花さんはインターホンを押すと同時にドアノブをひねって中に入っていく。ずいぶんアットホームな風景だ。


「お、いたいた。ほらみちる、コッチ来い」


菊花さんについて玄関をくぐった。

視界の先には畳敷きにちゃぶ台という昔本で見たような部屋が広がっていた。

座布団に座っているお婆さんが一人。

近くには幼稚園児くらいの子供がお絵描き遊びをしている。


「梅さん。こいつ、この街に来たばっかで当てもないらしいんだ。少しばっかり世話ぁすることにしたから、ちと一部屋借りるぜ」


とても端的で独断的な物言いをする菊花さん。

挨拶と聞いて何か言わなきゃと思っていたけれど、これではまごつくしかない。

愛想笑いを浮かべるボクを余所に、梅さんと呼ばれた大家さんらしき人が立ち上がって部屋の鍵を一つ持って来た。


「こぉんにちは。おやおや、まだ若いのにここに来るだなんてきっと大変だったんだねぇ。はい、菊花ちゃん。204号室を使っておくれ」

「サンキュー、梅さん。ほら、行くぞみちる」


菊花さんはそう言って踵を返す。

展開が早くて追いつけていないが、ボクはとにかく名前とよろしくお願いしますという旨をどもりながらも早口で伝えると、菊花さんを追った。

階段を上り、2階の廊下を渡っていると、203号室と書かれた部屋の扉が開いた。

出てきたのは、真っ白な人だった。

上から下までレースの白の衣装に身を包んでいる。

黒くて長い艶のある髪が、より一層その白い姿を浮かび上がらせていた。。

それでいてルージュはいやに紅く、どこか神秘的な雰囲気すら感じさせた。


「あら、菊花じゃない。今は役所に行ってる時間じゃないの?」

「野暮用だよ。この後ろの、海道みちるってんだが、しばらくセポ姐の隣室に邪魔させるよ。いやしかし挨拶に行く手間が省けて良かった。少し時間いいかい?」

「ええ。少し港に買い物にでも行こうかと思っていたくらいで、約束があるわけでもないから」


黒を背景に咲いた微笑が人を引き付ける。

この人も、菊花さんとは別種の魅力を感じる。


「私は神楽(かぐら)聖歩音(せぽね)と言うわ。えっと、みちるだから……ミッチーね! よろしくね、ミッチー」

「みんなはこの人のことをセポ姐と呼んでいるんだ。みちるもあだ名で呼ばれるくらいだ、気軽にセポ姐って呼ぶといいさ。でさ、セポ姐は凄いんだぜ? なんたって本物の占い師なんだ。かっこいいよな〜」


かっこいいかはわからないが、菊花さんが一目置いているのは態度から見て取れる。

ナチュラルに褒められたセポ姐さんはどこか恥ずかしそうに頬に手を当てている。


「やめてよ菊花。嬉しくて延髄蹴り上げたくなったわ」

「相変わらずセポ姐は恥ずかしくなるとすぐ攻撃的なセリフを吐くよなぁ。そこのギャップがまたいいんだけど」


しれっと言われた暴力的な言葉にボクが固まったのを見たのか見てないのか、菊花さんがフォロー(?)を入れてくれる。

うん、もしかして、このキシン荘って、変わった人が多いのかな?

それはともかく。

こちらも改めて自分から名乗ってよろしくお願いしますと頭を下げた。


「はい。こちらこそ改めてよろしくね。お隣さんということで、何かあれば遠慮せずに言ってね」


そう言うとセポ姐さんは買い物に行ってくるわと階下に降りて行った。ふと廊下から下を見ると、キシン荘の入口に青年が立ってこちらを見ていることに気がついた。


「ああ、ありゃ礼二だな。ここの1階の住人で、言うなりゃセポ姐の護衛みたいな男だ。港に行くのに付いていくんだろう。あいつが付いていくなら道中安心だわ」


一目階下を見てそう言うと、菊花さんは203号室の扉を開けて中へさっさと入ってしまった。ボクは慌てて追い掛けた。

部屋は東向きなのか、薄暗い。先ほど菊花さんに聞いた限りでは8畳間に前の住人の家具が置いてあって不自由はしないだろうが少し狭いかもということだったが、実物を見ると思った以上に広く感じた。

菊花さんは、ベランダから外を見ていた。靴を脱いで近づくと、彼女は振り向いた。


「ひとまずお疲れさん。蹴り入れてすまなかったな」


改めて謝罪をしてくる菊花さん。

災難ではあったが行く当てもなかったところに部屋まで都合してもらえて、むしろこちらがお礼を言いたいくらいだ。

そう言うと、菊花さんは苦笑して下を向いた。


「そうかい。中々殊勝だねぇ、あんた。なら殊勝ついでにさ。教えちゃあくんないか」


――体感温度が下がったように感じる。

太陽から陰になっている部屋のせいじゃない。

これは……ボク自身が冷たく感じているせいだ。


「なに、今は隣のセポ姐さんも出掛けているし、反対側に人は住んでないよ。あたしたち2人だけだ。他言はしないさ」


顔色は、陰になっていてよく分からない。

よく分からないが、先ほどまでの親切心とは違った声質を感じる。

そう、まるで義務感のような……。

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