第一章(2)
モニターの設えられた部屋でドスの利いた声が静かに響く。
「……おい、あのガキはなんだ?」
「はい。途中から連絡があり見張っていますが、特に何かしている様子はない模様ですはい」
受け答えする黒服の男は冷や汗を浮かべている。
「あん? じゃあなにか? 運がいいだけだとでも? そりゃあたまにそういう奴はいる。実際に持ってる奴は持ってるもんだ。だが、ありゃぁ異常だ」
「はぁ……。しかし、今まで色々なサマを見てきましたが、あそこまで何もしてないのを見ると……」
「じゃあ、アレどうすんだ? アア?!」
激昂するのは派手なスーツを身にまとったいかつい男。
その背に、涼しげだが地に足の着いたような声音が降る。
「なんだい大将、大きな声出しちゃってさ。なんかいい見世物でもあるのかい?……おやおや、これは声を荒らげもするわけだ」
「おお、菊花ちゃんか。いいところに来てくれた。集金は後でいいか? ほら、見てくれよ。あのガキだが、見ての通りなくせにサマはしてねーみたいでな。なんか、分かるかい?」
「あたしも仕事で寄ってるだけなんだけど、ったく……ふうん。判断スピードが独特だねえ。ああ、心当たりはあるよ。もしそうなら、見ても分かりゃしないよ。あたしが行こう」
「すまねえ、頼んだわ」
菊花と呼ばれた人物は踵を返すと、片手をあげることで返事に代えた。