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ゴスロリライダー  作者: キョウ
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第二章(6)

『大災害』があってから、人々は仲違いをしている暇がなくなり、協力し合うようになった。そう書かれているのを本でもインターネットでも見掛けた。

ボクもそう思う。大変な時は、助け合わなくちゃいけない。

そう教えてくれたのは、あの人だった。ボクは、あの人を信じていた。

あの人の周りには、困った人たちが集まっていた。

そのうちにあの人は、みんなを束ねて『エルドラド』という名の組織を作った。

ボクは、みんなの拠り所となる素晴らしい集まりだと信じていた。

でも、だんだんと分かってきた。人間というのは、清い面だけで生きているわけではないと。

それは当たり前の話なのかもしれないが、あまり人と会って話してこなかったボクは。それに気付くのが遅れた。

気付いたボクは、逃げ出した。

あの人たちのような面が、ボクにもあるのだろうか。

ボクは、いつからあの人たちのような人に囲まれて過ごしていたのだろうか。

色々なものを直視するのが――怖かったんだ。

ジョージさんの後ろから覗き見ると、通りの真ん中辺りにある加工食品を扱っていると思われる店舗の前に倒れている男の人と、オフロードバイクの前でせわしなく周囲に睨みを利かせている二人組の男たちがいた。

周囲には野次馬も近づいておらず、倒れている人は足を押さえて低く呻いている。

菊花さんに遅れて今見たところだから経緯は分からないが、結果は目の前に広がっている。

二人組のうち、一人は首元からボクが着けているのと同じダビデの星を象った装飾品を下げている。もう一人は同じものを耳から下げていた。

……顔に覚えはないけれど、『エルドラド』の人たちがあそこで倒れている人に暴力を振るったのだと。

見ていると、お腹の辺りがムカムカする。

そして、耳にダビデの星の形のピアスを着けた二十歳前後くらいの人の手にあるのは街灯を反射する小型のL字形をした拳銃。

古いアーカイブで観た映画のコルトとか言っていたものに似ていた。

あれを見ると、寒気がする。

あれは危険なものだ。

ボクに解るということは、同じような力を持っているはずの菊花さんも解っているはずなのに。

なのに、あの人はなんであの二人組の正面に立っているんだ……?!


「派手にやってるねぇ。ここが掃き溜めの治外法権みたいなトコで正規の警察が居ないって分かってやってんのかい? だとしたら、中々賢いねぇ」


菊花さんのアルトの声が通りに響く。

わざとなのか、大きな声で挑発しているようにしか聞こえない。


「るっせーぞ!! こちとらもう三日もまともに食ってねーんだ、親切心が足りねーそこの店員に力ってやつを教えてやって何が悪いってんだ、アアッ?!!」

「かーっ、そんっくらい高楊枝で済ませられないとは、情けないねぇ。品もなけりゃ礼もないとは」

「そんなもんより前に、死んじまったら仕方ねーだろうが!!」


売り言葉に買い言葉。ヒートアップする二人だったが、「死」という単語を聞いてから、菊花さんは一層ギラついたように見えた。


「……そうかいそうかい。たしかに死んじまったらおしまいだ。だけれどもね、そいつは振りかざすもんじゃあないんだよ」


菊花さんが無造作に空いていた距離を詰める。

十メートルほど保っていた間合いを突き進んでいく。

危ない。あれでは、撃たれてしまう。

何か声を上げる前に、先ほども聞いた乾いた音が響いた。

その時、ボクは見た。

音がするタイミングのさらに前。

相手が動きを見せる直前、まるで台本があるかのように迷いなく一瞬で右に半歩だけズレた菊花さんを。

近距離にもかかわらず相手に弾が当たらなかったことに戸惑う耳ピアスの兄ちゃんは、次の瞬間菊花さんに殴られて昏倒した。

彼女の手には、いつの間に取り出されていたのか、大型のモンキーレンチが握られていた。どうやらアレを側頭部に食らったみたいだ

「ありゃ、痛ぇな。菊花君は容赦がないから恐ろしいぜ。あれで元看護師だってんだから、信じられん」


工具を振りかざす白衣の天使が居たら、それは明らかに堕天使の類だと思う。

ジョージさんのこぼした言葉に無為なことを想像していると、状況に動きがあった。

もう一人の男が、オフロードバイクにまたがって走り去ったのだ。

耳ピアスがやられた瞬間に逃げる判断をしたのだとしたら、相当危機感を感じたのだろうと言うべきか薄情と言うべきか。

流石に追いつけないと思ったのか舌打ちをする菊花さん。

ギャラリーもそれを傍観するだけで、オフロードバイクは道の先に消えていった。

その後、耳ピアスから拳銃を奪った菊花さんは近づいてきたジョージさんにそれを渡すと撃たれた店員さんの傷を診て、簡単な治療を施した。医療キットがスカートの中(遠目にそう見えただけでポケットだと信じたい)から出てくる辺り、謎の女子力である。

昏倒していた男の方は、ジョージさんが近くの店から梱包用のテープを借り受けて手首と足首をグルグル巻きにしてロクに動けなくしていた。数分後、ジョージさんが自警団と呼んでいたであろう警備員さんのような格好をした人たちが来て、耳ピアスの兄ちゃんを連れていった。


「さて、俺は自警団の連中に付いて行って、それから楽しい質問タイムだ。菊花君、得られた『エルドラド』とやらに関する情報があれば追って報せる。みちる君を連れて、今日のところは帰るといい。遅くなったが、トラブル解決助かった」


頭を下げるジョージさん。


「いいってことよ、飯、奢ってもらったしな」


対して鷹揚に手を振る菊花さん。

このセリフだけ聞くとカッコいいが、駆け出す前に「ムカついている」からという理由を聞いているために、なんとも言い難い。

一人には逃げられたが、最近揉め事を起こしているという『エルドラド』の人間を確保し、周囲の人々も段々と騒がしくなる。

ボクの知っている、あの人が立ち上げた『エルドラド』に今どういう人たちが居てどう動いているのか。ボクは全く知らないことを、今更ながらに気づかされた。

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