表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

星空

2章


 一つ、選択肢がある。

仮定は自分が知らぬ間に知らぬ人間がとある一定の期間滞在することが決まっていた時。

 一つ、驚く。

 一つ、騒ぐ。

 一つ、抵抗する。

 大抵の場合は上記のパターンのリアクションをとるのが普通だろう。しかし、自分の家族の適当さを知っている空野蒼は全く別の選択肢をとった。それは『諦める』だ。

 そして昼食時、

「ほう、横浜かー。なんか懐かしいなぁ。学生時代以来行ってないなあ」

「はい。もう、開発がどんどん進んですごいんです。おじさんが見たらきっとビックリしますよ」

「ねえねえ、それよりも翠ちゃんのお母さんって今どんな感じ?いきなり電話かかってきてびっくりしたのよ」

「お母さんなら昔から元気にしてますよ。おばさんにも今度ぜひ遊びに来てくださいって言ってました」

「茜からもしつも~ん!翠さんって、今彼氏とかいるの~?」

「あ、あはははは。それについてはノーコメントでいいかな……」

 食卓にはすっかり家の家族に馴染んだ客人がいた。ただ一人を除いては。その一人である蒼は明らかに不機嫌な表情で黙々と箸を進めている。

「あれ、蒼兄なんでそんな元気ないの?」

 こめかみをヒクヒクさせている様子を元気がないの一言で片付ける状況から察してほしい。こういう家族なのである。蒼は自分がそんな家族の一員であることをさりげなく恨んだ。

「元気がないもなにも、目の前に赤の他人がいて、しかもその人と一緒に食事してる場面で平然としてる方がおかしいと思うんだけどな僕は」

「あるぇ、蒼兄って知らなかったんだっけ?」

「おー、そういやあの時蒼はいなかったなあ」

「じゃあ簡単に説明するとね、昨晩私の友人から電話があってね。娘を夏休みの間、ちょっと預かってくれないかって」

「それで二つ返事で頷いた、と……」

「そゆこと♪何か問題あったかしら」

 問題ありまくりなのだが蒼はあえて突っ込まなかった。

「もういいや、これ以上聞くと頭痛くなりそうだ。それより海原さんも大変だったんじゃないんですか?こんな急話に振り回されて」

「あはははは、私もさすがにびっくりしたかな。昨晩お母さんが急に『翠、明日からここに泊まりにいきなさい!』って電車の時刻表と旅行カバン持ってきた時は何事かと思ったけど」

 そう言って翠は苦笑する。蒼はそれを聞いて心の中で彼女に多少同情した。

 昼食を終えた後、蒼は自室で学校から借りてきた小説を読んでいた。内容はとある学園のミステリーもの。それも今作が最終回だった。

(まーた新しいもの探さないとなぁ……)

 そんなことを考えながらページをめくっていると、茜がドアを開けて顔を覗かせた。

「蒼兄、日和さんが来たよ~」

「おー、わかった。すぐ行く」

 栞を挟んで席を立つ。階段を降りてリビングに行くと、そこにはよく見知った幼なじみの北上日和きたがみ ひよりが一人で麦茶を読んでいた。日和は蒼に気づくと軽く手を振る。

「はぁい、邪魔してるわよ~」

「何しに来た?」

質問は簡潔だった。

「茜ちゃんに聞いたよ~?なにやら同い年で可愛い女の子がホームステイに来たんだって?」

「へえ、海原さんって僕らと同い年なのか。知らなかった」

「いやいや知らなかったってあんたねえ。仮にも一緒に住むんでしょうが。そんなんでこれからどうすんのよ?」

「どうするもこうするも、ただ同じ場所で生活してるだけだ。別にそこまで馴れ合うつもりなんてない」

「出た、蒼の根暗モード。そんなんだからこんなに可愛い幼なじみ以外友達できないのよ」

 日和はやれやれ、といった感じで肩を竦めてため息をついた。

「幼なじみなのは認めるが、お前をそんなに可愛いなんて別に思ってないぞ」

「ぶーぶー。そこはお世辞でも可愛いって言うところよ。それがマナーってやつなんだから!」

 ビシッと蒼を指差す日和。が、蒼はそれを軽くスルーした。

「話はそれだけか?なら僕はもう戻るぞ」

「ちょーっと待ちなさいよまったくもう。肝心のその海原さんに会わせなさいよ。こっちはそれが目的で来たんだから」

「はぁ、はいはいわかった。その代わり、用事が済んだらさっさと帰れよ」

 はーい、と返事をする日和。蒼は不本意ながらも日和を連れて翠が泊まることになる部屋の前まで来た。そして扉をノックする。

「はーい、ちょっと待ってくださーい」

 元気の良い返事が返ってきた。そしてすぐにドアが開く。

「あ、蒼くんだったの。え、あ、ええと隣の人は……?」

 翠の視線が日和に移る。

「ああ、こっちは幼なじみの……」

「どもー、蒼の幼なじみの北上日和でーす。興味本位で会いに来ちゃったけど今大丈夫かな?」

「あ、はじめまして、今日からここでやっかいになっる海原翠です。こっちもちょうど荷物整理が済んだところなんで、よかったらどうぞ」

「おー、ではでは失礼しまーす」

「じゃ、僕は部屋にもど……」

「あんたも来るの」

 日和に首根っこ捕まれた。

 結果を言えば、翠と日和はかなり相性がよかった。互いに今の生活や趣味や流行など、笑いながら話し合っていた。途中で日和が蒼にも色々と話しかけていたが、蒼はそれをことごとく受け流していた。

 ある程度話しが進むと女同士の会話というのだろうか、やたらとファッションやメイクなどがどうのこうのと蒼にはわからない小難しい会話に発展していった。そんな二人の会話を聞きながら、蒼は一人で窓の外のいつもと変わらない青空を見上げていた。そして日が傾きはじめたころ、日和が時間に気付く。

「あ、もうこんな時間。ごめんね、長い間話し込んじゃって」

「いえいえ、こっちも楽しかったですよ。また遊びに来てください」

「そかそか。それじゃ、また来るね~」

「はい、さよならです」

 そうして日和は風のように去っていった。部屋には蒼と翠が残される。

「すみませんね、やかましいやつで」

「楽しい人じゃない。私は好きよ、日和さんのこと」

「そうですか。ならいいんですけどね。じゃあ、僕もこれで失礼します。また夕食時に」

「うん、それじゃあまた夕食の時に」

 蒼は軽く一礼して翠の部屋を出た。

 そのまま時間は流れ、夕食の後に風呂を済ませた蒼は自室の窓の外から一階の屋根に出た。

 風呂上がりには嬉しいほどよく冷たい風が吹き、蒼の前髪を揺らす。蒼はこの誰も来ることがない空間が好きだった。ここは何考えずにゆっくりすることができる。

 ふと今日一日を振り返るといろんなことがあった。翠を家の近くまで案内したこと、翠が空野家に滞在すること、翠と日和が仲良くなったこと。

(って、なんか考えてみれば海原さんのことばかりじゃないか……)

 それほど蒼にとって翠の印象は強かった。都会からやってきた突然の訪問者。そう、彼女は蒼が憧れていた都会の人間だった。それを、うらやましいと思っている自分と、あまりのことに現実として受け止めきれていない二人の自分がいた。

 寝転がり夜空を見上げると、一面の星空が広がっていた。ふう、とため息をつきゆっくりと目を閉じると、徐々に体から力が抜けていく。このまましばらくいようと思っていると、コンコンと部屋の扉がノックされた。

「はい?」

「翠です。今、ちょっといいかな?」

「鍵開いてるんで、そのまま入っちゃってください」

「ではでは、お邪魔しまーす……って、あれ?蒼くん?」

「こっちですよ」

 窓の外から手を振る。

「うわ。そんなところで何してるの?」

「涼んでるだけですよ」

「へえ……隣、いいかな?」

「ええ、どうぞ」

「よいしょっと」

 翠が蒼のすぐ横に腰掛ける。すると風に乗って翠の方からほのかにいい香りが漂ってきた。

「はぁ、気持ちいいね~」

 翠がウーンと腕を伸ばす。そして大の字になって屋根に寝転がる。

「綺麗な星空。やっぱり田舎っていいね~」

「冬にこんなことしたら風邪ひいちゃいますけどね」

「あはは、そうだね~。でも、こんなに綺麗な空、冬でも見てみたいかなー……」

「こっちは北側ですから、冬でもそんなに眺めは変わりませんよ。時間帯さえ変えればどうにでもなります」

「むぅ、そこは嘘でも『そうですね~』って言うところじゃないの?」

「僕、不器用ですから」

「ダメだよそんなんじゃ。友達できないよ?」

「実際に友人なんてほとんどいませんよ」

「じゃあ、日和さんは?」

「あいつはただの腐れ縁ですよ。いつでもどこでも僕を振り回して、正直言ってけっこう疲れます」

「ふうん……」

 数時間ほど話していたところ、翠から見たら日和には少なくとも蒼に好意があるように感じられた。だが蒼の方はそれに気がついてる様子はない。翠は不器用な二人に、やれやれといった感じだった。

 「そんなことより」

 蒼は切り出す。

「都会ってどんな感じですか?やっぱりにぎやかで面白かったりします?」

「……あのさ」

 何故か翠の声色には多少の怒りが含まれていた。蒼には何も思い当たることはなく、あまりに不意のことだったので緊張のあまり一瞬息が詰まる。

「どうか、しましたか?」

「それ。日和さんとは普通に話すのに、なんで私の時は敬語になるのかなーって。なんだか壁作られてるみたいで嫌だな」

「っ……!?」

「いきなり現れて、やっぱり迷惑だった?」

「それ、は……違います」

 本音を言えば逆だった。翠は蒼にとって理想郷である大都会からきた人間だ。そんな彼女がまるで手の届かない遠い天使のように見えていたなんて、口が割けても言えない。家族に知られたらどうなることか。

「ただどう接すればいいかわからないだけで」

「ふうん……そっかそっか」

 彼女の顔が優しい笑顔で微笑む。やっぱり天使みたいだ。蒼はふと思った。

「それじゃあさ、蒼くん」

「えっ、あ、はいっ!」

「…………どうしたの?」

 いつの間にか、翠が蒼の顔を覗き込んでいた。

「い、いえ、なんでもないです、大丈夫」

 いくらなんでも『あなたに見とれてました』なんて言えるわけがない。急に恥ずかしさが込み上げ、慌てて目をそらす。

「なんで目をそらすの?」

「あ、いや、その……」

 翠が余計に顔を近づける。紅潮しているのが自分でもわかった。軽くパニックを起こし、何を言っていいのかわからなくなる。

「とりあえず、私のことは翠って呼んでね」

「あ、はい…………いいいいぃ!?」

「あと、敬語も禁止だからね」

「えっ、ちょ、なんで……?」

 パニックの連続でわけがわからなくなる。口がパクパク動くが、そこから言葉が出てこない。

「私が、蒼くんと仲良くなりたいって理由じゃ、ダメかな?」

「あ……」

 翠は、かなり控えめだったが苦笑していた。蒼は、自分が彼女を困らせたとわかると急速に落ち着いた。

「私もね、実は友達ほとんどいないんだ」

「え……?」

「ちょっと育った環境が特殊でね、ほとんど人と会ったことがないんだ。男の人……というか年が近い男の子となんて実際に見たのは数回だけ。だからお母さんからここに男の子がいるって聞いた時は正直心配だったの、もし怖い人だったらどうしようって。でも話してみたら優しくて親切で、嬉しいって言うより先に安心しちゃった。私、初めてが蒼くんで本当に嬉しかったんだよ」

 だからね、と彼女は続ける。

「もし蒼くんが私のこと嫌いじゃなかったら、これからも優しくしてほしいな、……なんてやっぱり図々しかったかな」

「…………」

 蒼は何も言えなかった。ただ、今の話を聞いたとたん彼女の『遠い国の天使』という想像が、完全に崩壊していた。本当は孤独で、ちっぽけで、寂しくて、臆病で、そんな自分が嫌いな彼女の心の奥底が見えた気がして、今はただの弱く、脆く、今にも崩れそうな年相応かそれ未満の普通の女の子にしか見えなかった。

「あはは、ごめんね変な話しちゃって。私、ちょっと気が緩んでたみたい。今の話はなかったことにしよっか」

「別に、いいよ……」

「え……?」

 気がついたら口から言葉が漏れていた。

「別に、忘れる必要なんかないよ。僕もちょっと変だったから、それでお互い様」

 冷たい風が吹いているはずなのに頭は完全に茹で上がっている。自分が何を言っているのかわからないのに、それでも口は止まらなかった。

「僕も君が都会から来たって知って正直緊張した。こんな田舎と全然違う、まるで異世界の人に見えてた。なんか雰囲気からして別物だったし。でも今の話を聞いたら拍子抜けしちゃった。なんだ別に僕らと変わらないんじゃないかって。だからさ……」

 ただ一言、続きを言うのに息が詰まる。簡単な言葉だし、言わなければいずれ後悔する。わかっているのに極度の緊張がそれを阻む。ここは、覚悟を決めるところだと本能が叫んでいた。蒼は、必死になって続ける言葉を吐き出した。

「だから、これからもよろしく、翠」

「ぁ…………」

 少しの間呆然としていた翠は次の瞬間、最高の笑顔でこう言った。

「ありがとう、蒼くん!」

 その本当に嬉しそうな笑顔はやっぱり天使みたいだ、と思った。

 翌朝、蒼は珍しく朝からリビングで朝食を取っていた。普段は読書で夜更かしすることがほとんどの彼にとって、目覚ましもなしに朝から起きているというのは異常事態にも等しい出来事だった。その証拠に母親は自分を見た瞬間に口をあんぐりさせ、父親は何度も新聞の向こうからチラチラとこちらを見ている。茜に至っては、何かを疑うような鋭い視線を常に放っている。だが、蒼はそれに気付いていなかった。正確に言えば、それに気付く余裕がなかった。理由は単純明快である。睡眠不足だ。あの後、翠が彼女の部屋に帰っていった後、蒼はとんでもなく悶絶していた。別に後悔してるわけではない。ただ、恥ずかしかったのである。ベッドの上を数えきれないほど転がった。シーツは滅茶苦茶になり、枕は飛ばされて何故か本棚に収まっていた。だがそれも夜が明ける頃には落ち着いていた。蒼も諦めの境地に達し、ようやくこれで眠れると思ったがそれは甘かった。

『ありがとう、蒼くん!』

 目を閉じた瞬間、翠が最後に見せたあの笑顔が脳裏に焼き付いていた。気になる。非常に気になる。なんであんなに嬉しそうだったのか気になる。なんで自分がそんなにあの事が気になるのか気になる。そうやって再び悶々となり、気づいた時には時計はもう既に8時を回っていた。その時にはもう寝る気にはなれず、仕方なくリビングで朝食を取ることにした。正直、寝不足のせいか昨晩のせいか、まったく味がしない。そしてこれからのことを考えると、余計に箸が進まなくなる。

 だが、やはり話はそう優しくは終わらなかった。階段の方から、こっちに向かって降りてくる足音が聞こえてくる。現在リビングにいるのは父親、母親、茜、そして自分。つまるところ今階段を降りているのは彼女しかいない。

「おはようございます」

 心の準備などできているわけがなかった。緊張が緊張を呼び、冷や汗がどっと流れる。

「おはよう翠ちゃん。昨夜はゆっくり眠れたかしら?」

「はい、おかげさまでぐっすりと。でもちょっと寝つきが悪かったので実はほんの少し寝不足気味です」

「あら、やっぱり場所が変わると違和感あるのかしら?」

「いえ、そういうことではないんですが……」

 対応策を考えている母を見て、翠は苦笑した。

「とても、嬉しいことがあったものですから」

「ゴフッ」

 その言葉を聞いて昨夜の会話を思い出してしまった。あまりの唐突な発言に飲んでいた麦茶が気管に入る。

「あ、蒼くんちょっと大丈夫?」

 あまりのことに翠も慌てていた。

「だ、大丈夫、問題な……」

 そして、視線がばっちりあってしまった。ここが正念場だ。ここで不自然な態度を見せると余計なことを勘繰られる。端から見れば既に違和感だらけなのだが、当の本人はまるで気付いていない。

「海は……」

 瞬間、翠の目がスッと細められた。そして頬を膨らませて口をツンとつき出す。彼女は無言でこう伝えていた。昨夜の約束はどうなったのだ、と。背に腹は変えられなかった。だが、何故か自分でも驚くほどその台詞はすんなりと出てきた。

「おはよう、翠」

「うん、おはよう蒼くん」

 打って変わってまんべんの笑みを浮かべる。やはり、これは何度あっても慣れそうにない。蒼は恥ずかしさのあまり顔を背けた。だが、それでも顔が緩むのは抑えられなかった。

「ねえ、蒼兄」

茜のドスのきいた声に思わずビクリとする。

「今、翠さんのこと名前で呼んだ?」

「あ、ああ。そうだけ、ど……?」

 そこでようやく彼は気付く。父と母も唖然として蒼を見ていることに。ただその目だけがキラキラと輝いている。

 危険だ、と本能が告げていた。この場にいるととんでもない事態になる。早急に去るべきだ。

「ごちそうさまでし……」

「私、聞いちゃったんですよ」

 退路は、塞がれた。そして普段ならありえない茜の敬語。これはもうダイナマイトが爆発してもおかしくないほど異常だ。

「昨日の夜に窓開けてたら外から蒼兄と翠さんの声が聞こえてきて……」

 マズイ。だがあれぐらいでは何もちょっかい出されるようなことはないはずだ。そして、さいは投げられた。

「翠さんが『初めての相手が蒼くんでよかった』って言ってたんですよ!ねえ何やってたの!?」

「いや、別に何も……」

「まあ、まあまあ、まあまあまあ!」

 母が非常に嬉しそうな声を出す。経験から言うと、こうなったら絶対にまともなことにはならない。

「どうりで二人して眠そうなわけね。あんなに奥手な蒼がとうとう大人になっちゃって……」

 どうやら爆発したのはダイナマイトではなく核弾頭だったらしい。蒼は口をパクパクさせるが言葉が出てこない。

「あ、蒼兄まさか本当に……!」

「翠さん」

「は、はい!」

 一方的に騒がしくなる中、父だけは冷静だった。予想外の声色に、翠も背筋を伸ばす。蒼も、父を見直していた。流石は一家の大黒柱、普段はボーっとしているが肝心な時には頼りになる。さあ、一言ビシッと言ってやってくれ(相手が違う気もするが)。

「不肖の息子を、どうかよろしくお願いします」

「あんたもかよ!?」

 前言撤回、やはり頼りにならない。

「翠も、何か言ってくれ!」

 だが、彼女は顔を赤く染めて苦笑するだけだった。蒼は、言葉を失った。

「まあまあ、これはお赤飯が必要かしら?」

「よし、北上さんのとこからもち米もらってくるか」

「あ、蒼兄が、蒼兄が……」

「あんたら全員、人の話を聞けえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 普段以上に騒がしい朝になった空野家だが、翠はその雰囲気に温かい安らぎを感じていた。




1 / 1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ