05 平気で思い出のアルバムをゴッソリ持っていくこの社会
俺は何をしているんだろう?
次々と顔が変わっていた。同級生の姿を眺めながら俺は、杉内の隣の席に座っていた。
「皆さん本日はこの同窓会にご集まり頂き、ありがとう御座います。」
高3の先生がマイクを持って挨拶をしていた。周りを見渡すと面影がある顔と全く面影がない顔がズラリと席に着席していた。そして、
その周りの人達の話しを聞くと、俺は一流会社に就職して働いているとか、結婚したとか、子供がいるとか皆、夢や希望に満ちている話しをしていた。
杉内は大学に出て卒業して3年前に某会社に就職したらしい、何だかこの場にいたら俺だけ取り残されている様な気持ちになる。俺は、何度も会社の面接を受けていたが未だに就職も出来ない、だからもう諦めて職安にも行かなくなってしまった、だから俺の心は閉ざされてしまって、何のやる気もなくなっていた。
だから、こういう同窓会で皆の生きる目標みたいのを聞かされると断然、成功している人間を呪いたい気持ちでいっぱいになっていた。
この場に居て何が楽しいのか俺には分からない。相手の自慢話しを聞かされたり、今幸福なんだよと聞かされたり。だから、そういうのを聞いていると余計自分が哀れに思えてきて、この場から一刻でも消え去りたいと思っていた。そして顔をうづくませて、その場をやり過ごすしていると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「小倉だろう!?久しぶりだな。」
そいつは児嶋だった。そして、その横と後ろには清水と黒田がいた。
この室内では一番仲が良いグループだった、いつもコイツらとゲームの話しやアニメの話しを授業中も休み時間も喋り続けてたな。学校終わったらまず黒田の家を経由して別のクラスの園田の家で皆集まってって感じでゲームをしていたな。
ロールプレーイングゲームや格闘ゲームやパーティーゲームまで色々。
俺はだいたい、やる方じゃなくて見ている側だったけどな。結構面白かったな~あの時は、その時の会話が面白いんだよ、やけに臨場感があって、誰かが間違って自分の爆弾に自らハマったり、格闘ゲームのやられ方が、おかしかったり「おい!?今空中飛んでパンチくらったら又空中飛んだんだけど、どんだけ飛べば気が済むんだよ!!」とか
見ているだけで面白いんだよ。あの時は、本当に面白かったな、でも高校卒業した辺りから現実に戻されて、もう大人だからってゲームやバーチャルの世界でもない所にいきなり放り出される。そして、その世界に出て初めて気づくんだよ、あの時
やっていた何の意味もないモノをどうして早く気がつかなかったのかって。
この現実の社会で通用するのは、生身に肌に感じる事なんだよ、現実のないゲームの世界何て何の価値もない。・・・児嶋が喋りかけてきた。
「まだゲームやってんの?」
「今はもうやってない。」
「俺も今はもうやってないよ。」
俺と児嶋の意見は一致した、そして、その他の人達の意見は、時々やると言う人もいたけど大半の人はやらないと言っていた。
でも何だかそれは、それで何か寂しい気持ちになった。あの時の思い出は、一体どこに行ってしまったのだろう。大人になるという事は、それほど酷なのだ。思い出のアルバムを数ページごっそり平気でむしり取られた様な感じだ、それで何が残るというのだろうか?
クラス一番のムードメーカーの山田が何だかまるくなっていた。今では結婚して子供も2人いると言う、話しが片隅の席から聞こえてきた。あの頃はクラスの一部のお笑い組の先頭に立ってクラスでドンチャン騒ぎをしていたのに今は、チョットその面影が薄れてきていた。
大人というか年数が経てば何故こんなにも変わってしまうのだろうか?俺だけなのだろうか?そう考えるのは・・・そう考えるなら過去は何の意味もないように思えてしまった。