19 やっとあの世に行ける
黒く生い茂った木が無数に暗さを際立たせている、
その森の奥に木で遮られていたが月の光で輝いてる一台の車が止まっていた。
その中の後部座席には、丸い鉄製の入れ物があり、その中には、練炭が入れてあった。ドアの内側には、ガムテープで密閉されていて、空気の穴が通らない程であった。そして、
男と女は、その中で睡眠導入剤を7粒程度手に取り一気に飲み干した。
「これでやっと行けるね。」
「そうですね、何かあっとゆう間だったような気がする。」
「何が?」
「・・・・人生が・・ですかね。」
「・・・・」
「生まれ変わったら、もっと何事にも動じない強い女性に生まれたいな・・・」
「・・・なれるよ、きっと・・・」
・・・・何にもない空間に俺は立っていた、そこには、白い色さえもなかった。形だと思って手に触れるモノは、すべて空洞と言うか触る事さえできなかった。
これが、あの世と言うモノなのか?俺は、誰かいないか懸命に探した。だけど、
誰もそこには、いなかった。そして歩いても、歩いてもキリの無い無限の道に俺は、疲れ果てて歩くのをやめにした。
誰もいない、何もない、何も出来ない、この空間に俺は、失望して、大きなため息を漏らした。
「何でこんな所に来たんだよ・・・・俺は、こんな世界は、望んではいない。」
俺は青い空も雲もない天井に目を向けて、大きな声で叫んだ。
すると・・・パッと目が開いた。
・・・あれ!?
俺は、車の中にいた、そして、助席の方からは、わめく様な大きな悲鳴のような声がした・・・すると、彼女が大声で涙を流しながら泣いて言っていた。
「良かった。良かった。私生きてて、良かった、良かった。」
俺は、車のあちらこちらを、くまなく見渡した。
(あっ!?練炭に火つけるの忘れてた。)
それより彼女が何故?泣いているのか、確かめたいと思っていた。そして、泣き止まない彼女の右肩に手を触れて、言った。
「大丈夫!?」
だけど彼女の涙は止まらなかった。
俺は、うしろに倒されていた運転席にもたれかかって、両手を頭の後ろに添えて、考え事をするかの様に表情の筋肉を落とした・・・・・・あれから何分くらいたったであろう。
あの薄暗くて不気味な森の中がコツコツと姿を変えていて。赤い朝日が山の方から、ゆっくりと登って行くと、小鳥の微笑するかの様な心地良いさえずりが森の中、全体へと響き渡り彼女のすすり泣く声とリンクした。(なんかまだ、ねみぃ~~なぁ。)そう
心の中で思ってると彼女の泣き声が止まった。
「ごめんなさい。」
彼女は、泣き声を抑えながら、ヒクヒクと音を漏らしていた。
「何が?」
「一緒に死ねなくて。」
「それは、俺が悪いんだよ練炭に火つけるの忘れてしまって、こちらこそ、ごめんだだよ、本当にゴメンね。」
「違うんです・・・・私、今死ななくてよかったと思ってるんです。」
「・・・そう・・でも何で?」
「私、さっき眠っている時に夢を見たんです。そして、ある男の人に出逢ったんです。」
「・・もしかして、例のマー君?」
「いえ・・・・別れた彼では、ありません。」
「じゃあ・・誰?」
そして彼女は何だか言いにくそうにして、やっとの思いで言葉が出る様にして言った。
「・・・・・ええっと・・・白馬に乗った王子の様な。」
「白馬の王子?」
「えっと違うんです別にバカにしているとか、そういうのじゃないんです。ただ、その・・・カレが言うんです。頑張っていれば必ず道は切り開かれる、だから君も無理しないでいいから、生きなさいって、そうしたら更に彼がこう言うんです。」
「はぁ。」
「君も私と一緒に来ないか、そこには、楽園があるって、そう言って、私の手を取りカレの後ろに座るんです。」
「はぁ。」
彼女は、涙の塩気で赤くなった頬をキラつかせながら、次第に顔が段々と明るくなってくるのが見えた。「だから、ごめんなさい。小倉さん、私、もう少し頑張ってみようと思います。」
「そうか、それじゃあ仕方ないね。」
「小倉さんは、どうするんですか?」
「俺か?俺は、どうしようかな?俺は、死にたいけどな。」
「そうですか、本当にごめんなさい。」
「いいよ別に、俺が悪いんだから。」
「私は、自殺するのを辞めたけど・・・・小倉さんに自殺しないで下さいって言う権利は、ありませんね。だから、と言って頑張って自殺して下さいって言っても・・・。」
そう言うと彼女は、この森に来る前に見た民宿があったのを思い出し、そこに行ってタクシーやら電車に乗って帰ると言い残し去って行った。
1人ポツリと車の中に残された俺は手と手を重ね合わせ頭をその上にのせて全体重をハンドルにかけゆっくりと目を閉じた。




