13 死神の父親って?
消灯した病院の灯は月の光を浴びて少しは、明るかった。
院内ではナースステーションと事務所だけ、あかりが灯っていた。夜勤で働いている看護婦たちは、たんたんと仕事をこなしている。その薄暗い病院の廊下に一人の人影があった。
事務所にいる看護師にばれない様にしゃがみ込んで明かりの無い場所に中腰になってスルスルと壁ごしを歩いた。そして、看護師の目を盗んで事務所の四角にあたる下の壁にもたれかかった。
その上の方からは、看護師たちの話しが聞こへてきた。
何だか穏やかだ。その
事務所をぐるりと回ると暗い廊下が目立っている。その薄暗い廊下をゆっくりと足音をたてずに通った。そして、スグ横の扉を開けると、布団のシーツがつつまれている部屋があった。
その場から長めのシーツを7枚ぐらい選んで手に持ち窓の方に向かった。そして、その横にあるシーツが置かれている。台の縦の棒にさっき手に取ったシーツをくくりつけドンドンシーツにくくりつけて、長くした。それを手に持って窓を開けると風がビューと勢いよく突き抜けた。
そして、結んで長くしたシーツをしっかり手にもち、そこから、
抜け出そうとした。2階から一気に降りて一回の半分まで来てそこから右足を強く踏ん張って左足から地面へと降りた。
(やっとここから脱出できたか。)そう心で思っていると、後ろから声が聞こえて来た。
ヤッベー見つかったか・・・・
「たかし、遅かったね、ずっと待ってたんだよ。」
それは、死神のこえだった。「何だよ、お前、何でここにいるんだよ!?」
「たかしがくるのを待っていたんだよ。」
「何で待ってんだよ?」
「別にいいじゃん・・・・それより、お父さんに会いに行こうよ!!」
「お父さん?誰の?」
「ぼくたちの!!」
「僕たちのってお前と俺のオヤジは違うだろ!!」
「ちがわないもん、同じだもん。」
「意味わかんねーよ、俺のお袋にも自分のお母さんっていうし。」
「いいから、行こうよお父さんの所に。」
「行こうよって言ったって今、夜の12時だぜ!!」俺は手首にはめていた、時計を見て言った。
「いいから行こうよ!!」
死神は大きな声でダダをこねていた。
「ちょっとウルサイよ!!静かにしないと病院の連中が来るだろう。」
「行こうよ~~!!行くって言うまで、ぼく大きな声だすからね!!」
「ウルサイよ、分かったよ、行けばいいんだろう行けば。」
俺は仕方なく死神の命令を聞くハメになったそして、真夜中の道を2人でひたすら歩いた。
「オヤジ起きてるかな?もう1時だぜ、眠ってるよ多分、オヤジ起きてなかったら怒っからな。」
俺がそう言うと死神は目をつぶって何やら考えてから目を開けて言った
「まだ、起きてるよ、ぜんぜん。」
「なんでそう言い切れるんだよ?」
「だって、ぼく分かるんだもん。」
「そうだよな~、なんでも分かるもんな、俺がどうしてるか、とか、どこにいっかやら、だって死神だもんな。」
「ぼく死神じゃないもん。」
「じゃあ何なんだよお前は?」
「だから前から言ってるでしょう。たかしのおにいちゃんだって。」
「なんだよそれ、またそれかよ。」
そうこうしている内にオヤジの家に着いた。
確かこのアパートの2階だったよな。もう何年振りだろうオヤジに会うのは、俺が23才ぐらいの時だったから、あれから4年ぶりぐらいだろう。それに
してもオヤジがいるのか?引っ越したりしてたりして、まあポストには、オヤジの名前が書いてあるから、大丈夫だろう、
問題はこんな遅くに来て起きてるかどうかだな。この家チャイムなかったのか、
俺は203の部屋のドアをノックして、「オヤジ、たかしだけど。」と声をかけた。
それを間をとって3回くらいやった。そして、じっと待っていると、扉がゆっくりと開いた。そして、その途端何やら悪臭の様な物が腐っているのかの様な臭いが部屋から外に放出された。
それと同時に頬がこけて無精ヒゲを生やした薄暗い気味悪い男が出てきた、
その男は俺の顔を見ると顔色がスゴク悪くなったのか分かるくらいに真っ青になっていた。
こんなにも表情に表れるくらい、あからさまだったので、何だか俺が来た事が悪かったのかと思えるホドに感じられた。俺が「オヤジと呼ぶと、その男はサッサと家の中に何も言わずに戻って行った。
俺も何も言わずに死神とオヤジの家の中に入った。周りを見渡すとゴミだらけで台所のキッチンの上にまでゴミが散乱していた。そして、その悪臭と酒の匂いでメチャメチャにされていた現状にその男は、埋もれていた。すると俺の後ろにいた死神は走って俺の横を横切って突然その男に抱きついていて「おとうさん!!」と言った。
すると、その男は急な出来事に目を丸々として驚いて「誰だよコイツ。」といった。それを聞いた俺は、「俺のアニキ。」
と冗談交じりに言った。それを聞いた、オヤジは、「はぁ?」と言わんばかりに状況がつかめずにいた。「たかし、コイツどこから連れてきたんだよ。」それを聞いた俺は、「俺にも分かんねぇ・・・。」と言った。そして、
まだオヤジの体にまとわりついていた死神にオヤジは「オイどけよ!!」と言ってもどかなかったので、手で死神の体を拒んで押し出したすると、近くにあったテーブルの角に背中を強く打った。
すると死神は、ハッと息を漏らし一瞬息が止まったようになってうずくまった。なんだか苦しそうだった。が俺は、死神の事だから大丈夫だろうと思っていたが、ホントに大丈夫か?
そして、俺は死神の背中をさすっていた。すると死神は、大きな声を出して泣いた。俺は、死神も泣くのか?と思い不思議に思ったが、オヤジの方は、明らかに焦った様子であやしていた。
やっと死神の泣き声が止まった頃オヤジは、静かに口を動かした「今日は何しに来た、それも、こんな遅くに。」
「コイツが会いたいって言ったからきたんだよ。」
「会いたい?この子供俺の事分かるのか?」
「俺も良く分からねぇけど俺のアニキだの、俺のお袋にまで、自分のお母さんだの言うんだぜ。そして、今回オヤジがコイツのお父さんだと、訳分かんねーよ俺も。」
「何だかメチャクチャな話しだな、それで、俺の家まで来たのか?」
「そうだよ、コイツに振り回されているんだよ。どうにかしてくれよ。」
「・・・・・・。」
オヤジは黙って机に置かれているコップに手を掛けて、中に入っているモノを飲んだ、多分酒だろう酒の瓶が横に置かれていた。
「オヤジ、酒ばっかり飲んでたら、アル中になるぜ。」
「もうなってるよ・・・・最近、酒を切らすと手が震えるんだよ。」
「大丈夫かよ。」
「心配してるのか?」
「誰が?」
「お前がさ。」
「まさか・・」
「恥ずかしがるなよ。」
「そんなんじゃねーって。」
「冷蔵庫の中にジュースあるからコイツに飲ませろよ、お前ビールでいいか?」
そう言うとオヤジは、少し体をふらつかせながら、冷蔵庫の前にあったゴミ袋を寄せて、冷蔵庫から炭酸飲料とビールを取り出そうとしたが「俺もジュースで良いよ、」と言ったのでその炭酸飲料水だけを取り出した。
俺はジュースを飲みながら、何故酒しか飲まないオヤジの家にジュースが置かれているのに疑問があったので、別に他に話す言葉もなかったので何故ジュースが冷蔵庫にあるのか聞いてみた、するとオヤジは、「たまに飲みたくなるんだよ。」と言ってコップに酒を注いで飲んだ、すると喉からゴクッと音が鳴った。そんなに大量に酒を口に含むと喉がやけつくんじゃないかと思った。それでもオヤジは、それを何度も繰り返し、目をテレビの方向に向けて、その動く模様をひたすら、眺めていた。
2人共話す言葉が何も見つからなかったので俺もひたすら、テレビの画面に目をやった。
死神もまぶたを赤くして、ジュースをモクモクと飲んでいた。