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バックラーの俺に青春なんてありえない。  作者: Io
バックラーとしての日常生活
4/5

俺が先生に従うなんてありえない。

月曜「うっす」


俺「またお前か。死ねよ」


月曜「……これでいいんだ。(ボソ」


俺「は? どうゆう意味だよ」


月曜「俺が日曜の次をやっていれば、火曜は責められなくて済むからな」


俺「お前……っ… …まさか火曜のこと……」


月曜「……そんなんじゃねぇよ」




 俺は昔からそう考えていたため、月曜は嫌いじゃない。大嫌いなのは月曜を見殺しにし、週末も遠い火曜水曜だ。

 この二日間はどんなことがあっても憂鬱になるし、常識という名の狭い檻に閉じ込められてどうにもできない、やるせ無さを痛感させられる。

言うなれば火曜、水曜は"鬱日(うつび)"なのである。(俺が適当に名付けた)

 だがしかし。俺は二日目の学校も見事に乗り切り、"鬱日"から完全勝利を果たした。

 そして、計12時間の悪夢のような授業からもようやく脱することができた。

 ……といっても、そのうち8時間は保健室かトイレに行ってたし、まだ明日明後日と学校があるんだけどね。


俺はいつも通り他のことには目もくれず、一目散に下駄箱へ向かった。


「下小坂くん」

 昨日と同様、またも廊下で声をかけられた。

 呼ばれた方へ振り向くと、にこやかな顔で俺の顔を覗く"白鷺高校優しさの象徴"原野先生が立っていた。


「昨日、何で帰っちゃったのよ〜。職員室来てくれるって言ったのにぃ」

 可愛らしい仏頂面をして原野先生は言った。


「あぁ……すいません。忘れてました……」


「わ、忘れて……た……?」

 一瞬固まる原野先生。


「ま、まぁ……っいいよ! じゃあ昨日のことも話したいし、とりあえず場所変えない?」


「……え……まぁわかりました」


「じゃあ、ついてきて~」

 手を何回か曲げて俺を手招きする。

 え。どこ行くのこれ。今すぐ帰りたい極まりないんだが……。

 いや、ちょっと待て。母さんが帰って来るのっていつだっけ。……やべ、今日だ。まじかよ……っ!

 ま、まぁ、今現在は俺に恥じることなんてないから大丈夫だよ……ね?


 他のことで頭がいっぱいな俺を他所(よそ)にスタスタと歩いて行く原野先生。

 ついには本校舎から出てしまった。 そのまま渡り廊下を通り、孤独感に満ちあふれていると有名な別校舎に入って行った。

 何故か無言が続く。でも、俺は無言が嫌いというわけではない。

 そもそも、無言だと気まずいという普遍的概念は「なにか喋らなきゃ」という気遣いによって生じる。

 そんなもの、はなから持ち合わせていない俺にとってこの状況はたまたま電車で乗り合わせてしまった他人と何ら変わりはない。


「ここ、入ってね」

 原野先生はようやく立ち止まって、ある教室を指差してそう言った。


"生徒特別指導室"


 俺は教室の名前を見て、目を見張った。


(何が始まるの……?)

 俺はからりと戸を開け、その教室に入る。

 すると、椅子二つと机一つだけが置いてある殺風景な部屋が視界に広がった。


ガチャ


 そんな俺を背に、施錠音が聞こえ背筋が凍る。


「……えっなんで鍵締めるんです?」

 俺は振り返って、原野先生に尋ねた。


「あ"ーー。疲れた」


「……はい?」

 俺は困惑しながらも聞き返す。

 "白鷺高校優しさの象徴"からは、どんなことがあっても発せられるはずのないオヤジの雄叫びみたいな溜息が聞こえたんだけど?


「いいから、そこに座れ。」

 今までの原野先生からじゃ考えられない口調で命令される。


(……っ!……え、これどんな状況!?)


 未だ現状を把握できないが、とりあえず怖いので言われた通りに座る。



「お前、喧嘩売ってんのか」

 腕を組んで、椅子にふんぞりかえる原野先生。


「学校をサボって、定期テストもサボりやがって……今のお前の成績知ってるか? 12教科の平均評定5段階で1.4なんだぞ」


……俺、現状がまだ把握できない。


「お前今のままじゃ進級できねぇのわかってんのか? なのに、昨日もバックレやがってたなおい」


……ごめんまだだわ。


「挙げ句の果てには忘れてただぁ? お前は2、3分前にあったことも忘れちまうのかよ。いつまでもちょづいてっとマジでヤキ入れんぞ?」

 完全に肉食獣と化している原野先生は俺の知っている先生ではなかった。


……うん。把握しました。


 と同時に頭から脳みそが吹っ飛んで生物界唯一、人間だけが持つ思考が完全に停止し、"無"になる。


「私はなぁ、この世で一番"無視"と"バックレ"が嫌いなんだよ」


 我に返った俺はまず思った。

 『なんで俺の周りには二重人格しかいないの?』ということを。まぁ、そもそも俺の周りには母さん、未槻、先生しかいないんだけどね。


「お前、"義を見て為さざるは、勇なきなり"って言葉知ってるか?」


「……いや、知らないです」


「正しい行為と知りながら行動しないのは、勇気に欠けている証拠であるという意味だ。これはな、孔子が言った言葉で私がまだ未熟な時に、ある人から掛けてもらった言葉なんだ」


「いやぁ、良い言葉ですね」


「はぁ~……」

 完全に先程の勢いがなくなった原野先生は、額に手をあてて弱々しく溜息をついた。


「お前の人間性を根本的に改善しないといけないということがよーく分かった」


 いや、何それ。俺、ちゃんと良い言葉だと思ったよ? ……たぶん。


「よって、お前には"クリーン運動実行委員会"加入を命じる!」


 ……はい? なんですかそれ。


「サボったり、辞めた場合は……これだ」

 原野先生はそう言って、自らの首を右手の親指で指差し、左から右へとゆっくり横に()った。


「……退学(クビ)ですか?」


 理不尽にもほどがある。


「よくわかってるじゃないか。偉いぞ」

 そう言って、俺の頭部を鷲掴みにする。


(……どゆこと!? そこは撫でるもんじゃないの!?)


「あと、ないとは思うが……私の本当の性格をバラせばどうなるか……わかるよね?」

 にっこりと微笑む原野先生は鳥肌もんだった。





1話大体2000文字から3000文字です。


これからもそれで統一していこうと考えています。

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