五月七日・5
――判っていることは、多くはない。
桜花はのんびりとした足取りで、目的の場所へと向かう。
この側にある大学の学生が二人。四月末と五月頭から消息が掴めない状況にある。
また、それ以前に一人、共通点の見当たらない人物が同様に消息不明になっているらしい。自分が今こうしてここにいるのはその一人が発端だったが、その時の残滓を視ることが出来ていれば、現状よりももう少し進展が見られていたのだろう。
厄介なのは、犠牲者であると推測される人間の亡骸なり痕跡が一切残っていないことだった。
死体の一つや二つが残っているのであれば、もっと多くのことを読み取ることが出来るし、核心に触れることはそう難しくなかったはずだ。だが、そう言った物が無い以上、現状その場に漂う残滓から情報を得る以外に手段がなかった。加えて、そうして得た情報も、事象の痕跡が朧気になりつつあったため、いま一つ手ごたえを感じることは出来ていない。
はっきりとしているのは、探している相手が人間であること、死体の痕跡を残さずに処分出来る力を持っていること。その程度だった。それを補うために、経験則と直感、それと数少ない状況証拠から導かれた推測を立てたものの、どうにも上手く行っていない。
と言うのも、足取りが掴めない三人にはどうも――
「桜花さん」
考えをしているところに名前を呼ばれ振り返る。
「ん、どうした?」
「え、いえ……別にどうしたってわけじゃないんですけど……」
言葉を濁す恵那を見て、桜花は胸中で微かに笑う。
概ね先の少年との会話が続かずに、逃げて来たのだろう。
「と、ところで、用事って何なんですか?」
話の矛先を変えようとする恵那に背を向けて、桜花は林の中へと入って行く。
「必要な物も手に入ったことだし、罠を仕掛ける」
「罠?」
「五月の件は恐らく結界が利用されている。ざっと辺りを確認してみて、結点の場所も検討がついた。四六時中張り込むのは現実的でないし、強く警戒されては元も子もない。仕掛けるだけ仕掛けて一先ず様子を見る。次に結界を利用した場合に、痕跡くらいは残して貰うとしよう」
――もっとも、五月の件と同じであれば、の話だが……
桜花は抱える懸念を表には出さず、目的の場所へと進んで行った。