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五月十一日・3

 桜花は運転席から、明滅を繰り返す古びた外灯を眺めていた。

 辺りに人気ひとけはなく、ひっそりと静まっている。傍らに並ぶ建物は、元々利用されていないのか、この時間だからなのか、明かりが灯っていなかった。そのため周辺には暗闇が広がっていて、弱々しい車内灯と壊れかけた外灯が頼りなく存在感を主張している程度だ。

 後ろに座る秋慈があまり興味なさそうに話し掛けてくる。もっとも、この男の場合、普段からこの調子なので実際のところは良くわからない。

「全く。面倒くさいことをするもんだな。付き合わされる俺の身にもなって貰いたいもんだが」

「それに関しては感謝しているよ」

「……どうだか。ところで、お前は行かなくていいのか?」

「恵那の側に私が居たら、あの子の声は届かない」

「椚の身は心配じゃないのか?」

「……保険は掛けてある」

 そう言って桜花は外へ出ようとドアを開けた。それを見た秋慈が尋ねる。

「今更何処行くつもりだ?」

「喉が渇いた。飲み物を買ってくる。何か要るのならついでに買ってくるが」

「……コーヒーがあったら、適当に頼む」

 桜花は後ろ手にドアを閉め、深く息を吐き出した。暗がりの中を歩き出す。

 恵那を一人で行かせたことに関しては全く後悔していなかった。秋慈にも答えた通り、自分が側にいることを玖珠葉に知られれば、その時点で彼女は恵那の言葉に耳を貸さなくなるだろう。それでは恵那の目的は絶対に果たされることがない。

 恵那は玖珠葉に過去の自分を重ねている。

 桜花はそのことを知っていて、尚且つ性質の悪いことにその気持ちが分かってしまうから、秋慈の言うように面倒くさい事になっても、恵那の行動を阻止することが出来ずにいた。たとえそれが、分の悪すぎる賭けだとしても。

「気持ちが分かってしまう、か……」

 ぼそりと独り言ちる。

 桜花はここ最近に知り合った少年のことを思い返した。

 昔の自分に似ているからと言って、彼がその時の自分と同じ思いでいるとは限らない。彼は彼であって、自分ではない。だから自分を省みてあれこれ干渉しようとするのは意味がない可能性もある。恵那にしてみてもそれは同様だ。

 しかし、それでも、と気がかりであることは変わりがない。

 ――いっそのこと視てしまえばはっきりするのだろうが……

 バス通りに近づくと、道を行く車や道路に面した店舗の電飾が夜の闇を遠ざけていた。傍の十字路の角にコンビニエンスストアを見つけ、そちらへと向かって歩いていく。

 そこでふと、桜花は足を止めた。

 前方に見えるあの人影は――

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