五月九日・5
耀は唐突に通話の途切れた携帯を片手に、眉をひそめていた。
遼平からの電話だったが、通話状態が酷く殆ど聞き取ることが出来なかった。かろうじて聞き取れたのは『二人で』という言葉と――
「……殺さ……れる?」
しっかりと聞き取れはしなかったが、そう聞こえた気がした。
何の冗談だと思う一方で、明らかに不自然な切れ方をしたことが気にかかる。通話の最後には何かが潰されるような音すら聞こえていた。
直後に折り返しでかけてみたものの、一向に繋がる気配はない。
それにしてももう一つ気になるのは、あの酷いノイズだ。おかげで殆ど会話が聞き取れなかった。ノイズの乗り方も、電波状況の問題ではないように聞こえた。あれでは文字通りのハウリングノイズ――
『――電話してたら犬の遠吠え? みたいなのが聴こえたことがあったな、と思って』
と、そこまで思い至った瞬間、耀は連休中に遼平が言っていたことを思い出す。
それからここ数日の、幾つかの要素が結びついていく。
そうすると『二人で』というのは公園のことを伝えたかったのだろうか。
「……」
不自然な切れ方をした通話。掛けなおしても掛からない電話。公園と行方不明者。
あまりに遠い世界の出来事に思えてしまうが、さすがに全く気にならないと言えば嘘になる。なにより、遼平から電話を貰って置きながらこのまま無視して万が一のことでもあれば、いくらなんでも目覚めが悪そうだ。それにあの声が演技には思えない。
とりあえずは警察に――
――いや、待て。
そもそも何故、遼平は自分のところに掛けてきたのだろう。その手の危機を訴える所への連絡など、当の本人がしているはずだ。その上でこちらに掛けてきた可能性もあるが、切羽詰っていそうな状況で、理由も無く只の友人に掛けてくるだろうか。
場所が例の公園であるなら、一番近くに居そうなのが自分だったからか。あるいは自分である必要があったのか。生憎そんな必要性を帯びているとは思えなかったが。
携帯を使っている以上、自分以外に連絡を取れないわけではなかったのだとは思う。しかし――
考えていても埒があかない。
結局、耀は鍵を取り出し外出する準備を整え始めた。
外に出ると静けさが闇に融けていた。見慣れたはずのその風景が、何故だか嫌に不気味に映った。




