五月九日・2
恵那は大学を後にして、これからどうしようと考えつつ駅の方へ歩いていた。
箕柳玖珠葉という女性を探して、彼女が通っている大学へ行ってみたものの、どうやら彼女は休みらしかった。
そのことを教えてくれた学生から逃げるようにして今ここに居るが、冷静になって思い返してみると悪いことをしたと自責の念に駆られてしまう。
直さなければいけないと思いながら、中々改善しきれな自分の性格に、恵那は疲れた様子でため息をつく。
以前に比べればましにはなったが、あの手のタイプの人間は未だに苦手だ。どうしてああも見ず知らずの人に臆さず話せるのだろう。
――あんな風に話すことが出来れば、もう少しは桜花さんの役に立てるのに。
無い物ねだりをしてもしょうがないとは分かっていても、ついそんなことを考えてしまう。
――そう言えば……
ふと、恵那は先ほどの情報をくれた学生と以前一緒に居たもう一人の学生を思い出した。
今思えばあの二人は対照的に思えた。未だに名前を知らなかったが、何度か会ったあの彼は積極的に話しかけてくることをしなかったように思う。行方不明者の話をしたときも、自分が訊かれると思っていたことに対してすら質問されることはなかった。明らかにこちらに対しての関心が薄く、その無関心さは自分にとって興味を惹くものだった。
珍しく自分が第三者に言葉を投げかけたのも、そのせいだったのかもしれない。
しかし改めて思い返してみると、やはりあの二人には接点らしい接点が見当たらない気がした。だからと言って二人が友人であることを否定する理由になるわけではないが、何となくその組み合わせは不思議だった。
――何にしても……
玖珠葉が大学に行っていないのであれば、当面恵那がすることはなかった。
とりあえず桜花と合流しようと思い、携帯を取り出す。
桜花は箕柳玖珠葉の自宅へ向かっているはずだ。あちらはどうだったのだろう。
「――あ、もしもし。桜花さん?」
「いやに早いな。見つかったのか?」
「いえ、それが、箕柳さん休みだったみたいで。桜花さんの方はどうでした?」
「こっちはまだ向かっている途中だが……箕柳は昨日も休みだったのか?」
「あ……ど、どうだったんでしょう……ごめんなさい、訊くの忘れてました……」
「そうか。まぁ恐らくは休みだったのだろうが……とりあえずこちらを確認してからもう一度かけ直す。恵那は一先ず墨咲橋の方へ来てくれ」
「あ、はい。わかりました」
通話を切ってから、恵那は空を仰いだ。
言われてみれば昨日も休んだかどうかを訊いていなければ意味が薄い。思わず逃げるようにしてあの場を離れてしまったことを今更ながら後悔した。
戻ってみようかと一瞬頭を過ぎったが、先刻の学生がいるとも限らず、新たに他の人に声を掛けることが出来る気はしない。
結局、恵那は桜花に言われたとおり墨咲橋へと向かうことにする。
ここ一ヶ月で何度か通ったバス通りを、そのきっかけになった事件を思い出しながらぼんやりと進んで行く。
四月の下旬にいつものように仕事を依頼された。
内容は『とある人物の行方を探る』と言うもの。別に自分たちに取っては珍しくもない依頼内容だった。
ただ、探ると言ってもその人物の安否だとか、結末だとかを調べる必要は特になかった。大抵は結果論的にその事情を知ることにはなるが、自分たちに必要なのは、その原因を突き止め、それ以上の被害が出ないよう解決すること。
もっとも、その原因が一般社会の問題であれば、それを依頼主に伝えて警察なりに任せる。自分たちの役目はそこまでだ。この手で解決する必要があるのは、一般的に認識されてる人間社会の領域外の問題であった場合だ。
今回は後者なのがはっきりしているが、未だに根本的な原因に行き着いていなかった。
一人目も二人目も、三人目の行方も分からないままだ。恐らく生きてはいないのだろう。昨日のあれが四人目の犠牲者を示しているとすれば、その人物も恐らく――
そのために、今こうして箕柳玖珠葉を捜しているのだが、果たして見つかるのかどうか。
恵那は彼女のことを考えると胸が痛んだ。話したこともない相手だったが、彼女はまるで――
「っ……と……はい、恵那です」
桜花からのコールが入り、恵那は慌てて通話に出た。
「箕柳玖珠葉だが、聞いていた住所には居る気配がないな。まぁ、もっとも大学を休んでいるからと言って自宅にいる保障があるわけでもない。それ自体はおかしなことではないと思うが……」
「……どうしましょうか?」
「そうだな……私はしばらくこの辺りで様子を見てみよう。恵那は墨咲橋についたらその近辺を適当に探ってみてくれ」
「わかりました」
通話を終えて、恵那は髪飾りの装飾糸を弄り始めた。
――さて、どこから見て回ろうか。




