#3
来た道を戻っている筈なのに、
一向にでこぼこ道を抜けない。
「ね…ねぇ、さっきから同じトコ走ってない?」
と吉田さん。
言われてみれば、さっきからずっと同じ道を走っているようだ。
道の端にぽつりと立つ、不気味な祠を何度も見ている。
―ここを抜けたら助かる。
神様仏様!
生きて帰れるのならなんでもします!
だから、私達を無事に帰してください!
冷静な時でこそリアリストな無神論者を気取っている私だけど、
この時ばかりはブルブル震えながら祈ることしかできなかった。
「うわぁ!」
野村さんが短い悲鳴を上げた。
前に目をやると、鼠ジジイがものすごい形相で立っていた。
右手には鎌を持っていて、
それが車のライトに反射し、鋭く光っていた。
「キャーッ!」
―キキーッ!
野村さんが急ブレーキを踏む。
山内さんの声に顔を上げる私。
…そこにはライトで照らされた暗い山道があるだけだった。
「あれ…爺さんは?」
気づいたら、外はすっかり明るくなっていて、
新青梅街道を新宿方面に走っていた。
Aの駐車場に着いたのは朝の6時。
吉田さんと山内さんが車を降りると、
「じゃ、俺は吉田さんを送るから。」
と山内さんが言う。
私は
「気をつけて帰ってください…」
と返して、二人と別れた。
私の家に着き、
ありがとう、と野村さんにキスをした。
「気をつけて帰って。帰ったら一言でいいからメールちょうだい。」
「あぁ…わかった。」
私は車を降り、玄関をくぐった。