#2
前方からこちらに向かってくる人がいた。
黄色っぽいジャンパーのフードを被っている爺さんである。
先ほどの鼠ジジイとよく似ている。
「…あ…あれ。さっきのお爺さんじゃない…?」
顔が青くなった吉田さんの言葉を、
「まっさかぁ!狭山湖から奥多摩まで、徒歩で来たってのかぁ?さすがに無理だろ!」
と笑い飛ばす野村さん。
ついさっきまで喋りっぱなしだった山内さんは黙りこくっている。
爺さんは歩くのを止め、こちらをじっと見た。
私は顔を見るのが嫌で、顔をさっと伏せた。
「そうだよ!やっぱりあの爺さんだよ!」
吉田さんは涙目で叫ぶ。
「そんな馬鹿な…」
野村さんが震えた声で言う。
車は更に山奥へと進んでいく。
道が悪く、車の揺れがひどい。
突然、かけていたBGMが止まってしまった。
「チッ…こないだオーディオ変えたばっかなのにもう壊れやがったか?」野村さんが舌を鳴らす。
助手席にいた私は、何度も再生ボタンを押したり、
違うMDに替えたりしたが、全く動かない。
―これってさっきの爺さんとなにか関係があるのでは?
そんな考えが私の頭をよぎり、背筋が寒くなった。
ずっと黙っていた山内さんが口を開いた。
「野村君、帰ろ。」
吉田さんもそれに続く。
「そうだよ、ヤバいって」
「…うん。そうだな。」
野村さんは、側にあった空き地で車をUターンさせ、来た道を戻った。
私は恐怖でがたがたと震えながら、
車に置いてあったあざらしのクッションを抱きしめていた。




