#1
八月の暑い夜。
A本社の社員で、他店の副店長であり、
私の彼氏である野村さんと、同僚の山内さん、
それから同じ店の吉田さんと私の4人で、ご飯を食べに行った。
野村さんと山内さんは、新入社員の頃、うちの店に研修に来ていた。
それ以来、たまにみんなで会って、遊ぶ仲になっていた。
集合場所であったA店に着いたのは夜11時。
このまま解散かと思いきや、
「山内さんが車買ったし、みんなで試乗しよう」という話になった。
4人は山内さんの新車、キューブに乗り込んだ。
暗く、人通りのない狭山湖沿いの山道を走っていた。
4人は真夜中のナチュラルハイに身を任せ、
「この道出るらしいぞーアハハ!」
「霊でもうんこでもなんでも出てこい!」
などと笑いながら話していた。
しばらく車を走らせていると、
30メートルくらい先の歩道に、こちらに向かって歩く人がいた。
私たちが乗る車のライトで照らすと、
くすんだ黄色っぽいジャンパーを着た爺さんだということがわかった。
フードを深く被っていて、その姿は、“ゲゲゲの鬼太郎”に出てくるねずみ男を思い出させる。
―あの人、暑くないのかな?
私は不思議に思って見ていた。
鼠ジジイは、すれ違いざまに立ち止まってこちらをじっと見た。
顔をちらりと見ると恐ろしい顔をしている。
私は寒気がした。
ほかの3人は、
「あの爺さん、気味悪いな」
「このクソ暑いのにジャンパーなんか着ちゃって…」
「ボケた爺さんの徘徊じゃん?」
と笑い合っていた。
狭山湖を一周して、また店に戻ると、
山内さんが
「次は野村君のビッグホーンでドライブしよう!」
と言う。
4人でビッグホーンに乗り込んだ。
今度は少し遠くの奥多摩の方に車を走らせた。
私が通っていた青梅の高校を過ぎ、
宮ノ平のコンビニで買い物をし、
くねくねとした山道へ入って行く。
狭山湖よりも暗く、人通りは愚か、車通りも少ない。
明るく笑う私たちや、BGMにしているJudy and Maryのポップな曲調とは相反している。