後輩の家④
想像できるだろうか。
起きたら目の前に、アニメキャラのようなイケメンがいる状況を。
「…………おはよう?」
秋子はなんと言えばいいか分からなかった。とっさに出たのは、挨拶だけで。
「おはようございます、秋子先輩」
春斗はニコニコと笑っている。この笑顔が見られるなら、お金をいくら払ってもいいと思う女の子は多いだろう。
(……私なんかにはもったいないな)
どうしてもそう思ってしまう。と、そのとき。彼女のスマホが、ポケットの中で震えた。
「……あ、ごめん」
ひと言断ってから、スマホを取り出す。待ち受け画面に表示されたのは、雪也の名前だ。
「出ていいですよ」
迷う彼女に、彼は笑顔で声をかける。秋子は震える手で、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
「荷物いつ引き取りに来るの?」
思考が止まった。雪也はかまわず話し続ける。
「邪魔なんだけど。夏海も早く引っ越したいって言ってるし、早く持っていってくれよな。家具とかはもちろん、そのままで。俺も金を出したやつだし、このまま使い続けたいから」
勝手すぎる。そう言いたかったのに、口がうまく動かない。
「……分かった。すぐ行く」
結局、出てきた言葉はそれだけだった。そばにいる春斗が、心配そうに眉を寄せる。
「1人で大丈夫ですか?」
「……うん、多分……」
「でしたら、せめて車で送りますよ」
「いいよ、そこまでしなくても。須東くんは忙しいでしょ」
「僕がやりたいんです。今日は日曜日で、会社も休みですし」
強く押されて、秋子は迷った。
(車があったほうが、ありがたいのは確かだし……)
自分の食器。メイク用品。本やマンガ、グッズなどの私物。どうまとめても、段ボール1箱では収まらない荷物のことを思い浮かべて、彼女は目をあわせずに答える。
「……じゃあ、お願いしようかな。ごめんね、泊めてもらえただけでもありがたいのに……」
「先輩のためなら、なんでもしますよ」
「こら。ダメだよ、そういうこと言っちゃ」
秋子はゆっくりと起き上がって、春斗に軽くデコピンした。彼が目を見開く。
「君は須東グループの社長でしょ。しっかりしな」
そう言って、彼女は顔を洗いにいく。残された春斗は、相手の指で弾かれた場所を、自分の手のひらで押さえた。
「……ふ。ふふ……」
我ながら、気持ちが悪いとは思う。それでも、彼女から思いやってもらえたことが嬉しくて。彼はつい、笑ってしまう。
「本当に、あなたの言動だけは読めないな……」
気を抜くとゆるむ頬を、無理やり引きしめて立ちあがる。そして春斗は、彼女が戻ってくるまで待った。




