月まで
「うぅ、寒すぎる。明日はどうにかしないと、さすがにやばいぞ」
真っ暗なレストランの片隅で一人の青年が毛布に包まって丸くなっていた。この青年は少し前までは窓際のソファー席で横になっていたのだが、割れた窓から入ってくる風があまりに冷たくて部屋の奥の方へと避難してきた所だった。
「客室の方に行ってみるか? いやいや、さすがに危ないか」
青年は足元の暗闇を見て諦めた。もう少し月明かりがあればフロントや客室の方も探索出来たかもしれない。だが、今日はあいにく月が顔を出していなかった。
「我慢するしかないか。あーあー、早く朝にならないかな」
青年のいるこのレストランはビジネスホテルに併設されたこじんまりとしたレストランだった。店内にはソファー席が四席と向かい合わせとなったカウンター席が八席ある。不運な事にほとんどの窓は割れており、そこからは始終冷たい風が入り込んでいた。青年にとって幸運だったのは、レストラン入り口の鍵が壊れていなかった事と比較的綺麗な状態で建物が残っていた事だ。人間がいない世界でも鍵をかけるという行為は心理的に安心出来た。また、天井が落ちてくる心配が無い寝床というのも理想的だった。
「今は何月なんだろう。冬はつらいぜ。うぅ、寒い寒い」
青年は身を震わせながら言った。それから芋虫のように地面を這ってソファー席のテーブルの下に潜り込んだ。そこはなかなか良い場所だった。テーブルが風を遮ってくれるし、なにより天井が落ちてきても安心だ。
「おやすみなさい」
青年は誰に言うでもなく呟いた。




