第30話
「是明さま、白紙300枚と、100枚入る保管袋を3つ、それに金貨500枚でお許しいただけますか?」
こいつの汗は止まらねぇな。
その布、ハンカチじゃなくて雑巾だろ。
色でバレてんぞ。
「何だ? 正当な要求だろ?」
「これですとなかなか苦しいのが正直なところでして」
「貸しも払えねぇヤツだよな?」
「ごもっともでございます。さすが是明さま見識が高い。お見それしました」
おいおい、土下座かよ。
俺以外なら頭潰されてんぞ?
無防備なヤツだ。
「それじゃ金貨500枚だけは前払いな?」
「え? は、はい」
商売人はいつでも目に光はあった方がいいぜ。
多分な。
「わかりゃいいんだよ」
おっ結構重量があるな。
500枚まとめては久しいぜ。
ポコポコと在香、それとリリーにそれぞれ100枚ずつ回すか。
「いちおう準備もございますので、いつごろになるかご教示いただけますと幸いです」
「まずは半分になった時点でベルを鳴らす。それでどうだ?」
「非常にありがたく存じます。まったく問題ございません。お手数をおかけしますがお願いいたします」
「これで決まりだな?」
「はい、ありがたき幸せでございます。それとこちらが、目ぼしをつける魔道具と、件数をカウントする魔道具です」
「どう使うんだ?」
「かざしてみると、その人物が赤く見えます。抜き出すとカウントされます」
「白紙の存在証明と入れ替えたらどうなんだ?」
「鋭いです。それも可能です」
「それじゃ消す意味ねぇんじゃ?」
「存在証明が汚染されているらしいです」
「……じゃあ“腐ってる印”みたいなもんか」
「今に始まったことではなく、以前からのものとお聞きしています」
「ああ、そういう事か。なるほどな」
「お任せいたします」
「生殺与奪、好きにするさ」
「それではお願いいたします」
商談は終わりだ。
三人とも仲良く出入口までいく。
が――
エリザを呼び止めた。
「なんでございましょうか。何なりとお申し付けください」
「ああ、オルツな」
抑えきれないのか?
目が完全に開いたぞ?
こいつ相当沼っているな。
「私も聞いたことがございます」
「ああ、良かった。
そこに関わっている商人がいるらしい」
「左様でございますか」
「女神の逆鱗に触れないようにな」
表情は変えないのは見事。
でもな。
生理現象は止められないだろ?
汗がジワリと吹き出し始めたぜ?
「それは、その商人に伝えるのですか?」
「ああ、そうだな伝えられたらな」
「そうした伝手はあるかもしれませんが、期待なさらないでください」
「その程度でいい。じゃあな」
「はい。是明さまも息災で」
去っていく。
先の見通しなんざ、だいたいついてる。――わかってて、どう動く気だ?
多少の命綱くらいは渡してやっただけだ。
俺はそれでもヤツの存在証明を抜く時はまだ遠いと思った。
――まだ“線”を越えちゃいねぇ。
抜くのは、奴が本当にどうしようもなくなってからだ。
◇
「な、奇抜だろ?」
「すごい方ですね。なんというか別の方向に全振りといった感じです」
自然な速度で並んで歩く。
奇妙だな。
心地いいじゃねぇか。
久しいぞこの感覚。
「ああ、その認識であっている」
俺たちは執務室へ戻る傍ら、先の話を振り返る。
喫緊の課題もねぇ。
徴税局側の急ぎの依頼もねぇ。
なら、受けるに限る。
比較的長距離だからな。
外界届が必要だ。
許可なんていらねぇ。
単に所在地を伝えるだけだ。
まぁダメだと言われてもいくがな。
「ついたな。あいつらいるか?」
「そうですね」
扉をあけると腰に飛びつく金色の髪。
ポコポコだ。
「是明だぁー。遅い〜じゃん? ねぇ? 何してたの?」
「ああ、エリザと商談だ」
「ほんとにぃ? リリーとHなことしてたんじゃないの?」
「してほしいのか?」
「はぁ? バカなのねぇ? バカなの?」
顔はゆでだこだな。
顔をうずめて腰を叩くな。
「あら、早かったのね」
在香はいつもどおりだ。
「ああ、そこで皆に話だ」
ソファに集まり、皆が座ったところで金貨100枚ずつ渡す。
ポコポコ、在香そしてリリーにだ。
「「「えぇぇー!」」」
おいおい、皆ハモルなよ。うるせぇ。
「言いたい事は後な」
「今のは、前払い金の山分けだ。残り二百枚は予備な」
「出発は、最短1週間後目標」
「できれば全員がいい。ポコポコは登場型ゴーレムを試すといい」
「リリーは完全に前衛スタイルだから維持。在香はオールマイティだからサポートいけるか?」
「ポコポコは登場型ゴーレムで後衛だ」
「目的は、汚染された存在証明の消滅だ。勇者その者を消す」
「まずは以上だ。質問聞くぞ」
はい! とポコポコだ。
「ねぇ。アウリア大陸はここと違うんだよねぇ?」
「ああ。神威が溶けているらしいな」
「あたしの魔力はどうなっちゃう?」
「ああ、影響ないぜ。むしろ少しつぇんじゃねぇ? な? リリーどうよ」
「はい。この官僚区の住人の方は、恐らく一騎当千に匹敵します」
「だとよ。ポコポコ他には?」
「また気になったら聞く」
はいと在香が手を上げる。
「届け出はだしたの?」
「ああ、飯食う前にな。お前のも一緒に出した相棒だからな」
「そう。それならいいわ」
あれ?
在香さん?
耳赤くして熱か?
そんな体調不安定で大丈夫かよ。
なんだ?
質問ねぇのか?
「今他に気になることは? 離れたらしばらく戻れねぇからな」
リリーが遠慮がちに手を上げた。
「どうしたリリー?」
「今回の依頼主は女神さまでしょうか? 何か違うような気がして」
「知らねぇな。本人に聞くのもいいが聞いてどうする?」
「はい。女神が依頼主であれば間引きしても、弊害は少ないかと思います。
ですが、それ以外となるとどこかの権力の片棒を担ぐのでリスクが大きいかなと思いました」
「なるほどな。一理あるな」
「他には、いえ大丈夫です」
ここで在香が言う。
「派手に消してしまうと大騒ぎになるのでは?」
「俺の是零掌は、存在証明を抜くと粒子化する。
かなり眩いものだ。ゆえに見かけ上は問題ない」
「それもそうね。あれ見て悪の力って到底思えないのよね」
「だろ?」
「どちらかというと、救いに見えるかしら?」
「いいこというな」
存在証明失ったヤツなど知らねぇな。
てめぇの意思や意識がなくなった時点で終わりだ。
「今から1週間後に出発。準備してくれ。俺はこれから女神に会う」
皆一斉にうなずく。
さて、この間あったばかりだけどな。
リリーの言う通り、裏はとっておいた方がいいな。
◇
深淵の女神の神殿。
「あら、またすぐに会いにきてくれるなんて嬉しいわ」
おいおい今、玉座だったよな?
ベッドルームへ即座に変わるってお前……。
「ああ、お前の依頼なのか確認したい事があってな」
「あら、何かしら下々の者にはいくつか伝えてあるけど?」
「存在証明に赤い印のついた勇者は消す。出したか?」
「ああ、それね。だいぶ前に出したけど、誰もやらないからせっついたの」
「それな、巡り巡って俺のところにきたぜ?」
「え? 嬉しい。是明がしてくれるなら間違いないわ」
「なるほどな、せっついて尻に火がついたヤツがいるわけか」
「たしか教会で神託はしたわ。そのあとは知らないわ」
「まあ、お前はそれでいい」
「いくんでしょ? 光明の女神の存在証明を持つあなたには少し大変かもね」
「何がだ?」
「狂信者が多いのよ、その女神教。あなた、消滅させすぎないようにね」
「ん? 俺はいつも通りだ」
「光明の女神の神威も近いものがあるから、あなたは加減した方がいいわよ? 地域ごと消しちゃうから」
「おいおい、大げさすぎやしねぇか?」
「わたし、力のことで冗談は言わないわ」
「それもそうだな。忠告助かる」
「え?」
「なんだよ」
「あなたに感謝されるなんて」
「おいおいいつも感謝しているだろ?」
「もう、嘘つきなんだから」
「おいよせって」
女神と再び横になった。
◇
まどろむ女神。
「ねぇ、いつも聞くけど。もう帰るの?」
「ああ、準備があるからな」
「あたしの加護はいらないだろうけど、これ持っていって」
「なんだこれ?」
「その時がくればわかるわ。つけてあげる」
ネックレス。
ただの素朴なヤツだ。
見た目だけはな。
「ああ、ありがとな」
「キャー!」
「おいおいどうした」
「あなたがありがとうなんていうから」
「はあ?」
「胸がぎゅんときたわ、ぎゅんとね」
「そうかいそうかい」
「ねぇ。しばらく来れないと思うけど、早く来て」
「ああ、来れたら来るな」
裏はとれた。
まさか加減しろとはな。
俺は、後ろ手に振り、部屋を出た。
◇
1週間後。
「皆、準備はいいか?」
「はい大丈夫です」
リリーは元気がいい。
「ねぇねぇ、是明こそ大丈夫なの?」
相変わらずポコポコだ。
「私も準備は問題ないわ」
在香はしっかりしている。
「そんじゃいくかアウリア大陸へ」
俺たちは、徴税局の転移魔法陣の金色の方へ乗る。
さてどうなるやら。
「いくぜ!」
俺たちは金色の粒子に包まれた。
――始動編 完 / 次回よりアウリア編――




